「変なことをしないように……」という意識を持たずに現場で過ごせるようになった(七木)
──七木さんのことは、以前のインタビューで茅野さんも佐藤さんも「変わっている」「一筋縄ではいかない」とおっしゃっていましたね。
茅野 うん、変わっていますよね(笑)。
七木 子供時代から変わってると言われてきて……事務所の方からも小学生のときに、変なことを言ったりやったりしないように言われたんですよ(笑)。ずっとそれを意識して生きて来たので……ちょっと後悔しているところはあるんですけど。
佐藤 あ、治ってないから、大丈夫、大丈夫!
──「大丈夫」というのは、「相変わらず変わっているよ、面白いままだよ」ということですか?
佐藤 そうですね。
七木 最近ようやく、「変なことをしないように……」という意識を持たずに現場で過ごせるようになって、良かったです(笑)。
佐藤 ボケ・ツッコミの質が、ほかの人とだいぶ違うんです。シュールというか。
茅野 うんうん。もちろん悪口ではないんですよ。意表をついた受け答えをするのが面白くて。例えば……儚は色白という設定なのに、留学先から真っ黒に日焼けして帰って来たんです。そのことを指摘したら「えへへ、申し訳ネエッ!」ってすごく変なポーズをして謝ってきたんですよ(笑)。今はこんなふうにシュッとしていますけど。
七木 (笑)。
──佐藤さんは以前のインタビューで茅野さんのことを、とても厳しくて怖い方で「最初は本当に鬼だと思っていました(笑)。もしくはライオン」とおっしゃっていましたね。今回はどんなふうに感じていますか?
佐藤 うーん、厳しくて怖いからライオンというより、四字熟語で言ったら“威風堂々”だからライオン、なんじゃないですかね。
茅野 俺が演技しているとき以外は、でしょう。演出しているときだけ。
佐藤 (笑)。
──七木さんは茅野さんをどう見ていらっしゃいますか?
七木 初めてご一緒したときからずっと、演劇に対しても人に対しても、すごく愛のある方だなという印象です。怖いと思ったことはないですし、厳しいのは作品を良くするためなので、当たり前のことなのかなと。いつも「その通りだ」と思うことばかりですね。
喉笛を食いちぎられるんじゃないか、という気迫を感じる(佐藤)
──今、茅野さんが「俺が演技しているとき以外は」とおっしゃいましたが、今回茅野さんは博打打ちのゾロ政役としても出演されます。佐藤さんのライバル役として、お二人が火花を散らすシーンもありますね。
佐藤 いや茅野さん、すごいですよ、本当に。すごいとしか言いようがない。俺がなぶられるようなシーンがあるんですけど、逃げ出すこともできないので……喉笛を食いちぎられるんじゃないかっていうくらいの気迫がありますね。
茅野 役者としては流司のほうが現役バリバリだし、力もある。だから俺の中では今、「流司には絶対負けねえ!」っていうのがモチベーションになっています(笑)。
佐藤 うわあ……。
茅野 前から「流司と演技で絡んでみてえなあ」と思ってたんだよ。舞台に立ったら、誰もが裸になって、自分の持っているものを全部さらさないといけない。人間としてどうなのかが試されることになるのでね……負けられないなと。戦うだけじゃなくて一緒に作り上げていくんだけれど。
──七木さんから見た役者としての茅野さんは?
七木 演出家の茅野さんとはまた違った迫力があります。茅野さんがいつもおっしゃっている“相手の感情を引き出すための芝居”をしているのを、ビシビシ感じますね。流司さんと2人で稽古しているのを、ずっとワクワクしながら見て、学んでいます。
茅野 演出をしているときにはそう言ってるんだけど……実際に自分はできるのかが試されるなと、ドキドキしています(笑)。
性を扱う作品では、2人の清潔な感じがすごく大事(茅野)
──「生まれてから100日以内に儚を抱けば、水になってしまう」という筋からもわかるように、「いとしの儚」は“性愛”のお話でもありますね。直接的な表現が使われる場面もありますが、どんなところに難しさや面白さを感じていますか?
