料理も芝居も“いつどこで誰と何を楽しむか”、舌と心を満たす「MPAD2021」開催

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「MPAD2021」が三重県の各所で開催された。ここでは11月25日にradi cafe apartmentにて上演されたうさぎ庵「トカトントン」と、26日に塔世山 四天王寺で行われた百景社「駈込み訴え」の様子をレポートする。

百景社「駈込み訴え」より。(c)オモタニカオリ

百景社「駈込み訴え」より。(c)オモタニカオリ

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うさぎ庵「トカトントン」の会場となった radi cafe apartment。(c)松原豊

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2011年に始まった「MPAD」は、三重県内の飲食店・寺院を会場に、料理と俳優の身体を通じて名作・古典のリーディング公演を楽しめる企画。17日には割烹旅館 八千代にて林英世「猫」「ふたたび猫」、18日には中津軒にて大谷朗×角ひろみ「船の破片に残る話」「花咲く島の話」「強い大将の話」「ある夜の星たちの話」、19日には喫茶tayu-tauにて西本浩明「機械」、21日には三重県文化会館 小ホールにて上記3作品の「まとめ見1」、24日にはうなぎ料理 はし家にて田中遊×広田ゆうみ「『耳で楽しむ古事記(ふることふみ)』~その1 天地初発~」が上演された。

うさぎ庵「トカトントン」の会場となった radi cafe apartmentの店内。(c)松原豊

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25日の会場となったradi cafe apartmentは、近鉄四日市駅近くの古いアーケード内にあるカフェ。白壁に木の床、木の机と椅子が映える店内は、印象的な形のシーリングライトとアーチ状に切り取られた壁がアクセントになっている。今回のメニューは、キッシュやパデトカンパーニュが盛り付けられた1皿と、肉厚なのに柔らかい鴨のロースト、噛むたびに変化する味と食感が楽しい“サーモンの自家製マスタードソース”の3皿。1人で来ていた観客も多かったが、相席したほかの観客とアクリル板越しに料理の感想や、最近観た舞台の感想を言い合う姿が見られた。

radi cafe apartmentのメニューより。(c)松原豊

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うさぎ庵「トカトントン」より。(c)山羽宏樹

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食事が終わると2階に移動し、うさぎ庵「トカトントン」が披露された。部屋の一番奥には、アーチ状の壁で仕切られた小さなスペースがあり、そこへセーラー服姿の折舘早紀が姿を現す。前説で、折舘が青森出身で、太宰の後輩にあたる高校の卒業生であることが明かされると、観客から拍手が起きた。初め、折舘は図書館の貸出係のような一人芝居を繰り広げる。そして1冊の本を手にし、「これ? 読んだことはないです」と言ってページを開くと、彼女は津軽弁で「トカトントン」を語り始め……。戦後、何かに熱中すると“トカトントン”という音が聞こえるようになった青年は、同郷である作家に手紙を出し、その苦悩を訴える。「一つだけ教えてください」「教えていただきたいことがあるのです」、そう畳み掛ける男の思いは、語りに熱っぽさが入れば入るほど、悲痛さと共に虚しさをにじませ、観客を物語世界に引き込む。折舘は堂々たる演技で約45分を駆け抜け、観客からは大きな拍手が起きた。

百景社「駈込み訴え」の会場となった三重・塔世山 四天王寺。(c)オモタニカオリ

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百景社「駈込み訴え」の会場となった三重・塔世山 四天王寺。(c)オモタニカオリ

百景社「駈込み訴え」の会場となった三重・塔世山 四天王寺。(c)オモタニカオリ[拡大]

26日の会場となったのは、津駅から徒歩約10分、三重県庁の程近くにある塔世山 四天王寺。正徳太子にゆかりがあるという寺の境内は、紅葉で色づいたさまざまな木々が、石畳に柔らかな影を作っていた。その紅葉を臨みながらいただく食事は、境内の一角にあるペコリーノ・カフェの仕出し弁当。二段重ねの箱の大きなほうには、色とりどりの12種類のおかず。小さなほうにはちらし寿司とプリン、フルーツが盛り付けられていた。蓋を開けた瞬間、「わあ」っという小さな歓声が上がり、続けて「どれから食べよう……」という呟きが聞こえてきた。

