「二月大歌舞伎」が2月1日から25日まで、東京・歌舞伎座で上演される。これに先駆け、出演者である
梅玉と松緑は、「二月大歌舞伎」第1部「元禄忠臣蔵 御浜御殿綱豊卿」に出演。真山青果が作を担う本作は、次期将軍と目される徳川綱豊卿(梅玉)と赤穂の浪人・富森助右衛門(松緑)の緊迫感みなぎるセリフの応酬が見どころの“忠臣蔵外伝劇”。梅玉が初めて綱豊卿を演じたのは、1992年に愛知・御園座で行われた四代目梅玉襲名披露狂言でのこと。綱豊卿を「大好きな役」と表現する梅玉は、「梅玉を襲名してから今年で30年になるのですが、その節目に、このお役をまた勤めさせていただけることをありがたく思っています」とほほ笑む。「(綱豊卿は)演じていて本当に気持ちが良いお役で(笑)、毎回ワクワクしながら勤めております。一番好きな場面は、助右衛門をねじ伏せ、『これが本当の復讐だ』と説き伏せる最後の長ゼリフ。綱豊の中で一番大事なセリフだと思っておりますし、そこでお客様にも酔っていただけるようにしたいですね」と意気込みを述べた。
松緑は、梅玉の指名を受け、今回、助右衛門に初役で挑む。松緑を本名の「あらしちゃん」と呼ぶ梅玉は「お芝居では、ある程度“普段の仲の良さ”が必要だと思うのですが、あらしちゃんとは昔から仲良くしておりますので(笑)、間の息は合うかと」と自信を見せる。さらに「彼のお父さん(初世尾上辰之助)も助右衛門を演じていましたが、お父さんと彼では性格が違っていて。亡くなった方に失礼だけど、僕はむしろあらしちゃんの性格のほうが、助右衛門の役に合っているような気がしています。仇討ちのことだけを考えて、それを必死にさとられまいとする助右衛門の一途さやまっすぐさが、彼にはある。共演自体久しぶりですし、綱豊卿、助右衛門として、どんな対決をするか今から楽しみです」とニヤリと笑う。
松緑は、梅玉の称賛の言葉に「すごくありがたいのですが、ハードルがどんどん上がってしまって、どうすればいいか……(笑)」と恐縮しきった様子で周囲の笑いを誘う。「ご襲名のときから、梅玉のお兄さんの綱豊は何度も観させていただいております。そして助右衛門は、中村富十郎のおじさまや、亡くなりました中村吉右衛門のおじ、そして私の父が演じているのを観て、素敵だな、カッコいいなと憧れていたお役。ただこの年まで演じたことがなかったので、縁のないお役だろうなと諦めていたところ、こうして梅玉のお兄さんにご指名いただき、うれしく、そしてありがたく思っています」と感謝を口にする。
出演が決定した際、京都にいた梅玉に「ぜひ稽古をつけてほしい」と電話で頼んだことを明かし、「お兄さんからは『これは君に合う役だから、自分なりに考えて、勉強して稽古においで』と言われました。なので、まさに今勉強中です。富十郎のおじさまの助右衛門の、歯切れの良さや爽やかさ、それとは対象的な、吉右衛門のおじの助右衛門の思慮深さ、そして父の“若さで全力投球”という助右衛門……そういった先輩方の助右衛門を自分の中で融合させ、お役を作り上げていければ」と真摯に述べる。「これからも機会があれば、ずっと助右衛門を勤めていきたいと思っており、今回はその1回目という気持ちで挑みます。何度も綱豊卿を勤めていらっしゃる梅玉のお兄さんの胸を借りて、全身全霊でぶつかっていきたい」と熱く語った。
会場のメズム東京からは、物語の舞台となる浜離宮が見下ろせる。取材前、2人は取材部屋からの景色を楽しんだ。松緑は「随分と前に、中に入ったことはあるんですけど、上から見下ろすことはなかなかないことですよね。改めて『舞台面と同じだな』と驚きました。こういう風情の中で、あの一連のストーリーが進行していったんだな、と」と語り、それに梅玉はうなずきながら「風情や風景といったところまで考えて、お芝居を作り上げていくところに、真山青果作品の素晴らしさを感じます」とコメントした。
また記者から、今年が松緑にとって、松緑を襲名してから20年の節目であることを伝えられると、梅玉は「ええ、20年!? “あらしちゃん”なんて呼んじゃいけないね……(笑)」と驚きの声を上げつつ、「彼の節目の年に共演できることも、すごく意義のあることです」と言葉に力を込めた。松緑は「この記念の年に、梅玉のお兄さんと一緒に綱豊卿と助右衛門を演じられて……本当にありがたいの一言です」感慨深げに語った。
最後に来場者に向けたメッセージを求められると、梅玉は「こんな状況の中、歌舞伎座に足を運んでくださったお客様に『良い芝居が観れて良かった』と思っていただけるよう、充実した舞台を作り上げることが我々の使命だと思っています」とコメント。松緑もそれに同意し、「お客様は、現実を忘れられる空間を楽しみに来てくださるわけなので、歌舞伎座を出たとき『ああ、上演中は嫌なことを忘れていたな』と、晴れやかな気持ちで帰っていただけるように勤めたい」と決意を新たにし、会見を締めくくった。チケットの販売は、1月14日10:00にスタート。
なおステージナタリーでは、現在歌舞伎座で上演中の「壽 初春大歌舞伎」の特集を展開中。松本幸四郎、市川猿之助、中村獅童が座談会で、それぞれが出演する演目の魅力を語っている。「二月大歌舞伎」
2022年2月1日(火)~25日(金)
東京都 歌舞伎座
第1部
一、元禄忠臣蔵 御浜御殿綱豊卿
作:真山青果
演出:真山美保
出演
徳川綱豊卿:
富森助右衛門:
中臈お喜世:中村莟玉
上臈浦尾:中村歌女之丞
小谷甚内:片岡松之助
新井勘解由:中村東蔵
御祐筆江島:中村魁春
二、石橋
出演
獅子の精:中村錦之助
獅子の精:中村鷹之資
獅子の精:尾上左近
第2部
一、春調娘七種
出演
曽我十郎:中村梅枝
静御前:片岡千之助
曽我五郎:中村萬太郎
二、義経千本桜 渡海屋 大物浦 片岡仁左衛門一世一代にて相勤め申し候
出演
渡海屋銀平実は新中納言知盛:片岡仁左衛門
源義経:中村時蔵
女房お柳実は典侍の局:片岡孝太郎
入江丹蔵:中村隼人
銀平娘お安実は安徳帝:小川大晴
相模五郎:中村又五郎
武蔵坊弁慶:市川左團次
第3部
一、鬼次拍子舞
出演
山樵実は長田太郎:中村芝翫
白拍子実は松の前:中村雀右衛門
二、鼠小紋春着雛形 鼠小僧次郎吉
作:河竹黙阿弥
出演
稲葉幸蔵:尾上菊之助
刀屋新助:坂東巳之助
芸者お元:坂東新悟
杉田娘おみつ:中村米吉
蜆売り三吉:尾上丑之助
石垣伴作:中村吉之丞
左膳弟子左内:市村橘太郎
養母お熊:嵐橘三郎
与之助:坂東亀蔵
早瀬弥十郎:坂東彦三郎
本庄曾平次:河原崎権十郎
大黒屋抱え松山:中村雀右衛門
辻番与惣兵衛:中村歌六
※初出時より本文を一部変更しました。
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【会見レポート】「元禄忠臣蔵」中村梅玉、尾上松緑との“対決”に「今から楽しみです」とニヤリ
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