「豊岡演劇祭2023」開幕直前イベント、“地方と都市、連帯する創造環境“テーマに平田オリザら語る

9

162

この記事に関するナタリー公式アカウントの投稿が、SNS上でシェア / いいねされた数の合計です。

  • 16 23
  • 123 シェア

「豊岡演劇祭2023」のトーク企画「地方と都市、連帯する創造環境」が、本日8月29日に東京・YAU STUDIOで開催された。

左から河村竜也、平田オリザ。

左から河村竜也、平田オリザ。

大きなサイズで見る(全7件)

「豊岡演劇祭2023」キービジュアル

「豊岡演劇祭2023」キービジュアル[拡大]

これは、9月14日から24日にかけて兵庫県豊岡市、養父市、香美町を中心とした地域で開催される「豊岡演劇祭2023」の開幕直前イベント。司会を「豊岡演劇祭2023」プロデューサーの河村竜也が務め、フェスティバルディレクターの平田オリザ、プロデューサーの松岡大貴と加藤奈紬、アドバイザーの藤井さゆりがスピーカーとして、範宙遊泳の山本卓卓、中川麻央、エンニュイの長谷川優貴がアーティストゲストとして出席した。

イベントでは、まず、オンライン出席の平田が、今年で開催4年目となる「豊岡演劇祭」の概要や、プログラムを説明。また有楽町アートアーバニズムYAUと同演劇祭の関連企画についても触れた。有楽町アートアーバニズムYAUは、ビジネス街である有楽町に位置する有楽町ビル10階にあるYAU STUDIOを拠点に、メディアアートやパフォーミングアーツなど、多種多様なジャンルのアーティストを集め、ワーカーとの交流を誘発する実証プログラム。今回、豊岡演劇祭との特別連携企画として、「豊岡演劇祭2023」への参加と、YAU STUDIO内のY-base(稽古場)を準備期間中に利用できる「Y-base レジデント・アーティスト&フリンジ【セレクション】」が立ち上げられ、中川と長谷川は特別連携企画に採択された。

左から藤井さゆり、加藤奈紬、山本卓卓。

左から藤井さゆり、加藤奈紬、山本卓卓。[拡大]

松岡は「都市と地方は必ずしも二項対立ではないと考えていますが、やはり都市の“発表する場”としての機能は、人口が多いという意味でも強い。ですので、地方で作品を作って、都市で作品を発表する、ということが起こりがちです。今回YAUと連携することで、作品を東京で作り豊岡演劇祭で発表するという、逆転した形を作れないかと、実験的な気持ちで企画を組ませていただきました」とその意図を明かす。またYAU STUDIOの運営チームでもある藤井は「誰でも稽古場を見学できるなど、創作の環境を“開く”ことを条件に、基本的に利用料は取っていないのが、YAUの特徴です。いろいろな出会いの場になることを期待しています」と語った。

山本卓卓(中央)

山本卓卓(中央)[拡大]

YAUとの特別連携企画、そして本トークイベントの表題である“地方と都市、連帯する創造環境“をテーマに、藤井は山本、中川、長谷川に、それぞれの活動スタイルを問いかける。かつて自身のソロ活動時に、稽古場としてYAU STUDIOを利用した経験がある山本は「僕が劇団で活動を行う際は、プロデューサーであるパートナーと、生活と創作、常にタイムラインが一緒になる状況です。その状況に限界を感じてソロ活動を始めたとき、タイミングよくYAUの募集を見つけました。もちろん、劇団も自分にとって非常に大事なのですが、これからは個人活動との両軸で先を見つめていきたいですね」と回答。また地方での公演について「僕は、演劇はコミュニケーションの芸術だと思っています。観客動員数など、“数”の話だけをすると、活動自体が行き詰まるような気がしますし、作品を発表して終わりというのは、演劇が本来持っている性質ではない気がして。いかにその土地の人々と深く交流できるかを重視してやっていきたい」と話す。

中川麻央

中川麻央[拡大]

中川は「私は2020年から2年間、東京藝術大学大学院に在籍していたのですが、そのときは大学から身体を動かすスタジオを貸してもらって活動していました。大学院を卒業して改めて、(大学院時代の)“美術系のフィールド”と、“演劇系のフィールド”では創作の環境が異なることを実感しています。関東を拠点にしていたのは、大学院に通っていたからなのですが、卒業したあとに『このまま関東に住み続けたいかな?』と考え、現在は拠点を定めずに創作を続けています」と述べる。また、2度目となる「豊岡演劇祭」への参加について「昨年行ったインスタレーションパフォーマンスで、地元の方が観に来てくださったのですが、『こういった形の身体表現ってあるんですね、観られて良かったです』とコメントをいただけたのが、私の中で大きかったですね。東京ならメジャーなものからアンダーグラウンドなものまで、作品に触れる機会はたくさんあります。でも地方に行けば行くほどその機会が少なくなるのは、地方出身者としても、身に染みて体感してきたことです。そういった意味でも、『豊岡演劇祭』で多種多様なパフォーマンスが観られる機会があるということは、すごく大きな意味があると感じています」と言葉に力を込めた。

