AAF戯曲賞 第19回AAF戯曲賞 受賞記念公演「ねー」今井朋彦×小野晃太朗|行き着く先がわからない面白さ、カオスを素直に受け止める物語

浮かんだり、潜ったりを繰り返すプレリハーサル

──「ねー」では、6月から7月にかけてプレリハーサル、11月前半にリハーサルが行われ、11月後半に本番を迎えます。現在、プレリハーサルではどのようなことが行われているのでしょうか?

第19回AAF戯曲賞 受賞記念公演「ねー」プレリハーサルより。

今井 稽古が始まって約1週間ですが、今はディスカッションの時間をたくさん取っています。議論の中からいただくヒントや切り口もけっこうありまして、本番に採用するかはわからないですが、空想や妄想を含め、浮かんだり、潜ったりを繰り返していますね。プレリハーサルでは、実際にどのように表現するかというところにまで意図的に踏み込んでいなくて。一度セリフを口に乗せてもらう体験をしてもらいながら、読み方は無機的にして、言葉としてどう感じるか?ということを話し合っています。

小野 あまりニュアンスを加えずニュートラルな読み方でセリフを読んでいただくと、役者さんが自然と乗ってくる現象が起きるんですね。そういう瞬間を見ると「いいな」と思います。ディスカッションを繰り返すうち、さまざまな問題意識も浮かび上がってきますし、解釈がセリフに乗っかるのを見ると、作者としてもうれしくなります。何より今回参加されている役者さんはモチベーションがとても高いんですよね。

今井 そうなんですよ。結果として19名に絞りはしたのですが、オーディションの時点で参加者の皆さんの作品へのモチベーションがものすごく高くて驚きました。小野さんの戯曲が持つ人を引き寄せる力を痛感した次第です。

小野 ありがとうございます。

──ディスカッションには小野さんも参加されたんですか?

小野 参加しました。今井さんや出演者の方々にいただいた言葉から連想できることを話したり、登場人物の内面の解釈をしたり……後半は質問攻めに遭いましたね(笑)。僕、しゃべり過ぎじゃなかったですか?

今井 そんなことないですよ。気を遣ってくださって、現場に委ねようとしてくださっているんだなと思いつつ、せっかくの機会でしたので話を振ってしまいました。

小野 いえいえ、とてもありがたかったです。

今井 僕が若い頃の話ですが、文学座で初めて書き下ろしの公演に出させていただいたとき、作家の方が稽古場にいらしたんですね。そうすると、その日は、その作家の方を中心とした稽古になるんです。そういう劇団で育ってきたので、今日は新世代の作家さんの立居振る舞いを目の当たりにしたという感じがします(笑)。

小野 あははは!

──小野さんは本番までのクリエーションにも関わられるのでしょうか?

小野 引き続き、稽古と連携を取りながら上演台本の作成を進めます。リクエストがあったら何でも言ってください!という気持ちです。

今井 よろしくお願いします。

カオスを素直に受け止める物語

──AAF戯曲賞では「戯曲とは何か?」という問いがテーマに掲げられています。お二人は俳優、劇作・演出家、あるいはドラマトゥルクとして多くの戯曲に触れられていますが、戯曲を読む際、どのようなところに着眼点を置かれていますか?

小野晃太朗

小野 戯曲の読み方については、分析的に読む場合と、頭の中でイメージしながら読む場合、声に出して読む場合に分かれていたりします。特定の読み方はなく、部分的に自分にフィットする読み方を反芻してみたり。また、何かの文献に書かれていた戯曲が、どういうものなのか気になり、図書館に行って読むということを学生時代にしていました。歴史のどこかで埋もれてしまった戯曲にも、再評価される部分があっていいのかもしれない。そんな面白がり方をすることもあります。日本語で書かれた戯曲の場合は、友達と会ったときに気楽に音読するということもしていましたね。

今井 僕は仕事に結び付いて戯曲を読むことが多いので、純粋に戯曲を味わうということをもっとしなきゃなと、今、反省しました(笑)。特定の読み方はないのですが、やはり俳優として参加するときは自分が演じる役の目線になりますし、今回は、もちろん演出の目線になっています。何か着眼点があるとすれば、ドキドキする言葉に出会えるかどうかですかね。ワンフレーズでもそんな言葉に出会えるとポイントが高いです。

──昨年からのコロナ禍が現在も続いている状況ですが、このような未曾有の時代に、どのような物語が求められていると思われますか?

小野 例えば、3.11についての戯曲が出てきたのも、東日本大震災から何年か経ってからでした。時間が過ぎ去っても、生じているさまざまな問題は地続きにあり、過去の出来事であっても、個人にとってつらいこと、苦痛だったことは現在も続いているはずです。コロナ禍においては、僕らはまだ渦中にいるので、この出来事について書けるようになるのは事態が収束してからではないかと思っています。必要とされるのは、まだ正常だった世の中を再現する物語なのか、問題の核を探すような物語なのか、あるいは痛みを和らげる物語なのか、さまざまあると思いますが、事象に対して作家がどのような眼差しを向けているのかは気になります。

今井朋彦

今井 どのような物語が必要か、ということは明確には言えないのですが、例えば「アフターコロナの価値観とは、こういうものだろう」ということを無理して打ち出すより、渦中にいるというカオスを素直に受け止めていくことと言うんですかね……それをどのように表出させるかということなのかなと思います。

──「ねー」にも、世の不条理を受け止めたうえで、読み手に問題を投げかけているところがある気がします。

今井 そうかもしれませんね。「メモリアル」も「メナム河の日本人」もそうでしたが、ここ数年で演出のお話をいただいた作品は、僕にとっての未知に踏み込んだものが多くて、今回の「ねー」にも、行き着く先がわからない面白さを感じています。

小野 「ねー」は、一度も上演されたことがない作品ですし、ある意味で読むこと自体に負荷がかかる戯曲ですが、今回、今井さんの演出で上演していただくことで、観た人が家族や友達、あるいは誰かと話すきっかけになってくれたらありがたいです。

今井 19名の出演者1人ひとりが舞台上に生きて存在するよう、クリエーションに精力を傾けていきたいと思います。後日映像配信もされる予定ですが、まずは生身の人間が力強くそこに居るということに触れに来ていただきたいです。

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