「狂言ござる乃座 61st」の記者懇談会が、昨日2月18日に東京・野村よいや舞台にて行われ、
萬斎は「私が大学在学中に立ち上げた『ござる乃座』が61回目ということで、年2回やっているので30年以上やってきたことになります。彼(裕基)は今大学2年で、これからいろいろとレパートリーを増やさないといけない時期。一方私のほうは、ある程度の曲はさせていただいてきて、父から習ってきた曲や自分なりに経験してきた曲をさらに深めたいと思い、今回の番組を企画しました」と述べる。
その1つとして真っ先に萬斎が言及したのは、「奈須與市語」だ。「今回、彼(裕基)が『奈須與市語』を披(ひら)く……初演するという意味ですが、これは狂言師にとって節目と言いますか、大事なカリキュラムの1つ。2年前に『三番叟』を披かせましたが、『三番叟』が身体を駆使して舞踊性を追求するものだとすると、『奈須與市語』はある種のボーカルテクニックが問われる演目です。声だけでなく息、あるいは間が語るものという音声的な部分を、どうドラマティックに構成していくか。これができるようになれば狂言師として飛躍するのではないかと思います。私も二十歳でさせていただきましたが、息子にも二十歳で披かせたいと思います」と見どころを語った。なお「奈須與市語」は、1日目は能「屋島 大事」の間狂言として、2日目は単独の演目として、趣向を変えて披露される。能「屋島」には観世流宗家・観世清和と、裕基の“同級同窓”だった三郎太父子が出演するのにも注目だ。
また萬斎は「まだ彼(裕基)には“奈須アプリ”が入ってないので(笑)、奈須與市・源義経・後藤兵衛実基と地の文のナレーター4役をどう演じ分けるか、15分から20分の語りをどう持たせるのかは大変だとは思います。でもそれを頭で考えるのではなく身体にインプットすることが大事」と述べつつ、「お客様には、奈須與市が起こした奇跡の瞬間を、二十歳の演者が生み出すというところを、ぜひお楽しみいただければ」と笑顔を見せる。
さらに自身が出演する「隠狸」や「千鳥」については「何度もさせていただいている演目ですが、ほかの家の方と演じることによってまた勉強させていただき、新しい面を見い出せたら」と意気込みを語った。
裕基は「奈須與市語」について「普段と変わらないようにやりたいなと。大事なステップアップとなる節目の曲だとは思いますが、普段やっている演目と同じような姿勢で取り組むほうが、上達できるのではないかと思っています」と真摯に述べる。
そんな裕基に向けて万作は「私が彼に一番期待し、かつ大事にしてほしいと思っていることは、身長の大きさという問題と日本語の発音の問題です」と言葉をかける。「能舞台の寸法は決まっているわけですから、どういう身体の寸法(で見せるの)がふさわしいかは、一目瞭然です。その点で、身長の伸びをどうカバーするのか。また若い人に共通して言えることですが、日本語の発音に乱れが見られ、狂言師としてはそこに対して、伝統的ないい発音をしてほしいと思っています」と期待を寄せる。さらに自身が「子午線の祀り」や「夕鶴」など、狂言以外の舞台で意識してきた、発音に対する思いを語った。
万作の言葉を受けて裕基は、「身長が今180cmくらいあり、自分でも背が高い自覚はあります。そのことがハンデになることもメリットになることもあるということを、修行の中で感じていければ」と思いを述べる。
また万作は、自身が出演する「庵の梅」について「この曲は、能の影響下にできた曲であるということが非常に色濃く感じられます。私どもの若い頃は、能と狂言は別のものだと強調してきましたが、今はそういう時代ではなく、狂言は能と共通の良さがある、ある種の品格を持った“美しい喜劇”だと思います。その点で『庵の梅』はある種、詩的で文学的な、あるいは幽玄の、能的な完成度を持った作品だと思います」と語った。
「狂言ござる乃座 61st」は3月20日、25日に東京・国立能楽堂にて上演される。
※初出時、本文に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。
「狂言ござる乃座 61st」
2020年3月20日(金・祝)・25日(水)
東京都 国立能楽堂
演目・出演
3月20日
狂言「隠狸」
出演:
狂言「千切木」
出演:
能「屋島 大事・奈須與市語」
出演:観世清和、観世三郎太、宝生欣哉、
3月25日
小舞「八島 前」「八島 後」
出演:深田博治、高野和憲
狂言「千鳥」
出演:野村萬斎、三宅右近、井上松次郎
語「奈須與市語」
出演:野村裕基
一調「貝尽し」
出演:野村萬斎
舞囃子「安宅」
出演:大槻文蔵
狂言「庵の梅」
出演:野村万作、野村萬斎、野村太一郎、中村修一、内藤連、飯田豪、石田淡朗
※2020年3月16日追記:本公演は感染症の拡大リスク低減のため延期となりました。
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