PARCO劇場開場50周年記念シリーズ「ラビット・ホール」が4月9日に開幕。ステージナタリーでは、本日3月28日に東京都内で行われた稽古の様子をレポートする。
「ラビット・ホール」は、2007年にピュリツアー賞を受賞したデヴィッド・リンゼイ=アベアーの戯曲。2010年には、ニコール・キッドマンの主演・製作による映画「
稽古場に入ると、そこにはベッカとハウイーが暮らす家が再現されている。下手のキッチンには冷蔵庫やシンク、ダイニングテーブルとイス、中央には2階に続く階段、そして上手のリビングにはソファやテーブル、大きなテレビが設置された。また部屋のあちこちにぬいぐるみやおもちゃが置かれ、小さな子供が暮らしていた痕跡が色濃く残っていた。
通し稽古の開始前、キャストたちは和気あいあいとした雰囲気で言葉を交わす。稽古に先んじて演出の藤田と共に立ち位置や段取りを確認していた宮澤が、夫役の成河に「旦那様ー!」と呼びかけると、成河はすぐさま「はい! 良い旦那です!」と応答し、場を和ませた。藤田が通し稽古の開始を宣言すると、稽古場の空気は一変。キャストとスタッフは、本番さながらの緊張感で位置に付いた。
劇中では、息子ダニーを交通事故で亡くしてから約8カ月後を舞台に、家族の会話劇が展開。妻ベッカ(宮澤)と夫ハウイー(成河)の心の溝は深くなり、ベッカは彼女を慰めようとする妹イジー(土井)や母ナット(グラブ)の言動にも傷付いてしまう。ある日、事故の車を運転していた高校生ジェイソン(阿部 / 山崎)から会いたいと手紙が届き……。
キャストたちは、同じ痛みを抱えながらも、痛みへの向き合い方が異なるが故にすれ違い、ぶつかり合ってしまうキャラクターたちを、血の通った人物として立ち上げた。作中では家事をしたり、ソファでくつろいだり、家族の誕生日パーティを開いたりといった“普通”の日常生活が描かれ、そこには穏やかな会話や笑いも生じる。しかしひとたびダニーの死が想起されると、登場人物が内に秘めている強い感情が噴出した。
ベッカは亡き息子の服を寄付して手放しながらも、家の中のおもちゃを残していたり、支援グループへの参加を拒んだりと、複雑な思いを抱えている。宮澤はベッカを生真面目な人物として立ち上げつつ、彼女が喪失に向き合いきれずにいるさまを、表情の変化で繊細に表した。ハウイーは家族思いの優しい夫だが、とにかく前に進もうとする姿勢により、ベッカから反発を受ける。成河は、とあるきっかけで激高するハウイーの豹変を声色や声量の変化で巧みに演じ、ハウイーが心に追った深い傷を表現した。
また土井は、幼さが残る破天荒な妹イジーとして自然な立ち居振る舞いを見せ、互いを思い合いながらも姉とギクシャクしてしまうイジーの優しさ、不器用さを体現。グラブは母ナットを快活な人物として演じ、ベッカの悲しみに対して時には遠慮のない言葉を投げかけながらも、娘を心配する温かさをのぞかせる。さらに山崎は真っすぐな語り口で、ジェイソンが抱える罪悪感や、高校生なりにその罪悪感に対処しようとしているさまを描き出した。
通し稽古のあとには演出の藤田が俳優たちにノートを伝えた。藤田はキャストたちに向かい合って座ると、台本を1ページずつめくって、セリフを確認したり、セリフの音量に関するオーダーを伝えたりして、演技の裏付けとなる役柄の心情やその変化を確かめる。同時に藤田は「ベッカとハウイーのシーンに、今日すごくグッときた」「姉妹が背中合わせになるところ、良かったです。これでいきましょう」など、俳優たちの演技を称賛していた。
キャスト、スタッフは「ラビット・ホール」の英語の台本を持っており、迷ったときは原語にあたってセリフを検討するという。出演者たちはノートの時間にも高い熱量で取り組み、「セリフのタイミングで洗濯物を持っているようにしますね(宮澤)」「本番だとあそこに壁はありますか? もしあるならハウイーの動きが変わってくる(成河)」など積極的に発言しながら、演技をブラッシュアップしていった。
最後に藤田が「では休憩のあと、1幕の前半のシーンの動きをちょっともう1回やってみましょう」と呼びかけると、成河が「“ちょっと”じゃなくて、“ちゃんと”!!(笑)」と気合いが入った声を上げ、稽古場は和やかな笑いに包まれた。
「ラビット・ホール」の公演は4月9日から25日まで東京・PARCO劇場、28日に秋田・あきた芸術劇場ミルハス 中ホール、5月4日に福岡・キャナルシティ劇場、13・14日に大阪・森ノ宮ピロティホールで行われる。
PARCO劇場開場50周年記念シリーズ「ラビット・ホール」
2023年4月9日(日)~25日(火)
東京都 PARCO劇場
2023年4月28日(金)
秋田県 あきた芸術劇場ミルハス 中ホール
2023年5月4日(木・祝)
福岡県 キャナルシティ劇場
2023年5月13日(土)・14日(日)
大阪府 森ノ宮ピロティホール
作:デヴィッド・リンゼイ=アベアー
翻訳:小田島創志
演出:
出演:
※山崎光の「崎」は立つ崎(たつさき)が正式表記。
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