左から中川麻央、長谷川優貴、松岡大貴。

左から中川麻央、長谷川優貴、松岡大貴。[拡大]

長谷川は「エンニュイは、劇団ではなく“組合”というスタイルを取っています。働いている人も多いので、メンバーは出たいときに出て、出たくないときは出ないという、とにかく自由にやるという方針。稽古は、いつも区の集会場でやっています。安いですし、特に不便は感じていないのですが、強いて言うなら予約のためのホームページがすごく古く、ちょっと使いづらいところですかね(笑)」と話し、同じ経験を持つ出席者たちの笑いを誘う。さらに「僕はもともと、芸人として吉本興業に所属していました。当時、新宿にある(吉本興業の)本社では、夜な夜な芸人たちが集まってネタの稽古をしていて、そこでは、お互いのネタを見てアドバイスし合う時間もありました。個人的には、クローズドに自分たちの感覚を研ぎ澄ましていくより、そのようにいろいろな人の意見が聞けた方がいいので、YAUさんはすごくいいなと思っています」と続け、藤井に視線を送った。

また、話題は“生活と創作”の切り替えに。子育てをしながら演劇活動を行っている山本は「どうしても子供を稽古場や劇場に連れていかないといけないときがあって。そういうとき、周囲から『子供なんか連れてきちゃって』と思われていないか、疑心暗鬼になってしまうことがあります。地方に行くと、生活と仕事が地続きで、うらやましさを感じることはありますね。また僕自身、どうしても1人にならないと脚本が書けないんです。コロナ禍は、執筆用の部屋を借りて書いていました」と話す。松岡が、同じく子育て中の平田に「オリザさんは“生活と創作”の切り替えについていかがですか?」と話を振ると、平田は「私は若い頃から作家になることを決めていたので、いつでもどこでも書けるように鍛えてはいるのですが……うちもバランスはめちゃくちゃです(笑)」とニヤリと笑う。平田は続けて「真面目な話をすると、ヨーロッパだと劇場で作品を作るので、劇場側がアーティストに良い作品を作ってもらうためにも、良い創造環境を提供してくれるんです。その機能が日本でもっと発展すれば、子育て中だったり介護中だったりと、事情のある作家も活躍できるのに、と思います」と日本の演劇界の問題点に触れた。

この記事の画像(全7件)

豊岡演劇祭2023トーク企画「地方と都市、連帯する創造環境」

2023年8月29日(火)※終了
東京都 YAU STUDIO

スピーカー:平田オリザ、松岡大貴、加藤奈紬、藤井さゆり
アーティストゲスト:山本卓卓、中川麻央、長谷川優貴

「豊岡演劇祭2023」

2023年9月14日(木)~24日(日)
兵庫県豊岡市、養父市、香美町

ディレクターズプログラム

ぱぷりか「柔らかく搖れる」

2023年9月14日(木)~16日(土)
兵庫県 豊岡市民プラザ

作・演出:福名理穂

コープス×キオ 日本×カナダ共同制作作品「むかし、むかし」

2023年9月19日(火)・20日(水)
兵庫県 豊岡市民プラザ ほっとステージ

作・演出:ダヴィッド・ダンゾン

範宙遊泳「バナナの花は食べられる」

2023年9月15日(金)~17日(日)
兵庫県 芸術文化観光専門職大学

作・演出:山本卓卓

芸術文化観光専門職大学×リヨン国立舞台芸術技術学校「私はかもめ」

2023年9月22日(金)~24日(日)
兵庫県 芸術文化観光専門職大学 静思堂シアター

作:平田オリザ
演出:ロアン・グットマン
フランス語訳:マチュー・カペル

庄司紗矢香「音楽と言葉の旅『ふるさと』」

2023年9月16日(土)
兵庫県 豊岡市民会館 文化ホール

作・演出:平田オリザ
演奏:庄司紗矢香(バイオリン)、モディリアーニ弦楽四重奏団、ベンジャミン・グローヴナー(ピアノ)

