「東京原子核クラブ」は1997年に初演された作品。マキノは本作で読売文学賞の戯曲・シナリオ賞を受賞した。舞台は昭和初期、風変わりな住人が集う下宿屋・平和館。理化学研究所に勤務する若き原子物理学者・友田晋一郎は、論文の発表が海外のライバルに先を越されて自信を失っていた。そんな折、平和館に訪れた海軍中尉・狩野が、理研の研究で新型爆弾を作れるのではないかと思いつき……。
マキノは本作について「執筆当時よりも、間違いなく現代の方がより喫緊の、切実性を伴ったものとなっているように思います。歴史となった過去の物語を書いたつもりが、いつのまにか遠くない将来のことを描いているような気がしきりにして、空恐ろしささえ感じます」と所感を述べ、「この作品に込めた23年前のさまざまな思いを、今回あらためて咀嚼、熟考しながら、再びこの作品と向かい合いたいと考えています」と語っている。
公演は2021年1月9日から17日まで行われる予定。なお出演者募集のワークショップオーディションが4月16日から19日まで東京都内で実施され、応募は3月28日23:59まで受け付けられている。
※初出時、本文に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。
マキノノゾミ コメント
この作品の初演は1997年の1月で書いたのは前年の秋ですから、おそよ23年前のことになります。劇作を始めて今年でちょうど30年ですから、かなり初期の作品ということになりますが、いまだに私の代表作といえば、この「東京原子核クラブ」だとよく人からいわれます。
私も現役の劇作家である以上、代表作はつねに最新作であるべきだと考えており、そういわれることに常々不本意な思いも抱いております。
ただ、当時は熱に浮かされたように無我夢中で書いたこの作品を、今の年齢であらためて読み直してみると、やや得心も行くようになりました。
たとえば、この作品には、戦時中の日本における原子爆弾製造計画についてふれた箇所があります。
今読み返してみると、自然科学の発達が、ときに後戻りできない人類にとっての閾値を易々と超えてしまう恐怖と、状況次第では私たちはいとも容易に被害者から加害者の地位に転落し得る可能性があること、その重要な事実を忘れずにいることを表明しておくことなどが、(当時はさしたる自覚もないままに)執筆時の主題であったように思われます。
さらに登場人物の多くはしっかりとした良心を持った善人ですが、科学者であれ、芸術家であれ、軍人であれ、誰一人として国家の行いつつある戦争に対してこれを抑止する力を持たず、無力なままで終わります。
これらの主題やモチーフは、執筆当時よりも、間違いなく現代の方がより喫緊の、切実性を伴ったものとなっているように思います。歴史となった過去の物語を書いたつもりが、いつのまにか遠くない将来のことを描いているような気がしきりにして、空恐ろしささえ感じます。
この作品に込めた23年前のさまざまな思いを、今回あらためて咀嚼、熟考しながら、再びこの作品と向かい合いたいと考えています。
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マキノノゾミ作・演出「東京原子核クラブ」2021年に上演決定、出演者を募集(コメントあり) https://t.co/c8WaYVSPcn