今自分たちが面白いと思うものを、胸を張って提示したい
──本作はPLATで上演されたあと、東京ではすみだパークシアター倉で上演されます。会場の広さや雰囲気がかなり違いますが、どんな演出になりそうですか?
PLATは開放的な風通しの良い空間で、すみだパークシアター倉は倉庫のような面白さ。両方違う良さがありますが、倉はPLATよりも物理的に狭いので、すみだサイズの演出にしておかないといけないだろうなというのは、苦しいところではあります(笑)。ただ、今回のようなゴミゴミした東京感のある作品をKAKUTAではあまりやってこなかったですし、それを豊橋へ持って行ったこともないので、そういう空気感も見ていただけたらと思います。舞台美術は……作り込めないでしょうね(笑)。でも劇団員だけでやろうと決めたときから、限られたセットで、自分たちの力で世界観を立ち上げるイメージはあって、例えば一斗缶やビールケースだけで場を表現するような、本当にお客さんの想像力を使っていただく演出になると思います。
──劇団員の方たちへの信頼関係があればこそ、という演出になりそうです。
ここ数年で入ったメンバーは、素晴らしいゲストの方や信頼できるスタッフの方たちのおかげで、すごく恵まれた環境の中でやってきたと思うんですね。でも劇団結成当初は本当に何もないところで、箱馬だけ置いて演じていたので、久しぶりにそこへ立ち返ってみようというか。創作遊びをしながら作っていこうと思っています。すでに信頼関係ができているというよりは、「今まで以上に信頼をかけさせていただきます!」というような(笑)、そういう感じです。でも今、みんなめちゃくちゃ楽しそうにやってるんですよ。緊張感やプレッシャー以上に、やる気や楽しさを感じてやってくれているのがわかるので、それもうれしいです。
──準備から楽しむ、“文化祭”という目標を達成していますね。ただ、KAKUTAの作品のバリエーションから考えると、もっと“文化祭”的な賑々しい演目の可能性もあるのかなと思ったのですが、今回そうではない選択をしたのはなぜですか?
昨年の段階では、デルタ株の存在も知らなかったですし、ワクチン接種が進んで、感染状況ももっと改善されていると思っていたので、お客さん参加型のような演目を想定していました。でも現実的にそういった形はまだ難しいので、せめて舞台上はにぎやかに、という方向で考えたところがあります。
──なるほど、企画性に向けるエネルギーが作品の中にすべて盛り込まれたんですね。
ええ(笑)。でも以前より怖くなったのは、作品の中であっても気楽に書けることが少なくなってきたというか、作品の中にも正しさを求められている気がしてしまうことです。世の中でダメとされているものは等しくダメ、とされてしまいがちなので、社会的にダメと言われることをしている人たちを書くのは、すごく難しいなと感じました。
──と言いつつ、今回もさまざまな問題に斬り込んでいると思います。
あははは! まあ、同情されない人を主人公にして、お客さんが同情できないまま終わってしまっても、それはそれで良いと思って書いたところはあります。そう思うようになったのは、4月に出演させていただいた松尾スズキさん作・演出の「シブヤデアイマショウ」(参照:松尾スズキが手がける“大人のための”「シブヤデアイマショウ」)や、7月から8月にかけて上演された福原(充則)くんの「ミュージカル『衛生』~リズム&バキューム~」(参照:“おしも”連発!ミュージカル「衛生」に古田新太「思いっきり汚いものを見せます」)の影響があります。松尾さんは、世間に対して思うことを作品に昇華し笑いにしていて、芸術家はこういうふうに表現すれば良いんだと現場で体感させてもらいました。「衛生」は、コロナ禍の時代にこんなびろうな話をよくやったなというような内容で(笑)、お客さんを励まそうとか勇気付けたいという押し付けが一切なく、自分が本当にやってみたいことを面白がってやっていることに勇気をもらいました。それで、私もそういうことをやろうと思えたんです。「或る、ノライヌ」が、これまでの作品群と比べてどういう評価をされるかはわかりませんが、今、私たちが面白いと思うものを提供しました、という点で胸を張ってやりきりたいと思います。
演る人も観る人も協力し合って、楽しい時間に
──「或る、ノライヌ」は、「ぷらっと文化祭」の看板演目として初日から3日間にわたり上演されます。
「Art Platter」というタイトルが決まる前に、いろいろなジャンルの獣たちが集まって来るというイメージがあったんですね。PLATという大きな森に、飛べるとか泳げるとか、いろいろな力を持った獣たちが集まってくるイメージ。なので、まずは犬から始めさせていただきます!(笑)
──(笑)。お客様にはどんなふうにこの「ぷらっと文化祭」を楽しんでほしいですか?
