「吉例顔見世大歌舞伎」に出演する
「八月花形歌舞伎」の第3部「義経千本桜 吉野山」、「九月大歌舞伎」の第2部「色彩間苅豆 かさね」と、8月に東京・歌舞伎座が興行を再開させてから、2カ月連続で出演していた猿之助。公演を観た記者から「演技に気迫がこもっていた」と感想を伝えられた猿之助は「6カ月ぶりで僕らも溜まっていたものがあった、というのもありますが……お客様は身の危険を顧みずに来てくださっているわけですから、その期待に応えたいという思いでした」と言葉に力を込めた。
今回、猿之助が出演するのは第1部「蜘蛛の絲宿直噺」。本作で5役の早替りに挑む猿之助は「今回は出演者の多い『蜘蛛の絲梓弦』ではなく、人数を少なくした『蜘蛛の絲宿直噺』を上演します」と説明し、「早替りには舞台裏に人員が必要なので、規制が緩められたからできる演目。1時間以内、少ない登場人物で、という中で(演目が)選ばれているので。1人で5役やるのもそのせいです(笑)」と冗談を飛ばす。
猿之助は、感染症対策のため、今月も少ない稽古回数で上演に臨むことに触れつつ、「うちは代々早替りが得意な家。だから(早替り公演の)先陣を切るならうちかな、という思いはありました。早替りにはチームワークが重要ですが、僕らとお弟子さんたちの間には深い信頼関係がある。だからこそ勤められると思っています」と自信をのぞかせた。さらに自身が出演していたテレビドラマ「日曜劇場『半沢直樹』」の登場人物に絡め、「伊佐山、大和田、渡真利、中野渡あたりの早替りにしたほうが、お客さんは入るでしょうね(笑)。『忠臣蔵』じゃないですけど、江戸時代ならそういうことをやっていたと思います」といたずらな笑みを浮かべる。「コロナの影響で客席に制限はありますが、入るだけの定員を満杯にしたいです」と目標を掲げた。
記者から、演じるうえでの心構えを問われた猿之助は「山城屋の(坂田)藤十郎のおじさんに役を習ったんですけど、曰く『気持ちなんかあらへんよ』と(笑)。『観客は役じゃなくて、坂田藤十郎を待ってるでしょ』っておっしゃるんですね。まず最初に自分があって、そこから役に入る。俳優には自分に役を引きつけるタイプと、自分が役に近づくタイプがありますが、うちの澤瀉屋も、どちらかといえば前者のタイプ」と話す。また作品のラストについて「本来なら隈取りを取って蜘蛛の精になるんですけど、感染症対策のため場面転換ができない。なので今回は隈取りは取らず、大川橋蔵さんや山城屋さんがやった型で演じます」と明かした。
「難しい時代ではありますが、生で観る良さを伝えていきたい」と心境を語る猿之助は、「歌舞伎の強みは、3日の稽古でできるところ。どの俳優も『これならできる』という演目を持っているので。ただ現状、打ち合わせなどができないぶん、新作歌舞伎をやりにくいのが難点ですが……でも(松本)幸四郎さんは、国立劇場で新作やってますからね(笑)。『図夢歌舞伎』もそうですけど、本当に高麗屋の“とにかくやる”姿勢はすごい。尊敬しています」と松本幸四郎を称賛。「最近、幸四郎さんと『1時間でできる通し狂言はないかね』と話をしました。1時間で『忠臣蔵』をやるとかね(笑)。さすがに無謀だなあと思うんだけど、1時間の『千本桜』、1時間の『伊達の十役』……今後のことはわかりませんが、コロナ禍で果たしてどんなことができるのか。とにかく模索していくしかないですね」と前向きな姿勢を見せた。
「蜘蛛の絲宿直噺」には、猿之助に加え、源頼光役の中村隼人、碓井貞光役の中村福之助、金時女房八重菊役の市川笑三郎、貞光女房桐の谷役の市川笑也、坂田金時役の市川猿弥が出演する。「吉例顔見世大歌舞伎」は歌舞伎座にて、11月1日から26日まで。チケットの販売は本日10月17日10:00にスタート。
「吉例顔見世大歌舞伎」
2020年11月1日(日)~26日(木)
東京都 歌舞伎座
第1部「蜘蛛の絲宿直噺」
出演
女童熨斗美 / 小姓澤瀉 / 番新八重里 / 太鼓持彦平 / 傾城薄雲:
源頼光:中村隼人
碓井貞光:中村福之助
金時女房八重菊:市川笑三郎
貞光女房桐の谷:市川笑也
坂田金時:市川猿弥
※小姓澤瀉の「瀉」のつくりは、わかんむりが正式表記。
第2部「新古演劇十種の内 身替座禅」
作:岡村柿紅
出演
山蔭右京:尾上菊五郎
太郎冠者:河原崎権十郎
侍女千枝:尾上右近
同 小枝:中村米吉
奥方玉の井:市川左團次
第3部「一條大蔵譚 奥殿」
出演
一條大蔵長成:松本白鸚
吉岡鬼次郎:中村芝翫
女房お京:中村壱太郎
八剣勘解由:松本錦吾
女房鳴瀬:市川高麗蔵
常盤御前:中村魁春
第4部「義経千本桜 川連法眼館」
出演
佐藤忠信 / 源九郎狐:中村獅童
源義経:市川染五郎
駿河次郎:市川團子
亀井六郎:澤村國矢
静御前:中村莟玉
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