ペコリーノ・カフェの仕出し弁当。(c)オモタニカオリ

ペコリーノ・カフェの仕出し弁当。(c)オモタニカオリ[拡大]

百景社「駈込み訴え」より。(c)オモタニカオリ

百景社「駈込み訴え」より。(c)オモタニカオリ[拡大]

食事のあと、本堂に移動して上演が行われた。四天王寺は11年連続で「MPAD」の会場となっているが、これまでは庭で上演されることが多く、本堂での上演は初の試み。薬師如来像に背を向ける形で設られたアクティングエリアには、白い布がかけられた長テーブルが据えられ、パイプ椅子がズラリと並べられた。上演の前には住職があいさつ。住職は「駈込み訴え」が“愛”についての物語であり、仏教における苦しみは“四苦八苦”で分類されることを説きながら、人間の表裏一体の気持ちをこの空間で感じてほしいと話した。その後、真っ白な衣裳を着た鬼頭愛が、会場に姿を現す。「申し上げます。申し上げます。旦那様……」と淡々と話し出すが、抑えきれない感情は固く握られた右手の拳に込められ、その感情の高まりを振り切るように拳が振り下ろされる。キリストに対する愛憎入り混じった思いを、“できるだけ冷静に”伝えようとするユダだが、その訴えは徐々に熱を帯び、叫びへと変わり、本堂いっぱいに響き渡り消えていった。

食事が提供される形での「MPAD2021」は、百景社「駈込み訴え」で終了。明日11月28日には三重県文化会館 小ホールで、この「駈込み訴え」のほか、田中遊×広田ゆうみ「『耳で楽しむ古事記(ふることふみ)』~その1 天地初発~」、うさぎ庵「トカトントン」による「まとめ見2」が上演される。上演を見逃した人はこちらをチェックしてみては。

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「MPAD2021」

2021年11月17日(水)~28日(日)
三重県 各所

林英世「猫」「ふたたび猫」

2021年11月17日(水) ※公演終了
三重県 割烹旅館 八千代

作:藤沢周平
演出・出演:林英世

大谷朗×角ひろみ「船の破片に残る話」「花咲く島の話」「強い大将の話」「ある夜の星たちの話」

2021年11月18日(木) ※公演終了
三重県 中津軒

作:小川未明
演出:角ひろみ
出演:大谷朗

西本浩明「機械」

2021年11月19日(金) ※公演終了
三重県 喫茶tayu-tau

作:横光利一
演出:西本浩明
出演:西本浩明、LAVIT

まとめ見1

2021年11月21日(日) ※公演終了
三重県 三重県文化会館 小ホール

出演団体:林英世、大谷朗×角ひろみ、西本浩明

田中遊×広田ゆうみ「耳で楽しむ古事記(ふることふみ)」~その1 天地初発~

2021年11月24日(水) ※公演終了
三重県 うなぎ料理 はし家

編纂:太安万侶
現代語訳:橘雪子
出演:田中遊広田ゆうみ

うさぎ庵「トカトントン」

2021年11月25日(木) ※公演終了
三重県 radi cafe apartment

作:太宰治
演出:工藤千夏
出演:折舘早紀

百景社「駈込み訴え」

2021年11月26日(金) ※公演終了
三重県 塔世山 四天王寺

作:太宰治
演出:志賀亮史
出演:鬼頭愛

まとめ見2

2021年11月28日(日)
三重県 三重県文化会館 小ホール

出演団体:田中遊×広田ゆうみ、うさぎ庵百景社

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渡辺源四郎商店 @nabegenhonten

【公演レポート】料理も芝居も“いつどこで誰と何を楽しむか”、舌と心を満たす「MPAD2021」開催 https://t.co/gCeaF2utUI

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