演劇もそうですが、この1年半、文化芸術のジャンルに関わっている人たちは、どうやったらお客さんにも自分にも感染を広げずにできるのか、急速なスピードで研究してきたと思います。「何でも危険!」というところから少しずつ学習して、どういう状態が危険なのか、どういう対策が必要なのか、PLATでもさまざまな検証を重ねてきました。もちろん、「絶対に安全です」と断言できるわけではありませんが、今回の「ぷらっと文化祭」も、安全に文化芸術を楽しんでもらえる方法を常に考えながら、最大限の対策を取り、粛々と準備していますし、お客様にも感染症対策に協力していただきながら、みんなで協力し合って楽しめたらと思います。
- 桑原裕子(クワバラユウコ)
- 東京都生まれ。主宰するKAKUTAでは作・演出を兼ね、俳優としては結成以後ほぼ全作品に出演。2010年から2013年にブロードウェイミュージカル「ピーターパン」の潤色・作詞・演出を務めた。2018年4月、愛知・穂の国とよはし芸術劇場PLAT芸術文化アドバイザーに就任。KAKUTA「甘い丘」の再演で2009年に第64回文化庁芸術祭・芸術祭新人賞(脚本・演出)を受賞。2015年「痕跡」が第59回岸田國士戯曲賞候補となったほか、第18回鶴屋南北戯曲賞受賞。2018年、「荒れ野」が第5回ハヤカワ「悲劇喜劇」賞、2019年第70回読売文学賞戯曲・シナリオ賞受賞。また劇団作品「ひとよ」が白石和彌監督で映画化された。
総合企画は桑原さんですが、桑原さん発案の企画に劇場から提案したいくつかのプログラムを合体させたら、こんなすごいことになってしまいました(笑)。
Gentle Forest Jazz Bandが出演する9月19日は、実はもともと海外のミュージシャンの企画をやる予定だったんです。でもコロナ禍で招聘は無理だろうということになり、国内アーティストで良い方を探していたところ、紹介していただいて。豊橋でビックバンドジャズが反応が良かったという過去の実績もあり、かつ映像を拝見して面白いなと思ったので、Gentle Forest Jazz Bandに出演を依頼しました。
ダンボールアートの玉田多紀さんは、多摩美術大学造形表現学部の出身で、2010年に世田谷区芸術アワード“飛翔”生活デザイン部門を受賞されている方です。PLAT開館のときにも来ていただいたことがあるんですけど、桑原さんに紹介したら「とても良いですね」と言っていただいたので、アート部門は玉田さんにお願いしました。PLATのさまざまな場所で作品が展示されるほか、もう受付は終了しているのですが、段ボールを使った親子向けのワークショップなどもやっていただきます。
「写真と映画のワークショップ」では、愛知大学助教の上田謙太郎さんに講師に入っていただき、愛知大学の学生さんにも手伝ってもらってワークショップを行います。またちょっと毛色は異なりますが、「哲学対話ワークショップ 問う・考える・語る・聞くを知る」は平田満さんの提案企画です。以前、平田さんはこの「哲学対話ワークショップ」に参加されたことがあって、昔話などをキーに、自分の考えをほかの人に共有していったそうなんですが、非常に良かったとおっしゃっていました。
小島聖さんと平松麻さんの「おもいつきの声と色『みんなで作る紙芝居』」では、まずは小島さんがもとになる紙芝居を聞かせて、そのうえで参加者の人たちに好きな絵を描いてもらうというもの。できあがった絵を紙芝居に組み合わせて、お話の中にも入れ込みながら、その日だけの紙芝居を完成させるというワークショップになります。
「ドキュメント映像上映会」は、昨年度実施した「高校生と創る演劇『Yに浮かぶ』」と、「市民と創造する演劇『甘い丘』」のドキュメント映像になります。撮影・編集は、チェルフィッチュの映像演劇を手がけている山田晋平さん。山田さんはPLATの近所にアトリエを構えていらっしゃって、そんなご縁から撮影をお願いしました。映像には一部舞台の様子も入りますが、それ以上に創作のプロセスとかどういう人が関わっているかを捉えた内容になっています……と、いつの間にかものすごいラインナップになってしまいました(笑)。
桑原さんが「学生たちが自分たちの居たい居方で、自由に交流スクエアで滞在できるのが良い」とおっしゃいましたが、私もPLATの良い点はそこかなと思います。「ぷらっと文化祭」も、「これが観たい」という目的がなくても、アレコレやっているところにフラッと立ち寄っていただいて、安心して自由な時間を過ごしてほしいと思います。いろいろとリラックスしにくい状況ではありますが、劇場で少しゆったりできるような、そんな時間を過ごしていただければ幸いです。
KAKUTA「或る、ノライヌ」
2021年9月17日(金)~19日(日)
アートスペース作・演出:桑原裕子
出演:桑原裕子、成清正紀、若狭勝也、四浦麻希、異儀田夏葉、多田香織、谷恭輔、酒井晴江、森崎健康、細村雄志、矢田未来、高野由紀子
「えほんとことばの森 読み聞かせ」
2021年9月18日(土)~20日(月・祝)
創造活動室B読み手:(18日10:30~12:00)井上加奈子、平田満 / (18日13:30~16:00、19日10:30~12:00、20日 13:30~16:00)添野豪、四條久美子
「玉田多紀 ダンボールアート展」
2021年9月17日(金)~20日(月・祝)
研修室 大、研修室 小 ほか「柳家喬太郎 独演会」
2021年9月18日(土)
主ホール「写真と映画のワークショップ『再現写真とよはし』『危機一髪!映画』」
2021年9月18日(土)~20日(月・祝)
創造活動室C講師:上田謙太郎
「陽気にスウィング!ジェントル・フォレスト・ジャズ・バンド」
2021年9月19日(日)
主ホール出演:Gentle Forest Jazz Band、Gentle Forest Sisters、リンディーホップ
「哲学対話ワークショップ 問う・考える・語る・聞くを知る」
2021年9月19日(日)
創造活動室B講師:梶谷真司
「アコースティックライブ」
2021年9月20日(月・祝)
主ホール出演:中村中、アルケミスト、中尾諭介
「ドキュメント映像上映会」
2021年9月20日(月・祝)
創造活動室A撮影・編集:山田晋平
上映作品:「みんわとみらい」(高校生と創る演劇「Yに浮かぶ」創作と上演の記録) / 「丘の地層」(市民と創造する演劇「甘い丘」創作と上演の記録)
「おもいつきの声と色『みんなでつくる紙芝居』」
2021年9月20日(月・祝)
創造活動室B講師:おもいつきの声と色(小島聖、平松麻)
「ダンボールアートワークショップ『ダンボールで好きな生き物を作ろう』」
2021年9月20日(月・祝)
北側広場講師:玉田多紀