本作は、「奇ッ怪」シリーズでタッグを組んできたイキウメの前川と世田谷パブリックシアターによる新作SF。ホメロスの叙事詩「オデュッセイア」を原典に、“日常と宇宙をつなげる旅”が描かれる。出演者には、
18歳の主人公・川端悠理(山田)は、有名なダイバーである父親・士郎(仲村)と理論物理学者の母親・楊(村岡)、そして幼馴染の戸田春喜(大窪)と色川りさ(清水)の4人で湖畔のキャンプ場に来ていた。引きこもりがちの悠理は、両親が自分を心配してキャンプに連れ出したのだと思い、乗り気でなかったが、キャンプの実の目的が、両親の離婚発表であることが判明。呆然とする悠理だったが、幼馴染の2人からも、高校卒業後の進路が決まっていることが明かされる。自分だけ取り残されたような孤独感に苛まれた悠理は、1人湖で泳ぐことにするが、水の中で溺れ、意識を失ってしまう。目を覚ますと、そこは遙か未来の宇宙船だった。その場に現れた仲間たちからは“ユーリ”と呼ばれるものの、自分には“川端悠理”としての記憶しかなく……。
ステージ上には、月や惑星を思わせる円形の舞台美術が立ち上がる。シンプルで抽象度の高い舞台美術は、照明や小道具、またセット自身が発光することで、キャンプ場や宇宙船など、場所や空間を自在に変化させてゆく。劇中では、前川の技巧が冴え渡る、さまざまなSF的ギミックが張り巡らされた物語が展開。そのギミックの1つが、悠理の旅先に登場する、元の世界と“同じ顔の他人”だ。宇宙船で出会う“ユーリ”の同僚アン(奈緒)は、悠理の中学時代の恋人・能海杏と名前も顔も同じだが、“悠理”のことは知らない。果てしない旅路のなかで、悠理は何度も「帰りたい」とこぼすが、やがて自分はどこに“帰りたい”のか、そして自分は何者なのか、自問自答を繰り返すことになる。
山田は、悠理の精神的な幼さや未熟さ、繊細さを丁寧に表現。自分でありながら自分ではない、“自分そっくりな肉体”に意識が移ることで旅を続ける悠理の、戸惑いや怯えを臨場感ある芝居で表し、観客の感情移入を誘った。奈緒は、芯の通った杏を愛らしく表現しつつ、見た目は同じながら杏とは別人の“アン”を、緩急ある芝居で演じ分ける。
緊張感が増していく悠理の旅とは一転、"日常”として挟まれるキャンプ場でのシーンでは、悠理の両親、そして幼馴染たちが繰り広げる和気あいあいとした雰囲気が見どころ。士郎役の仲村は、一人息子である悠理を温かく見守りながら、村岡演じる妻・楊との漫才のようなやりとりで客席を笑いで包む。清水は、姉御肌でしっかり者のりさを快活に演じつつ、悠理が杏と恋仲になるシーンでは寂しさを表情に滲ませた。大窪は心優しい春喜を等身大で表現。悠理の友人、そしてよき理解者として寄り添う姿を好演した。
また、浜田演じるアンドロイド・ダンの魅力にも注目したい。宇宙船を管理する巨大コンピューターの一部であるダンは、母体となるシステムやアンら人間の指示に従い行動する。浜田はダンを、アンドロイドらしく無機質さを際立たせた演技で立ち上げつつ、人間の無意識や、神の存在に興味を示す様子をピュアに表現し、物語が持つ“個”と“全体”というテーマを深める役割を担った。上演時間は約2時間、公演は東京・世田谷パブリックシアターにて11月17日まで行われたあと、本作は23・24日に兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール、30日に新潟・りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場、12月4日に宮崎・メディキット県民文化センターにて上演される。
世田谷パブリックシアター+エッチビイ「終わりのない」
2019年10月29日(火)~11月17日(日)
東京都 世田谷パブリックシアター
2019年11月23日(土・祝)・24日(日)
兵庫県 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
2019年11月30日(土)
新潟県 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場
2019年12月4日(水)
宮崎県 メディキット県民文化センター
原典:ホメロス「オデュッセイア」
脚本・演出:
監修:
出演:
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【公演レポート】宇宙巡る旅路の果てに、少年は何を見つけるのか?前川知大新作「終わりのない」 https://t.co/qmuc11PU6T