鈴村健一&川尻恵太が仕掛ける予測不能な即興劇「AD-LIVE 2022」

鈴村健一が総合プロデューサーを務める即興劇「AD-LIVEアドリブ」の季節が今年もやってきた。2018年に10周年を迎えて以降も、毎回進化を続ける「AD-LIVE」。これまで声優陣を中心としたキャスティングで上演されてきた「AD-LIVE」に、今回は2.5次元舞台を中心にドラマ、映画と幅広く活躍する俳優陣が参戦する。“声優×俳優”というプランはどのようにして生まれたものなのか? 総合プロデューサーの鈴村、演出チームとして参加する川尻恵太に、例年よりもさらに予測不能な今年の「AD-LIVE」の見どころを聞いた。

取材・文 / 興野汐里撮影 / 藤記美帆

和田雅成は“覚醒”なるか、陳内将はジョーカー的な存在?

──「AD-LIVE」にはこれまで多彩な声優陣が参加されてきました。今回の「AD-LIVE 2022」では、声優陣に加え、舞台を主戦場に活躍する俳優の方々が出演されます。このアイデアはどのようにして生まれたものだったのでしょうか?

鈴村健一 これまでの「AD-LIVE」は1対1の構図が多くて、キャラクターAとキャラクターBを演じるキャストが対立構造になることでドラマを作っていたんですけど、2人が協力して何かを成し遂げるような作り方ができないかという話になって。検証していくうちに、2人だけでなく複数人が必要だということがわかったんです。それで今回は、出演者の3人が同じ目的を共有しつつも、それぞれに思惑があるという形式を取ることになりました。キャストが3人いるので、せっかくなら1人は声優以外の人に出てもらいたい。これは、僕がずっと温めていた構想で、川尻さんにもだいぶ前から相談していたんです。

川尻恵太 そうですね。俳優さんと一緒にやりたいというプランは、実は何年も前からテーマや構造を決める会議などで話題に挙がっていたんです。

鈴村 今回の公演はテレビ局を舞台にした“痛快群像劇!”ということで、お話の流れ的にも、声優ではない人が出演する必然性がある。「これはチャンスだ!」と思ってこの形にさせていただきました。

川尻 最初に俳優さんに出演してもらう案が出たときより、俳優さんと声優さんが一緒にお仕事をすることが増えて、環境的にもやりやすくなったところがあると思います。

「AD-LIVE 2022」出演者

「AD-LIVE 2022」出演者

──今回の公演には、俳優枠として和田雅成さん、陳内将さん、荒牧慶彦さん、鳥越裕貴さん、高橋健介さんがキャスティングされています。J:COMホール八王子公演の初日となる8月27日公演には和田さんが出演しますが、和田さんはどのような立ち回りをすると予想されますか?

川尻 和田雅成くんには“覚醒”を期待しています。彼は常々エチュードを嫌がっていて、「川尻さん、『AD-LIVE』ってどうやってるんですか? 僕は5分のアドリブさえできないのに」と言っていて。「それじゃあ、いつか出てみなよ」って脅しのように言ったことが現実になってしまいました(笑)。でも、エチュードに苦手意識を持っているだけで、和田くんはポテンシャルのある俳優なんです。実際、演技力もトーク力もすごく高い。「AD-LIVE」でドラマを成立させることができれば、穴のない“完璧俳優”に成長するんじゃないかなと。

鈴村 この間ラジオにゲストで来てもらったんですけど、和田さんは本当におしゃべりがじょうず! お芝居も拝見しましたが、すごい集中力がありますよね。エチュードが苦手なんて、にわかに信じがたい(笑)。

鈴村健一

鈴村健一

川尻 責任感が強いから、「うまく作っていかないとダメだ」と思って、自分よりも得意な人に任せちゃうんですよね。エチュードって先に出た人が主導権を握るから、あとになればなるほど負担が重くなるというか。そんな中で和田くんはオチを任されてしまって、うまくいかなかったトラウマがあるみたいです。

鈴村 一番大きい流れを任されちゃうんですね。

川尻 そうです。「あっ、しゃべってないやついるな」ってほかのキャストに見つかっちゃう(笑)。トークではガンガン周りにツッコんでいくタイプなんですけど、彼の中ではトークと演技に明確な違いがあるようで。でも、人は追いつめられると覚醒しますから、今回の「AD-LIVE」で羽が生えて飛ぶかもしれません!(笑)

──和田さんと共演するのは津田健次郎さんと畠中祐さん。この公演はどのような展開になると思われますか?

