本公演は、アガサ・クリスティーの長編推理小説「オリエント急行殺人事件」を原作にケン・ルドウィックが手がけた舞台脚本を、
物語の舞台は、イスタンブール発の豪華寝台列車・オリエント急行。シリアでの仕事を終えた私立探偵のポアロは、新たな事件の依頼を受け、イギリスに向かおうとしていた。しかし、彼が乗ろうとしていたオリエント急行は、珍しく満員とのことで、車掌のミシェルから乗車を断られてしまう。そこにポアロの昔からの知り合いで、鉄道会社の重役・ブークが現れ、彼の計らいにより、ポアロは運良く乗車できることに。翌朝、ポアロは乗客で貿易商人のサミュエル・ラチェットから「ボディガードをしてほしい」と頼まれる。ラチェットの高慢な態度に、すげなく依頼を断ったポアロだったが、その後、雪崩に巻き込まれ止まってしまった列車の中、何者かに殺されたラチェットが発見され……。
謎が謎を呼ぶ展開や、豪奢な舞台セットと衣装、映像を使用した臨場感あふれる演出に加え、列車に乗る11名の魅力的なキャラクターも見どころの本作。それぞれの役はキャストの演技によって人間臭く立ち上げられ、“正義”と“真実”をテーマにした物語に深みを与えた。椎名は、セリフ回しや立ち居振る舞いの1つひとつに、優雅さや品の良さ、知性を感じさせる。一方で、周囲が理解できない冗談を飛ばしながら「ホホホホ……」とポアロが奇妙な笑い声を上げるシーンでは、彼の“変人”としてのおかしみを強調し、客席を笑いで包んだ。
松井は、貴族に嫁いだ医大生・アンドレニ伯爵夫人を、かれんさと聡明さを持ち合わせた女性として表現。松尾はブークを気さくで優しい男として演じつつ、後半の推理パートでは、ポアロの右腕的存在として活躍した。室は、ラチェットの秘書・ヘクターを、甲高い声色と落ち着きのない様子で、どこか憎めない青年として表現し、本仮屋は、家庭教師のメアリーを、まなざしや佇まいに意思の強さをにじませながら演じた。ラチェットとアーバスノット大佐に扮する粟根は、片や威圧感のあるずる賢い老人、片や真面目な中年の軍人と、正反対の2役を巧みに演じ分けた。
グレタ・オルソン役の宍戸は、度々奇行に走る、不気味な雰囲気を漂わせた信心深い宣教師、ヘレン・ハバード役のマルシアは、陽気で我が強く、場の空気をかき乱す旅行者と、それぞれ系統の違ったコミカルな芝居で、物語にアクセントを加えた。ミシェル役の中村は、個性的な乗客の世話を焼くたった1人の車掌として右往左往し、観客の笑いと同情を誘う。そして高橋は、列車内で最年長のドラゴミロフ公爵夫人を、嫌味っぽさがありつつも、高潔さを際立たせた演技で、貴族としての存在感を示した。
開幕直前取材には、出演者全員と河原が出席。本作を「“抜ける”場所が本当にない舞台」と表現した椎名は、「『鬼滅の刃』の映画『無限列車』に例えますと(笑)、“全集中”ですよ! これだけの人数が同じ舞台上にいるので、河原さんからは、数センチ単位を把握して動くような、細かい演出をつけていただきました」と明かす。さらに「共演者の皆さんとは1つになって作り上げてきました。1カ月半、情熱を持って稽古を重ねてきたので、お客様にはきっと満足していただけるかと。そうですよね?」と優しく呼びかけると、出演者たちは笑顔でうなずいた。
椎名の発言で会場が盛り上がったあと、コメントを求められた河原は、「……僕いりますかね?(笑)」とポツリとこぼす。「みんなが“数センチ単位”を守ってくれたら、良い芝居になるかと!」と笑みを浮かべつつ、今回初タッグを組む椎名のことを「本当に素敵な方。もっと怖い人かと思っていたんですけど、マイペースで穏やかで、話しやすくて。(椎名が)座組の真ん中を担ってくれたおかげで、みんなリラックスして稽古ができたんじゃないかなと。ポアロはセリフ量が膨大なのですが、大変な中、ダンディに、ウィットを持って演じてくださっている。ポアロが桔平さんで良かった」と信頼を寄せた。
椎名演じるポアロの印象を問われると、マルシアは「日本でしか見れないポアロですね。本当にカッコよくて、目がキラキラなさっていて……セリフをやりとりしているとき、ちゃんと役でいられるよう気をつけています(笑)」と話し、室は「とてもカッコいいのですが、ちゃめっ気もある。すごく素晴らしい大人の男性だなと」と絶賛。高橋は「皆さんがおっしゃったように、素敵で、ちゃめっ気のあるポアロ。椎名さんが素敵だから、ポアロも素敵なんですね」とほほ笑む。
作品について話が及ぶと、本仮屋は「この話、すごい緊張するんですよ。その緊張の糸の張り詰め方が、昨日今日と、ものすごく上がってきていて。どこまで張り詰めながら、走り続けられるかワクワクしています」と気合い十分な様子を見せる。「私は鉄道が好きなので、オリエント急行というこの素晴らしい車両に乗れることが大変幸せ」と笑みを浮かべた松井は、「多くの方から愛されている作品。結末を知っていたとしても、舞台ならではのエッセンスもあるので、あっと驚いていただきたい」とコメントした。
最後に椎名は「『幕が開くのかな』という不安を抱えながら、明日の開幕を信じて稽古を重ねてきました。明日、ここにお客様がいらっしゃって、我々の『オリエント急行』をお見せできることにワクワクしています。劇場の衛生面もしっかり対策していただいているので、安心してご来場いただければ。ネガティブな気持ちを、元気でポジティブな気持ちに変えさせるようなパワーが、僕たちの芝居にあるということを実感しています。お楽しみに」と来場者にメッセージを送り、取材会を締めくくった。上演時間は、途中休憩を含む約3時間。公演は12月27日まで。
「オリエント急行殺人事件」
2020年12月8日(火)~27日(日)
東京都 Bunkamuraシアターコクーン
演出:
Agatha Christie MURDER ON THE ORIENT EXPRESS
Adapted for the stage by Ken Ludwig
出演
エルキュール・ポアロ:
アンドレニ伯爵夫人:
ブーク:
ヘクター・マックイーン:
メアリー・デブナム:
サミュエル・ラチェット / アーバスノット大佐:
グレタ・オルソン:
ミシェル:
ヘレン・ハバード:
ドラゴミロフ公爵夫人:
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