「壽 初春大歌舞伎」主演務める坂東彌十郎「作品は“合議制”で、皆さんと作っていきたい」

「壽 初春大歌舞伎」より、出演者の坂東彌十郎の取材会が、本日12月14日に東京都内で行われた。

彌十郎は、第2部で上演される「人間万事金世中」に出演する。河竹黙阿弥がイギリスの作家の戯曲を翻案し、1879年に初演した「人間万事金世中」は、明治の文明開化の新風俗を描いた“散切物”と呼ばれる世話狂言。劇中では、明治初年の神奈川・横浜を舞台に、ケチで強欲な辺見勢左衛門と、勢左衛門のおい・恵府林之助の物語が描かれる。今回の上演版では、勢左衛門を彌十郎、勢左衛門の妻おらんを中村扇雀、林之助を中村錦之助が演じる。

勢左衛門は、初演では三世中村仲蔵が演じ、そのあと二世尾上松緑、中村富十郎、中村梅玉が演じてきた。勢左衛門を、今回初役で勤める彌十郎は「紀尾井町のおじさま（二世松緑）がおやりになっていたのは拝見していますし、また富十郎さんが演じられていた2003年の上演版も、兄貴（坂東吉弥）が出ていたので覚えています。面白いな、黙阿弥さんってこんな作品も書くんだと思いました」と作品の印象を語る。「ただ派手な場面もなく、散切物ですので、この作品を『壽 初春大歌舞伎』で上演するのか、と（笑）。でも改めて映像や音源を見直し聞き直すと、物語のラストが喜劇的であることに気が付いて。観にいらしたお客様には、正月らしく、楽しい気持ちでお帰りいただけるのでは」と話す。

また公演に向け、勢左衛門に扮した彌十郎のスチール写真が撮り下ろされた。彌十郎は完成した写真を見ながら「ちょっとぽてっとした方が良いかなと、少し肉（じゅばん）を着ています。いろいろ試したのですが、これ以上（肉じゅばんを）着ると西郷さんみたいになってしまう（笑）。この役は大柄な方が面白いかなと思うので、（自分の長身を）生かせれば」とコメント。役については「とことん嫌な奴でいこうと思っています！ お客様には勢左衛門に感情移入するより、俯瞰していただいたほうが、最後（勢左衛門が）痛めつけられちゃう場面で笑えるのでは」と微笑む。

また、自身が北条時政を演じたNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の反響を「知らない人から『パパ』と言われるようになりました。また、居酒屋さんで『しい様』とおじさんから言われて（笑）。こそばゆいですがありがたいです。三谷（幸喜）さんに感謝ですね」とうれしそうに笑う。「先週（の放送で）もボロボロに泣きました。みんな立派に育ってくれました、とあの世から子孫を見ている気持ち」と述べ、さらに今週末最終回を迎えることに「三谷さん、ラストを教えてくれなくて。なので、ドキドキしながら、覚悟を決めて観ます（笑）」と話す。さらに三谷から「人間万事金世中」を観に行くとメッセージをもらったことを明かし「気の引き締まる思いでいっぱい」と恐縮した様子を見せた。

なお、彌十郎が東京・歌舞伎座公演で主演を務めるのは、2017年8月の「修禅寺物語」以来のこと。「前回は父の追善でした。滅多に無いチャンスをいただいたと思っておりますので、全身全霊を傾けていきたい」と意気込みを述べつつ、「出演者は、気心の知れた同年代の方々。僕が主演というよりかは、『鎌倉殿』ではありませんが“合議制”で（笑）、皆さんと一緒に作品を作っていきたいですね」と語った。公演は1月2日から27日まで歌舞伎座にて。

なおステージナタリーでは、現在歌舞伎座で上演中の「市川海老蔵改め十三代目市川團十郎白猿襲名披露 八代目市川新之助初舞台『十二月大歌舞伎』」の特集記事を展開中。「助六」に出演する坂東玉三郎が、作品への思いや見どころ、そして歌舞伎の未来について語っている。