鈴村 「このメンバーが初日で良かった!」というふうになる気がします。津田さんは正統派でありつつ、どうやってぶっ壊すかを実験するタイプ。演劇という枠組みの中で幅の広い演技をする力が圧倒的なんです。祐くんは集中力がすごいですね。昨年の「AD-LIVE 2021」では祐くんの組が一番まとまっていたんじゃないかと(参照:「AD-LIVE 2021」に杉田智和・諏訪部順一ら13名出演、テーマは「if~建前と本音~」)。そこに、エチュードが苦手な和田さんがどう絡んでいくか。津田さんが演劇のフィールドを作ってくれると思うので、和田さんはきっと“覚醒”できるんじゃないでしょうか。

「AD-LIVE 2022」8月27日公演のビジュアル。

「AD-LIVE 2022」8月27日公演のビジュアル。

川尻 そうですね。和田くんと津田さんは、俳優と声優として同じキャラクターを演じていたりと共通点が多いので、和田くんもある程度リラックスして臨めるんじゃないかなって。津田さんと畠中さん、どちらに乗っかるかを和田くんが選択してストーリーを進めていってくれれば、「AD-LIVE 2022」の基本となる公演になるんじゃないかなと思います。

鈴村 この3人は最高な滑り出しをしてくれそうな気がします。

──和田さんの覚醒に期待ですね。続く東京公演2日目の8月28日公演には、逢坂良太さん、森久保祥太郎さん、陳内さんが出演します。

川尻 陳内くんは飄々としていて、すごく真面目。僕の演出作に出演してもらうとき、積極的にディスカッションをしてくれるんですけど、的を射た答えを出してくれるので、そのたびに演劇IQがすごく高い人だなって思います。このメンバーの中ではベースライン的なところを担うのかなって。手数を多く繰り出すというよりは、短いセリフで局面をひっくり返すタイプな気がしますね。

──普段幅広い役柄を演じられているだけに、陳内さんがどのような出方をするのか、想像がつかないところがあります。

川尻 そうですね。「AD-LIVE」において、キャラクター全開の人ももちろん面白いんですけど、つかみどころのない感じってものすごく武器になると思うんです。

鈴村 何をするかわからない人は一番面白いですからね。

川尻 3人の中では最もジョーカーに近い存在なんじゃないかなと思います。

「AD-LIVE 2022」8月28日公演のビジュアル。

「AD-LIVE 2022」8月28日公演のビジュアル。

──そんな陳内さんと対峙するのは、「AD-LIVE」初参加の逢坂さんと、「AD-LIVE」の常連キャストであり、「AD-LIVE ZERO」でクリエイティブプロデューサーを務めたこともある森久保さん(参照:今年の「AD-LIVE」は鈴村健一×森久保祥太郎、出演者&詳細明らかに)。このお三方の組み合わせも非常に興味深いです。

鈴村 逢坂くんは以前「AD-LIVE」を観に来てくれたことがあって、そのときに「出たい」と言ってくれたんです。今回出演してもらうことが決まったとき「ガッツポーズしました!」って言っていたので、前のめりに臨んでくれるんじゃないかと。そして、森久保さんは手練れ中の手練れ!

川尻 表からも裏からも「AD-LIVE」を知り尽くした森久保さん(笑)。

鈴村 森久保さんはすべてを知る男なので、逢坂くんものびのびできると思います。そこに陳内さんがジョーカー的な役割で加わるのはすごく良いんじゃないかな。

川尻 そうですね。陳内くんはたぶん、森久保さんと逢坂さんがやりたいことを早めに察知して、それに乗っかるか、あるいは違うものを生み出していくんじゃないかと。東京公演の2日間は安心して観ていられそうですね。

鈴村 後半になるにつれて、尻上がりにヤバくなる予感がします(笑)。

川尻 ははは!

