去る2月11日に東京・東京芸術劇場 プレイハウスにて開幕した「インヘリタンス-継承-」について、出演者の
「インヘリタンス-継承-」は、2019年にローレンス・オリヴィエ賞4部門、2020年にトニー賞4部門を受賞した作品。前後編で約6時間30分に及ぶ本作では、2015年から2018年までのアメリカ・ニューヨークを舞台に、六十代、三十代、二十代という3世代のゲイコミュニティの人々が、愛と自由を求めて生きる姿が描かれる。なお今回の上演では熊林弘高が演出を担う。
取材会ではまず、6時間半に及ぶ上演時間の体感について、記者から質問が寄せられた。福士は「自分の俳優人生の中でもこれほどの大作は初めてです。稽古場でも1回だけ前後編を通してやったのですが、初日、お客さんを前に演じ終わったときは今までにない疲労感でしたね。不思議な光景と言いますか……。でも最後の最後まで集中して演じる、という思いでみんな一致団結していたので、このような経験ができたことは役者冥利に尽きます」と充実した表情を浮かべる。
稽古はテーブルワークから始まり、読み合わせはもちろん、内容に関する勉強会なども行われた。以前も熊林作品に出演経験がある福士は「とても丁寧に段階を踏んでくれる方。1日1日の稽古をステップアップさせてくれるので、停滞する気持ちがなく稽古できました。コミュニケーションを取りながらクリエーティブな時間が過ごせたと思います」と熊林に厚い信頼を寄せる。
また東京公演には作者のマシュー・ロペスも駆けつけた。福士は、ロペスから自身が演じるエリック役について、「稽古中にストレスが溜まったでしょう?」と声をかけられたと明かし、「『この公演の最後の最後まで演じ切ったときに、初めてエリックがわかるかもしれませんよ』と言われました。そういったお話をマシューさんとできてとても良い時間でしたね」と笑顔を見せた。
本作では最近のHIVを巡る医療事情なども描かれる。稽古場では医療従事者による勉強会も開かれたそうで、福士は「僕は1983年生まれですが、HIVというと死のイメージがありました。でも今は薬のおかげで、だいぶ状況が変わってきている。そのことは伝えていったほうが良いと思いました。恐れや不安は知らないからこそ起きる感情ですが、知ることで人を思う優しさや“寛容さ”が生まれてくる。劇中、“寛容さ”という言葉が出てくるんですが、僕は今後の人生でも“寛容さ”を大事にしていきたいなと思っています」と真摯に語った。
自身が演じるエリックという役については、「台本に、エリックは自分が特別だとは思っていない、自分を凡人だと思っている人とあって、それが僕のキーになっています」と返答。「エリックの元恋人・トビーは脚本家、のちにエリックが結婚するヘンリーは億万長者と“特別な人”ですが、エリック自身は芸術に触れながらみんなと楽しい時間を過ごしたいと考えている、特別なことをしているわけではない人。そんな彼が、失恋したり人を亡くしたりという経験を経て、自分の生き方を見つけるまでの成長記、のようにも感じています。例えばエリックは不穏な空気になりそうになると急に話題を変えたり、『うるさい! バカヤロー!』と言ったすぐ後に『ごめんね』と言えるような人で、そのバランス感覚こそがエリックの生きづらさでもあるし、人にはない優しい部分なのではないかと思います」と分析した。
さらにエリック役をつかむ過程で、福士はエリックとヘンリーの関係性が1つのヒントになったと明かす。「エリックはとても愛情深い人で、その愛を感じるうえで恋人とのセックスが不可欠だと感じている人なんです。でも彼のパートナーであるヘンリーは60歳で、セックスによってエイズになったり、人が死んできた時代を経験しているから、大事な人ほど触れられないと考えている。エリックは愛を確かめたいからセックスしたいんだけれど、ヘンリーは愛しているからこそセックスできないんです。そんなエリックの葛藤に気付いたときに、ヘンリーに対するリアクションが変わり、エリックを演じる面白さを感じたところがあります」と真剣な表情を見せた。
最後に福士は、「作品のテーマであったり、6時間半という上演時間だったり、なかなか腰が上がらない要素がある作品だと感じられるかもしれませんが(笑)、ご覧いただけたら、翌日から考え方やものごとの受け止め方が変わるような、新しい景色が見える作品だと思いますので、『ぜひ、あなたの人生の中の6時間半を、僕たちにいただけませんか』」と観客に熱のこもったメッセージを送った。
東京公演は2月24日まで。本公演はその後、3月2日に大阪・森ノ宮ピロティホール、9日に福岡・J:COM北九州芸術劇場 中劇場でも行われる。
なおステージナタリーではジャーナリスト・作家・翻訳家でLGBTQ+の現状に詳しい北丸雄二による寄稿のほか、キャストの福士、田中俊介、新原泰佑、柾木玲弥、篠井英介、山路和弘、麻実れいのメッセージを掲載している。「インヘリタンス-継承-」
2024月2月11日(日・祝)~24日(土)
東京都 東京芸術劇場 プレイハウス
2024年3月2日(土)
大阪府 森ノ宮ピロティホール
2024年3月9日(土)
福岡県 J:COM北九州芸術劇場 中劇場
作:マシュー・ロペス(E・Mフォースターの小説「ハワーズ・エンド」に着想を得る。)
訳:早船歌江子
ドラマターグ:田丸一宏
演出:熊林弘高
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