上演に際し、スペースノットブランクは「『セイ』の原作を受け渡された時、池田さんの表情がいままで以上に『喜びに満ち溢れていた』ことを強く記憶しています。『スピンオフ』は、一見寄り道のようなものです。しかしその寄り道には寄り道なりの到達点が存在していると思っています。『セイ』が終わったあと、2026年までの次の3年間は、第三部の上演を行なわないことにしています。今、神奈川で、日本で、同時代の皆様にお届けする私たちの『スピンオフ』の到達点に、ぜひ合流してください」とコメントした。チケット販売は5月13日10:00に開始予定。
池田亮 コメント
高校時代、トレーニングしすぎの割りかし強めな陸上部の中長距離班に所属しておりまして、しっかり坊主にしないやつは覚悟がない的な暗黙のルールがあったバリカン常備系の部活でした。スポーツ貧血や疲労骨折を乗り越え、よく「お前は強くなる」と言ってもらえましたが、「走らなくても楽しみたい」と辞めていった部員に言われた一言の方が顧問の言葉よりも遥かに強く印象に残っています。自分が長距離走を始めた理由は、中学で低いカーストだったため受け続ける暴言や暴力から逃れたかった時、運良く長く走れる速度が上がり、足の速さがカーストから抜け出すための権力に変わったためでした。馬鹿みたいな話ですが大抵の地元は足が速くなるだけで地位が上がります。正直強くなるためとか記録のために走るとかは全然好きじゃありませんでした。前に戻りたくないから走ってました。こういった話を親や当時の人間にした記憶だと「足速くなるだけ恵まれてる」とか「俺の遺伝子のおかげ」とか「いじめられたおかげ」とか「頑張ったね」と基本マッチョな感じで返答されたのですが、いまいちそれを飲み込むことができない中、最も腑に落ちて自分が強く共感した言葉が「走らなくても楽しみたい」でした。長くなりましたが今回の原作は「〇〇しなくても楽しめる」というエンターテインメントを目指しました。原作内で「ここはフリースペースなんだ」という言葉が生まれましたが、それは自分のためであり、そして同じような他者へ届くためでもあります。既存のジャンルで競わない、新たなジャンルを開拓し続ける同世代、小野彩加中澤陽スペースノットブランクと額田大志とキャストスタッフの全員にこの原作を託します。でも変えても使わなくても捨ててもなんでもしていいので、楽しんでもらえれば幸いです。ぜひお越しください。
額田大志 コメント
スペースノットブランクと池田亮さんと三度目のコラボレーションです。このチームでつくった前作「ハワワ」は、あまり身内を褒めるのは控えたいと思いつつ、池田さんの原作の時点で戯曲史に残る傑作でした。「ハワワ」の原作(戯曲)はテキストだけでなく、音楽が流れ、パワーポイントのファイルを開き、ふいに狂気的な映像が流れ出したりとマルチメディアを駆使したとんでもない物語でした。悔しいほどに面白く、池田さんの常人とは思えないチャレンジ精神と執筆スキル(マルチメディア作品ですが、ここはあえて戯曲であり、執筆と言いたい)の異常な高さに、自分は何をしているんだろう、と凹んだりもしました。「ハワワ」の原作は、なんとかして、たくさんの人に見てもらえないかと日々思っています。スペースノットブランクは、そのマルチメディアの原作を巧みに活かしながら見事に舞台化していました。作品数の膨大なスペースノットブランクですが「ハワワ」のゲネをみたときは興奮して、友人たちにもこれは絶対見た方がよいとLINEを送った覚えがあります。さて、「セイ」の原作はさらにとんでもないことになっています。私とスペースノットブランクと池田さんは完全に同世代で、小野さんは91年生まれ、中澤さん、池田さんは92年生まれです。ポケモンは金銀を遊び、ゆとり世代と言われ、バブルを全く経験せず、幼い頃からインターネットの世界に触れ、小学生のときに9.11の映像を眺め、震災を高校生のときに体験した年代です。私見かもしれませんが、なんだかどうしようもない無力感、のようなものを抱えている世代だと思っています。世界を揺るがす出来事は、常にテレビとインターネットの先にありました。何もできない人間の小ささを、たくさん見てきました。きっと、ググったら◯◯の影響とか、◯◯現象とか言われていると思います。どうして、私は生まれてきたのだろうか。そんな中で「セイ」は、何かを失ったと思わされている90年代前半生まれの人たちに、眩しいくらいの光を当ててくれる作品なんじゃないかと思います。愛していたインターネットが、失われた世界が、いつの間にか消えてしまった未来が、舞台作品という形で劇場で立ちあがろうとしています。これは馴れ合いでも処方箋でもない、当たり前のように狂ってしまった世界に対する「セイ」、生、性、声、星、聖になると思います。いや、ならなければいけないんだ、という使命感、みたいなものさえ覚えています。ちょっと危険かもしれません。でも、それくらい熱を上げてもいいのかなと、池田さんの原作は思い起こさせてくれました。これは、私のための作品であり、そんな作品を誰かと共有したい、という作家としての根源的な思いが湧き上がりました。池田さんの原作は巧妙で、きっとスペースノットブランクの演出も、そんなストレートなものではないでしょう。でもその、真っ直ぐに言いたいけれど、言うことができない。屈折して、ねじれにねじれて、嘘をついて、茶化して、ギリギリのところで本音を喋る。そこまでしないと私たちは言えないのかもしれない。もどかしい生き方ですが、それが生きることなのかもしれない。劇場でお待ちしています。
小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク コメント
2020年から始まった、池田亮さんと額田大志さんをはじめとする素晴らしい同時代の皆様との創作形態も、今回で3度目。3年が経ちました。池田さんとは「三部作構想」を早い段階で話し合い、第一部「ウエア」、第二部「ハワワ」と、共に歩みを進めて参りました。今回は3度目、3作目にして「第三部」ではなく、「スピンオフ」となります。「原作」とは何なのか。私たちが、池田さんの創る「物語」に対して、それが上演に於いて語られることを前提としないものを求めたこと、が発端になります。第一部「ウエア」は「もう使わなくなったメーリングリストにメールを送り続ける」ことで生まれ、第二部「ハワワ」は「WordとExcelとPowerPointとQuickTimeとPremiere ProとMedia EncoderとPhotoshopとIllustratorとInternet ExplorerとGoogle ChromeとNortonらを使う」ことで生まれ、データの総容量3GBの大作となりました。既存のストーリーテリングからは駆け離れた場所で創造された物語を、どのようにして上演を通して観客の皆様と共有するかを考え続ける作業は、池田さんの想像する「物語」の本質への旅のようでした。池田さん自身も旅の一員として、自らの物語の在処を探究し続けていました。今回「セイ」の原作を受け渡された時、池田さんの表情がいままで以上に「喜びに満ち溢れていた」ことを強く記憶しています。「スピンオフ」は、一見寄り道のようなものです。しかしその寄り道には寄り道なりの到達点が存在していると思っています。「セイ」が終わったあと、2026年までの次の3年間は、第三部の上演を行なわないことにしています。今、神奈川で、日本で、同時代の皆様にお届けする私たちの「スピンオフ」の到達点に、ぜひ合流してください。
マグカルシアター2023参加公演 小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク 新作舞台「セイ」
2023年6月29日(木)~7月2日(日)
神奈川県 神奈川県立青少年センター スタジオHIKARI
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ステージナタリー @stage_natalie
「ウエア」「ハワワ」のスピンオフ、スペースノットブランク新作「セイ」(コメントあり)
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