第31回読売演劇大賞の藤田俊太郎「“今”に向き合い、死に物狂いで作品を作りたいと思った」

第31回読売演劇大賞の贈賞式が、昨日2月27日に東京都内で行われた。

読売演劇大賞は、演劇文化の振興のために1992年に創設された賞。第31回読売演劇大賞では既報の通り、最優秀作品賞をイキウメ「人魂を届けに」、最優秀男優賞を山西惇、最優秀女優賞を池谷のぶえ、最優秀演出家賞を藤田俊太郎、最優秀スタッフ賞を松井るみが獲得し、杉村春子賞を清原果耶、芸術栄誉賞を松本白鸚、選考委員特別賞を中村芝のぶが受賞した。さらに贈賞式で大賞が発表され、既報の通り藤田が同賞を獲得した。

読売演劇大賞では、各賞の前年の最優秀賞受賞者が翌年の同賞プレゼンターを務める。杉村春子賞のプレゼンターを務めた大原櫻子は「大きな壁を乗り越えた清原さんに祝福を込めて賞をお渡ししたい」とあいさつ。「ジャンヌ・ダルク」での演技を評価された清原は「台本の読み合わせから千秋楽まで、楽しい勉強の日々でした。また舞台に挑戦できたら、すべてをかけ魂を燃やしたい」と言葉に力を込めた。

「極付印度伝 マハーバーラタ戦記」「新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX」での演技を評価された芝のぶは「プレッシャーの中、最後まで大役を勤められたのは、2作品に携わるすべての方々の力があってのこと。またお客様や親族、お友達のご後援のお陰様と存じ、重ねてお礼を申し上げます」と話し、「賞をいただいたことを機に、歌舞伎界は申すに及ばず、日本の伝統芸能に少しでも貢献できますよう精進する覚悟です」と抱負を述べた。

スタッフ賞のプレゼンターを務めたのは衣裳家の前田文子。前田は、「ドリームガールズ」「ラビット・ホール」「ラグタイム」の舞台美術を評価され最優秀スタッフ賞に輝いた松井を、「松井さんは毎回本当に深く台本を読み、豊かな発想でわくわくさせてくださる」と称賛。読売演劇大賞の選考委員でもある松井は「選考委員を経験したことで、最優秀賞決定までのどんでん返しやドラマを目の当たりにしてきました。最優秀スタッフ賞をいただくのは3回目ですが、今回が一番感慨深い」と思いを口にし、「これは作品に参加したすべてのスタッフへの賞。このあと立食パーティーでみんなと喜びを分かち合いたい（笑）」と顔をほころばせた。

演出家賞のプレゼンターを務めた五戸真理枝は、「ラビット・ホール」「ラグタイム」で最優秀演出家賞に選ばれた藤田の演出について「『ラビット・ホール』は最後に宮澤エマさんと成河さんが手をつなぐシーンが印象的だった。手のひら1枚の温かさ、大きさ、はかなさであれほど人を感動させられるのだなと、セリフ劇の力を改めて感じました」と語り、藤田を祝福した。

「ラビット・ホール」「ラグタイム」は優秀作品賞にも選ばれた。藤田は「『ラビット・ホール』は、子供の死を経験した夫婦の再生を描く作品。大変な悲しみを伴う再生にも、その過程にかすかな希望や笑いがあると感じましたし、言葉の力を信じることができました」と話す。また「ラグタイム」上演期間中にハマスによるイスラエル奇襲攻撃が始まったことに触れ、藤田は「『ラグタイム』のテーマは、価値観が違う人々の共生。世界中に苦しむ人がいる状況で、演劇を上演できるのは当たり前のことではないと感じましたし、『“今”に向き合い、死に物狂いで作品を作りたい』と思いました」「劇中の“夢の車”とは地球そのもの。地球をいとしく思いここできちんと生きていきたいですし、共に生き、平和に向かって進むという熱い気持ちを、舞台を通じて客席に伝えることができたのでは」と言い、「賞の喜びを力に良い作品を作りたい」と結んだ。

女優賞プレゼンターの上白石萌音は「憧れが脈々と受け継がれるのが演劇の世界。1人の俳優として観客として、皆さんの作品を拝見して学び、技を盗ませていただきます！（笑）」と受賞者にメッセージを送る。「我ら宇宙の塵」「無駄な抵抗」の演技が評価された池谷は「私は何の演劇的素地もないナンセンスコメディの劇団を10年やり、解散後は1人放浪の日々を続けています」と笑いを誘い、「最近気になるのは舞台のチケットが高いこと。せっかく大勢の演劇関係者が一堂に会したので、何か新しい知恵が生まれたら（笑）。今回の受賞は今まで観た、携わった舞台全部のおかげ。すべての演劇に感謝します」と結んだ。

男優賞プレゼンターの段田安則は、読売演劇大賞の歴代受賞者名が記された小冊子を取り出して「僕はたまに冊子を夜中に眺めて『名前がある！』と自分を励ましています。山西さんも落ち込んだらこれを見て。冗談はさておき、ぜひ今度一緒に舞台をやりたいです！」と会場を笑いで包む。「エンジェルス・イン・アメリカ」「闇に咲く花」の演技が評価された山西は「舞台や演劇人との出会いに恵まれ、人生が狂いました（笑）。だから今ここにいられる。感謝しています」とコメント。続けて山西は「コロナ禍で落ち込む僕を支えてくれた家族に、出会ってくれて本当にありがとう。この世にはいない両親に、僕をこの姿とこの声で生んでくれて、この世界と出会わせてくれてありがとう」と謝辞を述べた。

作品賞のプレゼンターを務めた劇団チョコレートケーキの古川健は「作品賞に輝いた全チームの皆様に心よりお祝い申し上げます」とあいさつ。最優秀作品賞のイキウメ「人魂を届けに」を代表して登壇した前川知大は、2012年の第19回読売演劇大賞で大賞と最優秀演出家賞を獲得した経験を持つ。前川は「12年前は賞をプレッシャーに感じていた。暦が一回りし、この数年は僕たちなりの表現を見つけた感覚があります。だから今回の受賞には『よし！』と素直に思えました。また12年がんばれそうです」と晴れやかな表情を浮かべた。

またミュージカル「ラ・マンチャの男」に半世紀以上主演し、歌舞伎にとどまらず、長年演劇界に貢献した功績により芸術栄誉賞に輝いた白鸚は「いつの間にか（「ラ・マンチャの男」初演から）50年以上経っていました。ここにいらっしゃるお1人、お1人にお礼を言いたい」と、穏やかな笑顔で会場を見回した。

受賞者がスピーチを終えると、読売新聞グループ本社の老川祥一代表取締役会長・主筆代理が第31回読売演劇大賞を発表。老川会長が「大賞は藤田俊太郎」と藤田の名前を呼ぶと、再び登壇した藤田は「ラビット・ホール」「ラグタイム」関係者へ改めて感謝を述べる。藤田が「本日は誠にありがとうございました！」と締めくくると、大きな拍手に包まれて贈賞式は終了した。