ステージナタリー Power Push - あいちトリエンナーレ2016
世界の舞台芸術が愛知に集まる!あいちトリエンナーレ2016“レインボーウィークス”
セリフはアクセントとして
──ミュージカルとなると、歌詞など言葉の制約が出てきますね。言葉を用いない、ノンバーバルなパフォーマンス作品を多数手がけてきたドゥクフレさんが、言葉の制約にどう取り組むのか、気になります。
そうですね。確かに「CONTACT」にはセリフがあります。ですが、重要なのはあくまでもダンスと音楽で、セリフはアクセントとして入ってくるもの、という感じです。私にとってダンスは、「すべての人間が踊るべきだ!」と思うくらい、とても重要なもの。クラブで踊ったことがある方ならおわかりと思いますが、ダンスはナチュラルドラッグな感じになれるというか、お金を使わずにハイになることができるんですね(笑)。さらに私は「CONTACT」を通して、歌もダンスと同じ効果をもたらすということを発見しました。歌は、身体の中にすばらしいセンセーションを巻き起こすんです。なので「CONTACT」では、声を“語り”のツールとしてではなく、ある種の楽器のように使っています。例えば、ファウストが自分を神のように感じて語るシーンでは、普通にセリフを言わせるのではなく歌にして、ポエティックに聞こえるように演出しました。また“神様の表面積を測る”というシーンでは、フランス人が聞いても全く意味がわからない言葉で語っています(笑)。なので、言葉を使うことは使うのですが、意味がわからないからといって作品の理解を妨げるような使い方ではないんです。
──それを聞いて安心しました(笑)。ダイジェスト映像では、非常に多様なシーンが出てきたのですが、一体いくつくらいのシーンが、どのように展開していくのでしょうか?
いくつだろう……。というのも、シーンとシーンのつなぎ目がシームレスなので、数えるのが難しいんです。映像を使ったシーンもありますが、映像とダンスの織り交ぜ方は、パリ郊外にある私の“ラボ”で長い試行錯誤を経て完成しました。ただ映像とか、何かテクノロジーを用いる際に私が注意しているのは、前景に出てくるのはあくまでライブパフォーマンスでないといけないということ。数年前に赤外線を使うといろいろ面白いことができるとわかって、それは「CONTACT」でも使用していますが、やっぱり技術ありきではなくて、舞台で何かやりたいことがあるとき、必要があるときにこそ取り入れたいなと。そういう点で、今後やってみたいと思っているのはサンプラーの技術を使ったもの。音楽ではすでにありますが、それをダンスで表現できないかと思っています。
──それは楽しみですね。また、「CONTACT」ではミュージシャンも舞台上で生演奏をします。書き下ろし楽曲とのことですが、どんな音楽なのでしょうか?
今回、ミュージシャンが2人参加していますが、2人とも非常に幅広い才能の持ち主なので、彼らに「どんなジャンルの音楽なの?」と聞いても、明確には答えられないと思います(笑)。その1人、ピエール・ル・ブルジョワさんの専門はチェロで、私はチェロってすごく可能性が広い楽器だと思うんですが、彼はクラシックな手法でチェロを弾くのではなく、サンプリングで何層にも音を重ねるようにして演奏していて、非常に刺激を受けます。しかし、彼らミュージシャンにとっても、私たちと創作することは刺激になっていると思います。ダンスのための音楽という点でも新鮮でしょうし、私はいつもミュージシャンに、5拍子か7拍子の音楽を書いてほしいとお願いするんですが、それは彼らが普段自分たちのアルバムのために作曲するものとは全く違いますから、そういう意味でも新しい体験なのではないでしょうか。
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フィリップ・ドゥクフレ
振付家、演出家。パリ生まれ。1983年にカンパニーDCAを設立。若くしてフランス革命200周年祭やアルベールビル冬季オリンピック開・閉会式の演出を手掛け、注目を集める。日本との親交が深く、来日公演も多数。2014年に「PANORAMA―パノラマ」で8年ぶりの日本ツアーを行い、大きな話題を呼んだ。2016年、サーカス集団シルク・ドゥ・ソレイユの新作ミュージカル「Paramour」でブロードウェイ進出を果たし、2016年12月から2017年1月には楳図かずお原作のミュージカル「わたしは真悟」の演出・振付を手掛けることが決定している。