CHUNCHEON CITY PUPPET THEATER COMPANY「変身」

2023年9月24日(日)
兵庫県 豊岡市民会館 文化ホール

作:フランツ・カフカ
構成・演出:イ・ビョンホン

Q「弱法師」

2023年9月15日(金)~17日(日)
兵庫県 城崎国際アートセンター

作・演出:市原佐都子

岩下徹×梅津和時 即興セッション「みみをすます(谷川俊太郎同名詩より)」

2023年9月17日(日)
兵庫県 香住東港上屋 2号棟

2023年9月18日(月・祝)
兵庫県 玄武洞公園

出演:岩下徹、梅津和時

堀川炎「窓の外の結婚式(利賀日本博プログラム)」

2023年9月22日(金)~24日(日)
兵庫県 旧名色スキー場

原作:柳美里
演出:堀川炎

こまばアゴラ劇場国際演劇交流プロジェクト2023「KOTATSU」

2023年9月14日(木)~17日(日)
兵庫県 江原河畔劇場

作・演出:パスカル・ランベール
共同演出・日本語監修:平田オリザ
翻訳:平野暁人

アル☆カンパニー「POPPY!!!」

2023年9月21日(木)・22日(金)
兵庫県 江原河畔劇場

作・演出:野田慈伸

演劇人コンクール特別企画 松村翔子「青い鳥」

2023年9月16日(土)
兵庫県 やぶ市民交流広場 リハーサル室

2023年9月23日(土・祝)・24日(日)
兵庫県 江原河畔劇場 スタジオ

作:モーリス・メーテルリンク
翻訳:堀口大學
演出:松村翔子

青年団プロデュース公演「馬留徳三郎の一日」

2023年9月17日(日)
兵庫県 香住区中央公民館

2023年9月24日(日)
兵庫県 やぶ市民交流広場

作:高山さなえ
演出:平田オリザ

※高山さなえの「高」ははしご高が正式表記。

フェスティバルプロデュース

「公文協アートキャラバン事業 劇場へ行こう3」参加事業 Platz市民演劇プロジェクト「豊岡かよっ!」

2023年9月23日(土・祝)・24日(日)
兵庫県 豊岡市民プラザ ほっとステージ

作・演出:内藤裕敬

「ON-PAM×豊岡演劇祭2023 共創するアートマネージャーとアーティストのための『Co-Creation Camp』 by Next Producers Meeting」

2023年9月18日(月・祝)
兵庫県 豊岡市街地

「JR西日本観光列車『うみやまむすび』×芸術文化観光専門職大学『うみやまむすび夢十夜 こんなゆめをみた!!の旅』~TAJIMA発☆奇々怪々方面、ヘンテコ!?夢うつつ行き。ぶらりとご乗車くださいませ~」

2023年9月17日(日)~23日(土・祝)
JR山陰本線 城崎温泉駅、佐津駅、香住駅、餘部駅

総合演出:田上豊
作・演出:田上豊、永井楓華

「お食事×文学×リーディング よるよむきのさき」

・中島らも「お父さんのバックドロップ」
2023年9月14日(木)
兵庫県 おけしょう鮮魚 お食事処 海中苑 駅前店

・宮沢賢治「よだかの星」
2023年9月15日(金)
兵庫県 三木屋

・山本周五郎「雨あがる」
2023年9月18日(月・祝)
兵庫県 さんぽう西村屋 本店

・小川未明「花咲く島の話・船の破片に残る話・強い大将の話・ある夜の星たちの話」
2023年9月19日(火)
兵庫県 城崎町家 地ビールレストラン GUBIGABU

・ほか1プログラム

豊岡演劇祭実行委員会「フェスティバルナイトマーケット」

2023年9月16日(土)・17日(日)
兵庫県 江原駅前イベント広場

2023年9月22日(金)~24日(日)
兵庫県 豊岡市役所本庁舎前市民広場

坂本長利 独演劇「土佐源氏」

2023年9月17日(日)・18日(月・祝)
兵庫県 圓覚山宗鏡寺(沢庵寺)

出演:坂本長利

烏丸ストロークロック×但東の人々「但東さいさい」

2023年9月23日(土・祝)・24日(日)
兵庫県 久畑 一宮神社

構成・テキスト・演出:柳沼昭徳
出演・お囃子:烏丸ストロークロックと但東の人々

菅原直樹「老いと演劇のワークショップ『認知症ケア“いま”をともに楽しむ』」

2023年9月18日(月・祝)
兵庫県 KARUBE・GARDEN LIVING

フリンジプログラム

全文を表示

読者の反応

  • 9

平田オリザ @ORIZA_ERST_CF

ピッコロシアターでの岩松さんとの対談が終わった直後、楽屋からオンラインで参加しました。 https://t.co/XG1RM1L9nX

コメントを読む(9件)

関連記事

平田オリザのほかの記事

リンク

あなたにおすすめの記事

このページは株式会社ナターシャのステージナタリー編集部が作成・配信しています。 平田オリザ / 河村竜也 / 山本卓卓 / 長谷川優貴 の最新情報はリンク先をご覧ください。

ステージナタリーでは演劇・ダンス・ミュージカルなどの舞台芸術のニュースを毎日配信!上演情報や公演レポート、記者会見など舞台に関する幅広い情報をお届けします