「アルトゥロ・ウイの興隆」は、ヒトラーが独裁者として上り詰めていく過程を、シカゴのギャングの世界に置き換えて描いた
赤と黒を基調とした衣装に舞台セット、そしてオーサカ=モノレールによる華やかな生演奏と、徹底的に作り込まれた快楽的で底知れない世界観が魅力の本作。白井は、やがて勢力を拡大し、人々を支配するウイを魅力的に描くことで、カリスマ的な主導者によって独裁政治に陥っていく社会の現状を舞台に映し出す。白井とは2018年の「バリーターク」以来、2度目のタッグとなる草なぎは、白井の求めるウイ像に応え、官能的で華麗なダンスや歌唱と、狂気がにじむ芝居で観客を圧倒。ウイが古谷演じるドッグズバローに「後ろ盾になってほしい」と頼むシーンでは、膝をついて懇願したかと思えば、「貴様を救えるのは俺だけだ」と高圧的な態度を見せるなど、草なぎは緩急ある演技で場の空気を支配した。
古谷は、たった1度の過ちのせいで、ウイに利用されてしまうドッグズバローの哀愁を見事に表現。また「バリーターク」で草なぎと共演した
ゲネプロ前に行われた囲み取材には、白井と草なぎが出席。草なぎは「白井さんは、舞台のいろいろな可能性に気付かせてくれる存在」と白井に信頼を寄せ、白井も草なぎについて「昨年一緒にやって、すぐにもう一度やりたいと思った」と語り、報道陣を前に相思相愛ぶりを見せつける。白井は続けて「ヒトラーを模したウイは、チャーミングで、人を巻き込んでいくカリスマ性が必要な役柄。草なぎさんはまさにそんな人を惹き付ける力をお持ちなので、この役どころがあっているんじゃないかなと思っていました。そして、チャーミングな草なぎさんが最後には恐ろしいギャング団のボスになっていく、というところが、今回僕としては一番見たかった部分。なので、そこを体現していただけていてうれしいです。草なぎさんの怖い面を楽しみにしていてください!(笑)」と微笑み、報道陣の笑いを誘った。
本作について「セリフ量も膨大ですし、とにかくやることが多い」と苦労を明かす草なぎは、「先ほど劇場で通し稽古をやって、ようやく『ああ、こういう舞台なんだ』と理解しました(笑)。ちゃんとできれば、エンタテインメント性の高い、ものすごくいい作品になると思います。だから……あとは僕がちゃんとやるだけです!(笑)」と笑い交じりに意気込みを述べる。さらに稽古場の様子を「白井さんの厳しい演出にみんなで食らいついていくという、青春というか、部活みたいな感じでした。まあおじさんばかりなんですけど(笑)」と振り返り、「おじさんたちが格闘する中で生まれたリアリティを、白井さんがさらにあぶりだしていった結果、僕らにしかできない『アルトゥロ・ウイの興隆』を作り上げることができた。このウイは僕にしかできないし、ほかの出演者の方も、その人にしかできない役に仕上がりました」と自信を見せた。
最後に白井は「ヒトラーがワーグナーの曲を民衆の気持ちを盛り上げるために利用したように、本作ではジェームス・ブラウンの楽曲を盛り込ませていただきました。草なぎさんが曲に合わせて歌い狂い、踊り狂うので、そこも見どころかと。世の中に危ない空気が蔓延している中、本作は“時代を映す鏡”として意味のある作品になっていると思います」と真摯に語り、草なぎは「白井さんの演出によって、今までにない草なぎ剛が観られると思います。白井さんの演出も新しく斬新で、とても痺れるものになっているので、ぜひ観に来てください!」と観客に呼びかけ、会見を締めくくった。公演は2月2日まで。
※初出時、本文に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース「アルトゥロ・ウイの興隆」
2020年1月11日(土)~2月2日(日)
神奈川県 KAAT神奈川芸術劇場 ホール
作:
翻訳:酒寄進一
演出:
音楽・演奏:オーサカ=モノレール
出演:
※草なぎ剛のなぎは弓へんに前の旧字体、その下に刀が正式表記。
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細見大輔 @Teaclem
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