「野村裕基・初演『釣狐』」が、10月1日に東京・国立能楽堂で開催される。これに先駆け、出演者の
本公演では、裕基が祖父・野村万作の教えの元、大曲「釣狐」を披く。また父・萬斎が相手役である猟師を勤める。記者懇談会の冒頭では、体調不良のため欠席した万作のメッセージが萬斎により読み上げられた。萬斎は、万作の言葉「猿に始まり狐に終わる」について、自身と万作、裕基いずれも3歳のときに「靱猿」の子猿役で初舞台を踏んでおり、「釣狐」が野村家にとって狂言修行の“卒業論文”に例えられることを補足しつつ、「“卒業論文”ということですが、そこから社会に出るわけですから“終わり”ではありません。ここから次なるステップへ向かうための始まりでもあるわけです」と話す。
また万作がつづった「(裕基の)22歳での初演は少し早いかとも思います。私の初演は26歳でした。しかし裕基はこの春大学を卒業したわけですから、『釣狐』が大学の卒業論文にも例えられることを考えると、適当な年齢かと思います」という言葉に、萬斎は「私も裕基と同じ22歳で『釣狐』を初演しました。『釣狐』は非常に体力を使う作品なので、身体的な機能を鍛えるためにも、初演する年齢は遅くないほうが良いと思ったんですね」と述べる。また萬斎は「釣狐」の狐の難しさを「常と真逆のことをやる部分。例えば、通常は“陽”である左足から動くところを、狐なので“陰”である右足から動き出す。狐と向き合うことで、日常の芸との対比を学ぶことができる」と語った。
「釣狐」に挑むことについて、裕基は「父が22歳で『釣狐』を披いておりましたし、私自身『三番叟』『奈須与市語』の初演を経て、次は『釣狐』だろうなという思いもありました。なので、お話をいただいたときは『とうとうやってきたか』という気持ちでした」と述べる。さらに本作の稽古が7月から始まっていることを明かしつつ、「『釣狐』は非常に難しい曲。3歳で子猿を演じてから約20年、狂言に立ち向かってきましたが、本作がこれまで演じてきたものとは全く違う概念の作品であることは間違いありません。歳を重ねてから台本に向き合うことが増えてきましたが、今回は3歳の頃のように、祖父の言葉と音程をとにかくまねし、忠実に再現することに努めたい」と言葉に力を込める。
なお裕基が万作から役を習うことは、萬斎が万作に依頼して決定された。萬斎は「普段、私が裕基に狂言を教えているのですが、『釣狐』は父・万作がこだわってきた演目。父から習うことで、裕基に父が到達した芸の片鱗を受け継がせたいという思いもありました。ただ狐を教えるのにも体力が必要。91歳の父が稽古で飛んだり跳ねたりできるか、というところはありますので(笑)、動きの部分は私も手伝うことになるかと。いずれにせよ、父から直接習えることは幸せなことだと思います」と笑顔を見せた。チケットの一般販売は9月1日10:00にスタート。
「野村裕基・初演『釣狐』」
2022年10月1日(土)
東京都 国立能楽堂
舞囃子「高砂」
出演:観世三郎太
狂言「末広かり」
出演:三宅右近、佐藤友彦、石田幸雄
仕舞「熊坂」
出演:観世淳夫
仕舞「三山」
出演:大槻文蔵、大槻裕一
一調「勧進帳」
出演:観世清和、亀井広忠
一調「松虫」
出演:観世喜正、大倉源次郎
狂言「釣狐」
狂言「髭櫓」
出演:野村万作、野村又三郎、月崎晴夫、高野和憲、竹山悠樹、野村遼太、深田博治、野村太一郎、野村信朗 ほか
※初出時、本文に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。
柏木ゆげひ(朝原広基) @kashiwagiyugehi
【会見レポート】野村裕基が狂言修行の“卒業論文”「釣狐」に挑む(ステージナタリー8/2) https://t.co/4QCSSDsp9R 「10月1日に東京・国立能楽堂で…父・萬斎が相手役である猟師を勤める…萬斎は『普段、私が裕基に狂言を教えているのですが、『釣狐』は父・万作がこだわってきた演目』 」