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2011年に始まった「MPAD」は三重県内の飲食店・寺院を会場に、料理と俳優の身体を通じて名作・古典のリーディング公演が楽しめる企画。「スペードの女王」は、賭けトランプを巡るアレクサンドル・プーシキンの短編小説で、茨城県を拠点に活動する百景社の志賀が朗読劇として立ち上げる。
会場となったのは、津駅と津新町駅のほど近くにある、創業明治44年の老舗洋食店・中津軒。黒と茶、オフホワイトの落ち着いた色合いで統一された内装と木のモビールが印象的な店内は、絵本に出てくる洋食屋のイメージそのままの様子で、胸が高鳴る。テーブルには「NAKATSUKEN」とプリントされたペーパーナプキンと銀のカトラリーが用意された。
1皿目は、“サラダのお手本”といった感じの千切りキャベツとハム、トマト、ポテトサラダが乗ったサラダ。続けてライスと、中津軒の名物“メアベア”が登場した。メアベアは初代シェフが考案したメニューだそうで、玉ねぎや肉がたっぷり入ったデミグラスソースをオーブンで焼き、上には目玉焼きがトッピングされている。濃厚そうに見えるが柔らかな味わいで、卵を絡めて食べるとさらにまろやかさが増す。デザートは甘さ控えめのしっとりチーズケーキに、イチゴやブルーベリーなどのジャムが彩りよく添えられたプレート。“くろいり珈琲”と共に味わうと味が深まった。
朗読劇は2階に移動して行われた。志賀は、まずはプログラムディレクターとして「MPAD」について説明し、本作が昨年、兵庫県の城崎温泉と豊岡市を舞台に行われたお食事×文学×リーディング「よるよむきのさき」で初演されたものであること、そして本作で描かれる“賭けトランプ”のルールについて簡単に解説した。
「スペードの女王」には、百景社の俳優である山本晃子と鬼頭愛が出演。赤と黒を意識した衣裳で現れた2人は、身振り手振りを交えながら、互いを追いかけ合うように語りつないでいく。貧しいゲルマンはカルタ勝負に強い興味を惹かれつつも、まだ実際に金を賭けたことはない。ある日、賭けトランプの必勝法を知っている老貴婦人がいると知り、ゲルマンはなんとかその方法を聞き出そうとするが……。
神西清翻訳による少し時代がかったセリフの数々は、中津軒の空間にスッとなじみ、観客を物語世界へといざなう。朗読劇と言いつつ動きの面白さも魅力の百景社は、アクティングエリアをいっぱいに使いつつ、このフィクショナルな世界観を力強く立ち上げていった。
なお「MPAD記録誌 2011-2023」が1000円で販売中。2011年から昨年までの舞台写真やディレクター対談、デザイナー対談などが掲載されている。「MPAD2024」は11月22日まで行われ、このあと西本浩明、田中遊×広田ゆうみ、林英世が出演する。
MPAD2024
2024年11月13日(水)〜22日(金) ※公演終了
三重県 各所
スタッフ
うさぎ庵 太宰治「メリイクリスマス」
作:太宰治
演出:工藤千夏
乙一「ホワイト・ステップ」
原作:乙一「ホワイト・ステップ」(集英社文庫「箱庭図書館」所収)(c)乙一/集英社
演出:土橋淳志
百景社 プーシキン「スペードの女王」
作:プーシキン
演出:
横光利一「機械」
作:横光利一
演出:西本浩明
太安万侶編「耳で楽しむ古事記」
編纂:太安万侶
現代語訳:橘雪子
川上弘美「海馬」
作:川上弘美「海馬」(文春文庫「龍宮」所収)
演出:林英世
出演
うさぎ庵 太宰治「メリイクリスマス」
大井靖彦
乙一「ホワイト・ステップ」
坂口修一
百景社 プーシキン「スペードの女王」
山本晃子 / 鬼頭愛
横光利一「機械」
西本浩明 / LAVIT
太安万侶編「耳で楽しむ古事記」
田中遊 / 広田ゆうみ
川上弘美「海馬」
林英世
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熊井玲 @rei720
中津軒の私の印象は「注文の多い料理店」でした。だから、2階に案内されると、何が始まるんだと、ちょっとドキドキ……
「スペードの女王」は大学のとき読書会で読んだ思いが蘇りました。 https://t.co/4yUBmvUADH