ステージナタリー Power Push - あいちトリエンナーレ2016
世界の舞台芸術が愛知に集まる!あいちトリエンナーレ2016“レインボーウィークス”
身体をいかにモディファイするか
──ドゥクフレ作品では、ビジュアル面の魅力も欠かせません。「CONTACT」にも、花弁のようなドレスやとてつもなく大きな飾りがついた帽子など、一度見たら忘れられない印象的な衣装や小道具がたくさん登場します。そういったビジュアル面へのこだわりは、どこに原点があるのでしょう。
私は幼い頃、「その小さな身体ではスポーツができないね」と言われて育ちました。また18歳のときに、一番の親友が病気で片足を切断したんですね。それらの体験から、身体をどうモディファイ(改造)するかということに非常に興味がありました。それで、衣装や小道具、アクセサリーで身体をモディファイするようになったんです。学校で友達と、袖が4本あるジャケットを作ったこともあるんですよ!
──舞台への興味は、いつ頃から持っていたんですか?
母がダンサーになりたかった人で、その思いが私に受け継がれたのでしょうね。「天井桟敷の人々」という映画を、家族でカルト的に愛していたのですが(笑)、あの作品を観て舞台に関わる仕事がしたいなと思いました。幼い頃から人形やぬいぐるみを使ってお芝居を作っていて、出演させる人形の衣装は、自分で作っていたりもしましたね。13歳のとき、身体表現のサマースクールに参加して、とてもいい先生に出会いました。舞台芸術に対してすごく開けたビジョンを持っている人で、例えば火、風、水といった世界の5要素を自由に表現する、といった授業を受けたんです。15歳で義務教育を終えるとサーカスの学校に入りますが、サーカスアーティストになるには強い肉体がないと難しいと感じて、それには向いてないなと断念。その後、今度はマルセル・マルソーのパントマイム学校に入り、それもすごく面白かったんですけど、パントマイムはいかんせん19世紀の芸術だと思いました。 ちょうどそのころ、フランスはモダンダンスの全盛期だったんです。それまでダンスというとタイツをはいて踊るイメージがあったんですけど、モダンダンスは芸術の一形態としていろいろなことを語れる可能性があるなと感じて、また自分の肉体もダンスに向いていると思ったのでそちらに進みました。そのあと奨学金をもらってニューヨークに行き、そこでもいい先生に出会うんですが、帰国後にバニョレ国際振付賞をもらったことで、この道に進むことが決定的になりました。
──帰国後、さまざまなアーティストと一緒にお仕事されています。
とてもロックな振付をするレジーヌ・ショピノや、ファッションデザイナーのジャン=ポール・ゴルチエなど大切な出会いがありましたね。ただ、いろいろな人と仕事をするうちに、徐々に「自分ならこうするのにな」という思いがわいてきて。また、当時はまだヒッピー文化の影響が残っていて、モダンダンスにもその傾向が見られました。でも私はヒッピーのふわふわした音楽ではなく、子供の頃から好きだったロックンロールのエネルギッシュさを具現化するようなダンスがやりたいと思っていたので、1983年にカンパニーDCAを立ち上げたんです。
──その後、1986年に上演された「コデックス」が注目を浴び、1989年のフランス革命200年祭ではシャンゼリゼ通りで行われた記念パレードの振付を担当。1992年には、31歳の若さでアルベールビル冬季オリンピックの開・閉会式の演出を手掛けるなど、ファンタジックかつダイナミックな作風は世界に広く知られるようになりました。
最初の作品「コデックス」の創作に大きな影響を与えた本があるんです。1970年代にルイジ・セラフィーニというイタリア人が書いた「コデックス・セラフィニアヌス」という本なんですが、細菌のことやらファッションのことやら、本当になんでもつめ込まれている一種のプロペディア本で。この本にニューヨークで出会ったとき、「これは天啓だ!」と思いました。というのも、この本、なんとセラフィーニが発明した言語で書かれているんです! なので読んでも意味はちんぷんかんぷんなんですけど、でもある種の一貫性があって、面白かった。その本との出会いから、たとえ非常に抽象的なことやクレイジーなことであっても、それを極めてプロフェッショナルにしてしまえば、人には何かが伝わるし豊かなものになるんだと気づきました。「コデックス」はまさにその路線(笑)。内容はたぶん私しか理解できないと思うんですけど、理解は重要ではなくて、それを観たことによって観客が私の世界を共有する、そのことが大事なんだと……すでに最初の作品から、そういった思いでした。
──カンパニー立ち上げから今年で33年。近年はますます活動の幅が広がっていますが、ご自身のカンパニーでの創作と外部とでは違いがありますか?