左から鈴村健一、川尻恵太。

左から鈴村健一、川尻恵太。

“良い意味でのヤバさ”を持つ荒牧慶彦、レジェンド声優・速水奨が初参加

──会場を森のホール21 大ホールへ移した9月17日公演には、榎木淳弥さん、「AD-LIVE」初参加の島﨑信長さんと荒牧慶彦さんが出演します。

川尻 「AD-LIVE」に俳優さんが出てもらうことになったとき、真っ先に思い浮かんだのが荒牧くんだったんです。彼は俳優だけでなくプロデュース業もやっているから、企画を俯瞰して捉えることができる。新しいことにどんどんチャレンジして、それを自分の力にしている人だから、今回声優さんと一緒にお芝居することによって、彼自身も得るものがあるんじゃないかなと思ったんです。この公演では、荒牧くんの見た目と中身のギャップに注目してほしいですね(笑)。彼の内側からにじみ出る良い意味でのヤバさ、エッジの効いた部分を、「AD-LIVE」で引き出せたらと思います。

「AD-LIVE 2022」9月17日公演のビジュアル。

「AD-LIVE 2022」9月17日公演のビジュアル。

鈴村 荒牧さんと一緒に出るのが、榎木くんと未知数の信長くんでしょう? このチーム、すごいことになりそう!

川尻 榎木さんも島﨑さんもけっこうクラッシャーですもんね。僕、このチームが一番緊張するかもしれないです(笑)。

鈴村 「AD-LIVE 2021」では、森久保さんが何とかドラマをまとめたあとに、榎木くんが最後の1分でひっくり返したことがありましたよね(笑)。ゴングが鳴ったあとに殴りかかってきた! みたいな。

川尻 あれも面白かったなあ。

川尻恵太

川尻恵太

──ここまで俳優の方々を交えた組み合わせが続いてきましたが、千葉公演の2日目には安元洋貴さんに加え、初参加となる江口拓也さん、レジェンド声優・速水奨さんが出演します。

鈴村 「AD-LIVE」にはベテランの方々にも出ていただきたいと思っていて。以前出演してくださった堀内賢雄さんから「速水奨が出たがってるよ」と聞いて、速水さんにお電話したんです。留守電を入れたんですけど、そのときはご連絡をいただけなくて。一度諦めたんですが、今回改めてオファーをしたら快諾していただけました。のちのち判明したんですが、ちょうどその頃携帯を替えたばかりで留守電を聴いていなかったそうで(笑)。

──思いがすれ違ってしまっていたんですね(笑)。

鈴村 そのようです(笑)。速水さんは誰と組んでもらおうかなと考えたときに、昨年いろいろな意味で「AD-LIVE」で大ブレイクした安元くんの顔が浮かんだんです。もう1人は、存在自体がツッコミ待ちの江口くんにしようと思って(笑)。この回は速水さんがどれぐらいぶっ込んでくるのか、逆に裏回し的な立ち位置に行くのかでドラマがまったく違うものになると思います。

「AD-LIVE 2022」9月18日公演のビジュアル。

「AD-LIVE 2022」9月18日公演のビジュアル。

川尻 過去の公演を振り返ると、ベテラン回はおっかないですよね(笑)。

鈴村 想定していないところでおっかないことが起こるんだよなあ。即興劇なので何があっても良いように準備して臨むんですが、ベテラン陣は僕たちの想像のはるか上をいくっていう(笑)。

川尻 ベテランの皆さんのお芝居を観ていると、「舞台は自由だ!」ということをより一層感じますよね(笑)。

鈴村 そうそう。てらそま(まさき)さんなんて、お客さん含めて誰もが「シリアスなシーンですよ」って思うシーンでわざとおちゃらけるから!(笑)

川尻 ははは!