佐藤 あの……自分も奏音も、異性と交わるような芝居が本当に得意じゃないんです。でも……だからこそ支え合ってやれている気がしていて。どちらかがめちゃくちゃ得意だったら、なかなか成立していないだろうなと思いますね。
──確かに、お二人が多く出ていらっしゃる2.5次元のお芝居にはラブシーンはあまりありませんね。その感覚をお二人で共有されていて一緒に作っていけるのは良いですね。
佐藤 そうですね。抱きしめたり、くすぐったりするときに、どこ触ってもいいぜ!みたいな気持ちでは、当然いないじゃないですか。だけど同時に、のびのびできている感じもしていて……。
七木 そうですね。ぎこちないところもたくさんありますけど。
佐藤 難しいよね。
茅野 僕はね、2人のこの清潔な感じがすごく大事だと思っていて。性を扱うと下品になりかねないじゃないですか。今、流司が言ったようなボディタッチもト書きで指定されていたりするわけだけど、僕は「触るって書いてあったら触るのが役者なんだよ!」っていう考え方はあんまり好きじゃなくて。「だったら殺す場面では本当に殺すんですか?」って思うんですよ。実際にしていなくても、どれだけ本当のことに見せるか、嘘を真実以上の真実にするのがお芝居なので。
恋人でもない人とキスするのは、言い方は悪いけど異常なことなんですよ。それを異常だと思わなくなるのは、役者として良いことじゃないと僕は思う。流司も奏音もちゃんとそれが異常だとわかっていて、線引きができているんですよね。だからこそ、越えるべきときに線を越えると、観ている側にカタルシスが生まれるんだと思います。
──最後まで脚本を読んだとき、本当に素敵な愛の物語を味わったなと思いました。愛の部分に関して、特に感じたことがあれば教えていただけますか?
佐藤 愛の部分ですか……そもそも、愛の物語としてしか見ていないかもしれないです。儚と出会ってから100日の間、鈴次郎が儚にずっと愛情を注ぎ続ける話だと思います。
七木 今、儚を探りながら、1つの愛だけじゃなくて……鈴次郎に対しても、儚の自分の思いに対しても、本当にたくさんの愛がある物語だなと感じています。
茅野 僕は、愛って“生”と“性”なんだな、と思うんですよ。今って、肉体と心を分けすぎている感じがしていて。性欲のようなものは表に出しちゃいけないとか、ものを作るときにもちょっと覆い隠して表現しなくちゃいけないみたいな感じがある。でもそれ抜きには愛を語れない部分もあるよな、と思います。
10年後に「旗揚げ公演で『いとしの儚』を観たんだよ」と言ってほしい(茅野)
──悪童会議の旗揚げ公演「いとしの儚」が7月6日にいよいよ開幕します。本作を楽しみにされている皆さん、また舞台ファンの方たちに、一言いただけますか?
佐藤 いやあ、本当に観てください!ですね。まじで、まじで、良い作品なので。良い気分で、すっきりして帰れるかどうかは正直わからないんです。観る人によって違うと思うんですが、「良いもん観たなあ」とは思えるはずです。舞台に限らず、映画もドラマも、風景とかプラネタリウムとかも全部そうですけど、まずは観ないと、感動もできないので。百聞は一見にしかず、です!
七木 お芝居が好きな人も、もともとこのお話を知っていて興味がある方も、役者さんのことが好きな方も……私たちと一緒にこの物語に出会ってほしいな、と感じています。一度観劇から離れてしまった方にも「演劇ってすごく良いな」と思ってもらえると思います。
茅野 この悪童会議というカンパニーの代表の立場からお話しすると……実は、旗揚げに立ち会う機会って、そう多くないと思っているんです。悪童会議がこの先どうなっていくかはわからないですけど、10年後に「旗揚げ公演で『いとしの儚』を観たんだよ」って言ってもらえたらいいなと。そして僕の夢は、「いとしの儚」を再演することです。まずは今出てくれている役者たちが、またやりたいと思ってくれること、お客様がまた観たいと思ってくれることが条件なんですが。すごく良い脚本ですし、僕らが公演を重ねることでもっと力をつけて、この作品をもっと深い物にしていきたいと今から思っていてます。そのためにも、ぜひ観ていただきたいです!
プロフィール
茅野イサム(カヤノイサム)
演出家。1986年、善人会議(現・扉座)に俳優として入団。2002年に上演された「そらにさからふもの」より、演出家としての活動を開始する。近年の主な演出作に「舞台『東京喰種トーキョーグール』」「ミュージカル『刀剣乱舞』」「犬夜叉」など。9月に「ミュージカル『刀剣乱舞』 ㊇ 乱舞野外祭」の公演を控える。
佐藤流司(サトウリュウジ)
1995年、宮城県生まれ。俳優・歌手。2011年、特撮ドラマ「仮面ライダーフォーゼ」の佐竹輝彦役で俳優デビュー。以後、「ミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズン」財前光役、「ライブ・スペクタクル –NARUTO-」うちはサスケ役、「學蘭歌劇『帝一の國』」久我信士役、「ミュージカル『刀剣乱舞』」加洲清光役などを務める。10・11月に「ライブ・スペクタクル『NARUTO-ナルト-』~忍の生きる道~」に出演予定。
七木奏音(ナナキカノン)
1997年生まれ。俳優・声優。「ミュージカル『美少女戦士セーラームーン』セーラーマーズ / 火野レイ役、「少女☆歌劇 レヴュースタァライト」柳小春役などで知られる。8月に舞台「転生したらスライムだった件」、8・9月に「ミュージカル『憂国のモリアーティ』Op.5 -最後の事件-」、10・11月に「ライブ・スペクタクル『NARUTO-ナルト-』~忍の生きる道~」に出演予定。
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