違いますね、やっぱり。自分のカンパニーのメンバーは家族のようだし、本当にカップルもいて、実際にこの「CONTACT」のクリエーションから本番までの間に子供が2人産まれているんです(笑)。 私にとって、作品に出演してくれるすべてのダンサーはエトワール。ダンサーには、難しい振りを踊りたい人、完璧主義の人、そうでない人といろいろいて、それぞれが違った理由で好きだし、大切です。この「CONTACT」はダンサーとミュージシャンが計16人も舞台に登場する、私がカンパニーのために作ったものとしては一番規模が大きな作品です。そのような作品を日本の方に観ていただけるのは、本当に本当にうれしいです。
「CONTACT」公演情報
愛知公演
あいちトリエンナーレ2016
日程:2016年10月15日(土)19:30、16日(日)16:00
会場:愛知県芸術劇場 〈大ホール〉
チケット:SS席8000円、S席6000円、A席4000円(学生2000円)
チケットに関する問い合わせ:クラシック名古屋 052-678-5310
公演に関する問い合わせ:あいちトリエンナーレ実行委員会事務局 052-971-6111
新潟公演
日程:2016年10月22日(土)18:00、23日(日)14:00
会場:りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館〈劇場〉
チケット:一般6,000円、U25(25歳以下)3,000円
問い合わせ:りゅーとぴあチケット専用ダイヤル025-224-5521
埼玉公演
日程:2016年10月28日(金)19:00、29日(土)15:00、30日(日)15:00
会場:彩の国さいたま芸術劇場〈大ホール〉
チケット:S席一般6500円、S席U25(25歳以下)3500円、A席一般4000円、A席U25(25歳以下)2000円
問い合わせ:SAFチケットセンター 0570-064-939(彩の国さいたま芸術劇場休館日を除く10:00~19:00)
- アジアン・サウンズ・リサーチ(プロジェクト・ディレクター:Sachiko M)「OPEN GATE 2016」
- 2016年10月6日(木)~10日(月・祝)
愛知県 岡崎シビコ - イスラエル・ガルバン「SOLO」
- 2016年10月7日(金)~9日(日)
愛知県 愛知県芸術劇場 小ホール - アニマル・レリジョン「Chicken Legz」
- 2016年10月8日(土)~10日(月・祝)
愛知県 豊橋公園 - イスラエル・ガルバン「FLA.CO.MEN」
- 2016年10月15日(土)・16日(日)
愛知県 名古屋市芸術創造センター - カンパニーDCA/フィリップ・ドゥクフレ
「CONTACT」 - 2016年10月15日(土)・16日(日)
愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール - カンパニー・ディディエ・テロン
「AIR」 - 2016年10月21日(金)・22日(土)
愛知県 名古屋市美術館サンクンガーデン - 「LA GRANDE PHRASE」
- 2016年10月22日(土)・23日(日)
愛知県 長者町会場 - 小杉武久
「MUSIC EXPANDED #1」 - 2016年10月22日(土)
愛知県 愛知県芸術劇場 小ホール - 「MUSIC EXPANDED #2」
- 2016年10月23日(日)
愛知県 愛知県芸術劇場 小ホール - Co.山田うん「いきのね」
- 2016年10月22日(土)・23日(日)
愛知県 名古屋市芸術創造センター - 青木涼子「秘密の閨(ねや)」
- 2016年10月23日(日)
愛知県 名古屋市青少年文化センター(アートピア)
フィリップ・ドゥクフレ
振付家、演出家。パリ生まれ。1983年にカンパニーDCAを設立。若くしてフランス革命200周年祭やアルベールビル冬季オリンピック開・閉会式の演出を手掛け、注目を集める。日本との親交が深く、来日公演も多数。2014年に「PANORAMA―パノラマ」で8年ぶりの日本ツアーを行い、大きな話題を呼んだ。2016年、サーカス集団シルク・ドゥ・ソレイユの新作ミュージカル「Paramour」でブロードウェイ進出を果たし、2016年12月から2017年1月には楳図かずお原作のミュージカル「わたしは真悟」の演出・振付を手掛けることが決定している。