チェルフィッチュ主宰の岡田が作・演出、舞台映像デザイナーの山田が映像を手がける〈映像演劇〉は、等身大の俳優の映像がスクリーンや壁などに投影され、上演・展示される演劇作品。「風景、世界、アクシデント、すべてこの部屋の外側の出来事」は、昨年8月に北海道・札幌文化芸術交流センター SCARTS SCARTSコートで初演され、今回が本州で初の上演となる。展示作品には「カーテンの向こうで起きていること」「高い穴のそばで」「仕切り壁が仕切りを作っている」「ダイアローグの革命」の4作品がラインナップされており、出演者には
トークでは、各作品の内容に触れる前に、まず岡田と山田がそれぞれに〈映像演劇〉の定義を述べた。2人は「“フィクションがどこに起こるか”がキーワード」と答え、岡田は「僕たちが映画館で映画を観ているとき、フィクションは“スクリーンの中”では起こっていても、実際に僕たちがいる“映画館の中”では起こっていない。僕たちが〈映像演劇〉でやろうとしていることは、観客がいる“その場所”でフィクションを起こす、ということ。映像を用いていても、作品が上演・展示されるその場でフィクションが生じていれば、それは映画ではなく、演劇である、と僕らは捉えています」と説明する。
岡田の言葉に同意しつつ、山田が「観客が、映像の中の俳優と“目が合っている”と感じることがあればいいな、と思いながら〈映像演劇〉を作っています。映画の中で俳優がカメラ目線で映っても、観客は“見られている”と感じることはあまりないかと思いますが、〈映像演劇〉では起こり得る」と続けると、岡田もそれに頷き「観客は、今観ているものが録画された映像である、ということを理解したうえで、俳優がここに存在しているように感じてしまう。その、ちょっとくらっとするようなズレは、普通の演劇では起こせないこと」と〈映像演劇〉の良さに触れた。
4つの作品は同じ部屋に展示されており、「ダイアローグの革命」以外の3作品は、順番に“上演”される。椎橋の一人芝居「カーテンの向こうで起きていること」は、レースのカーテンが揺らぐなか、その奥に佇む椎橋が、“カーテンの向こうの世界”をモノローグで語っていく作品。山田は、制作の発端を「揺れるカーテンに、揺れるカーテンの映像を投影するアイデアを思いついて。さらに後ろに人が立っている映像を重ねたら面白かった。すぐに『岡田さん!』とアイデアを投げたら、岡田さんも『いいじゃない』と(笑)」と創作の過程を振り返る。
「高い穴のそばで」は、足立と椎橋の音声による作品。観客は、“穴 hole”と刻印されたテーブルを見つめながら男と女のダイアローグに耳を澄ませ、語られている光景を音声から想像することになる。本作には“映像”は使われていないが、そのことについて岡田は「〈映像演劇〉と同じ考え方で作ったので、これも〈映像演劇〉。……ほとんど屁理屈ですが(笑)」と前置きしつつ、「作品の一番の肝は、鑑賞する人の想像力なんです。僕にとってこの作品の一番のポイントは、2人の俳優の声の出どころを変えていないところ。これによって、観客はどちらのの俳優が上にいて、どちらが下にいるかを自分の中で自由に想像できるんですね」と見どころを語った。
「仕切り壁が仕切りを作っている」は、劇場ロビーと劇場を仕切る壁に映像が投影され、男が世界に対する不満をこぼすという足立の一人芝居。岡田は「映像だと、俳優がカメラを見れば、観ている人全員と“目が合う”んです。生身の人間にはできないこと」と述べ、「この作品は、1日を通して表情が変わるんですよね。夕方になると、ガラスの向こうに、勉強する高校生たちが見えたりして。そんな若い子たちを、映像中の俳優が呪詛を吐きながら睨みつける(笑)。大人げないな、と思いつつ、それが面白い」と微笑んだ。
山田も「札幌では、劇場ロビーではなく、割とラグジュアリーな雰囲気の喫茶店が見えていたので、そんな場所にいる人たちに呪詛を吐き続けるというのが面白かった(笑)。でも今回の上演で、そこにどんな相手がいようと、”俳優が呪詛を吐き続ける”というフィクションが成立するんだ、ということがわかってうれしかったですね」と笑顔を見せると、岡田は「人間、持とうと思えば何に対しても不満は持てるんですよね……(笑)」とつぶやき、会場を笑いで包んだ。
「ダイアローグの革命」では、巨大なスクリーンに足立と椎橋が映し出され、観客はヘッドホンをつけながら、スクリーン前に置かれたソファで作品を鑑賞する。岡田は創作のきっかけを「僕は、演劇って、舞台上のパフォーマーと、それを観ているお客さんのダイアローグだと思っているんです。僕が難しいと感じているのは、舞台上でのパフォーマー同士のダイアローグ。今作では、僕がずっと考えている“どうしたらパフォーマー同士のダイアローグを成立させられるのか”ということをテーマに、制作に取り組みました」と明かした。
なおトークでは6月から7月にかけて神奈川・兵庫、穂の国とよはし芸術劇場PLATでも上演される岡田作・演出「未練の幽霊と怪物―『挫波』『敦賀』―」の稽古の様子や、岡田と山田が〈映像演劇〉に感じている可能性などについても語られた。チェルフィッチュの〈映像演劇〉「風景、世界、アクシデント、すべてこの部屋の外側の出来事」は5月21日まで。
また岡田と山田は来年3月に、同劇場が企画する市民参加型プロジェクト・市民と創造する演劇で、〈映像演劇〉の手法を活用し、豊橋市民と共に新作を作り上げる。「over the underground」と題された本企画の構想について、岡田は「何をどこまで話しても良いのかわからないのですが、でも『全部秘密です』は面白くないですよね」とニヤリと笑い、「今回意識してしてみたいなと思っているのは、映像が“記録”でもある、ということ。このプロジェクトを通じて、参加される豊橋市民の、今の状態を記録する、その“記録性”を生かしたいなと」とアイデアを語った。「over the underground」への参加応募締め切りは6月27日17:00までで、本番は来年の3月5・6日を予定している。
チェルフィッチュの〈映像演劇〉「風景、世界、アクシデント、すべてこの部屋の外側の出来事」
2021年5月14日(金)~21日(金)11:00~19:00 ※最終日の21日のみ17:00に終了
愛知県 穂の国とよはし芸術劇場PLAT アートスペース
作・演出:
映像:
出演:
チェルフィッチュの〈映像演劇〉「風景、世界、アクシデント、すべてこの部屋の外側の出来事」岡田利規・山田晋平トーク
2021年5月14日(金)19:00~20:00 ※イベント終了
愛知県 穂の国とよはし芸術劇場PLAT 創造活動室A
出演:岡田利規、山田晋平
市民と創造する演劇「over the underground」
2022年3月5日(土)・6日(日)
愛知県 穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
作・演出:岡田利規
映像:山田晋平
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