「首切り王子と愚かな女」は、
舞台中央には可動式の木組みの台がいくつも置かれ、ステージ上手と下手、そして後方には長机と椅子が出演者の人数分並び、それらは透明なパネルで囲まれている。机の上には箱入りのティッシュや小道具ボックスが置かれており、舞台上には稽古場をそのまま持ち込んだかのような景色が広がっていた。
ステージには開演5分前から俳優たちが姿を現し、衣装や小道具を手に本番の準備を始める。やがてすべての出演者がセッティングを終えると、ヴィリ役の伊藤はアクティングエリアへ。伊藤が片手を上げてスタッフに合図を送ると、照明が切り替わり、本編がスタートした。
キャストたちは、自身が出演しない場面では自席に座り、物語を見守る。出番が来た俳優は静かにアクティングエリアのそばで待機し、きっかけが来ると一瞬で演技のスイッチを入れ、厳粛な表情でしずしずと歩み出たり、息を切らして舞台に駆け込んだりする姿を見せた。
井上は傍若無人で残忍だが、深い孤独を内に秘めるトルの人物像を、緩急を付けた演技で表現。暗い目つきで首切りを命じる一方、ヴィリと一緒にゲームや釣りに興じるシーンでは、無邪気な笑顔でトルの内面の幼さを描き出した。伊藤は軽快な身のこなしで舞台上を動き回り、バイタリティあふれるヴィリを演じる。テンポの良い語り口でセリフを聞かせつつ、トルがかんしゃくを起こすシーンでは「ださい」「子供か」と鋭いツッコミを入れ、緊迫した空気を緩ませた。
ゲネプロ前に行われた取材会には、井上と伊藤、若村、そして作・演出の蓬莱が出席。蓬莱はコロナ禍の現状を受けて「異世界を味わってほしい」と考えて本作を構想したと言い、「芳雄くんはいいやつなので、普段と正反対の彼を見せたかった。沙莉ちゃんは小さい体にすごいエネルギーを秘めています。そんな2人が格闘するシチュエーションを作りたいと思ったら、悲惨な話になりました……」と笑い交じりに明かした。
“ミュージカル界のプリンス”と称される井上は、“首切り王子”役について「王子役の集大成のつもり(笑)。まあもうそんなに“王子”のオファーも来ないですが……」と笑いを誘う。また「結末で2人(トルとヴィリ)が下す決断には、今の年齢だからこそ自分を重ねました。演劇でもそうですが、自分ばかりががんばるのではなく、下の世代に託していかなくては」と感慨深げな表情を浮かべた。
約4年ぶりに舞台に立つ伊藤は「シンプルに吐きそう(笑)」と率直に打ち明けて記者たちを笑わせる。伊藤は井上の印象を「見た目も中身も本当に王子様ですが、トルを演じる姿にも違和感がない。笑顔だけではなく切なさも似合う方」と述べる。自身の役どころについては「ヴィリは口が悪いので、そういうセリフは言いやすい(笑)。ヴィリは姉に強く執着していて、家族に対してつい素が出るところに共感します」と語った。
若村は「王国の話ですが、家族の物語でもある」と作品を分析。続けて「私は役と違って実際には母親ではありません。でも我が子を失いかけている彼女のつらさは想像できる。人とお別れする機会が多い時代なので、作品を通して命について改めて考えさせられます」と言葉に力を込めた。
稽古場のような舞台美術について蓬莱が「帝国劇場とかではありえないセット」とコメントすると、井上が即座に「見たことないです」とうなずいて会場を和ませる。蓬莱は「演劇の想像力の豊かさをそのまま舞台で表すには、稽古場を再現するのが一番だと思った」と意図を説明し、「俳優は楽屋にいるように舞台上で待機します。俳優の“オフ”が“オン”になる姿も観られるので、演劇ができていく過程を感じてもらえる。お客様にもだんだん、舞台上にファンタジーの世界が見えてくればいいなと思います」と思いを口にした。
上演時間は休憩20分を含む約2時間45分。公演は7月4日までPARCO劇場、10・11日に大阪・サンケイホールブリーゼ、13日に広島・JMSアステールプラザ 大ホール、16・17日に福岡・久留米シティプラザ ザ・グランドホールにて行われる。
パルコ・プロデュース「首切り王子と愚かな女」
2021年6月15日(火)~7月4日(日) ※蓬莱竜太の「蓬」は一点しんにょうが正式表記。
東京都 PARCO劇場
2021年7月10日(土)・11日(日)
大阪府 サンケイホールブリーゼ
2021年7月13日(火)
広島県 JMSアステールプラザ 大ホール
2021年7月16日(金)・17日(土)
福岡県 久留米シティプラザ ザ・グランドホール
作・演出:
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