十月大歌舞伎で悲惨な因果話「三人吉三」、玉三郎の幽玄美際立つ「二人静」も

4

183

この記事に関するナタリー公式アカウントの投稿が、SNS上でシェア / いいねされた数の合計です。

  • 26 62
  • 95 シェア

「芸術祭十月大歌舞伎」が、10月2日に東京・歌舞伎座で開幕した。ステージナタリーでは、4日の夜の部をレポートする。

「芸術祭十月大歌舞伎」より、「三人吉三巴白浪」の特别ポスター。

「芸術祭十月大歌舞伎」より、「三人吉三巴白浪」の特别ポスター。

大きなサイズで見る

夜の部の幕開けは、通し狂言「三人吉三巴白浪」だ。節分の夜、夜鷹のおとせ(尾上右近)は、客が店に置き忘れた百両を返そうと、川のほとりにやって来た。するとそこに道に迷ったという美しい娘が通りかかる。心優しいおとせは道案内してやることにするが、娘は突然おとせの懐に手を入れ、百両を奪った挙げ句、そのままおとせを川に突き落としてしまう。その娘の正体は、女装し悪事を働く男・お嬢吉三(尾上松也 / 中村梅枝)だったのだ。その光景を駕籠の中から見ていた、同じく悪党のお坊吉三(片岡愛之助)は、その百両を貸してくれとお嬢吉三に持ちかける。その頼みをお嬢吉三が断ると、2人は刀を抜き、一触即発の事態に。そこに和尚吉三(尾上松緑)が現れ……。

河竹黙阿弥による耳に心地の良い七五調のセリフと、同じ“吉三”の名を持つ3人の盗賊が引き起こす、悲惨な因果話が魅力の本作。松緑は大きな身体を生かし、義兄弟の契を交わした“三人吉三”のリーダーとして、2人を引っ張る兄貴肌の和尚吉三を等身大で演じる。また自身と血のつながった弟妹であるおとせと十三郎を手に掛ける場面では、包丁を振り回す豪快な立ち廻りで場の緊張感を高めつつ、葛藤する和尚吉三の心の内を、悲痛さが入り交じる声色で見事に表した。

愛之助は、着流し姿の優男であるお坊吉三を、気品のある佇まいで端麗に立ち上げる。また追われる身となり、逃げ込んだ先で再会したお嬢吉三と「会いたかったぜ」と手を取り合うシーンでは、得も言われぬ色っぽさを漂わせ、観客を魅了した。またこの日お嬢吉三を演じた松也は、見た目は愛らしいが、中身は男らしく豪胆さを兼ね備えた役柄を、緩急ある芝居で好演。か弱いお嬢様の演技から一転、野太い男の声をあげながらおとせを川に突き落とす場面では、その鮮やかな変わり身に観客から拍手が送られた。

また、中村歌六が勤める土左衛門伝吉の、一筋縄ではいかないキャラクターにも注目したい。すべての因果が、自身が過去に起こした悪事のせいであると悔いる伝吉の姿を、歌六は孤独さを際立たせながら哀愁たっぷりに演じ上げる。百万両を巡り伝吉がお坊吉三と対峙する場では、凄みのある立ち廻りで魅せ、お坊吉三と互角に渡り合う姿で客席を沸かせた。

夜の部のラストを飾るのは、世阿弥の能楽を原作に、坂東玉三郎が補綴を手がける舞踊「二人静」。源義経の寵愛を受けた静御前(玉三郎)が亡霊となり現れ、自身を弔わせるために若菜摘(中村児太郎)に乗り移り、神職(坂東彦三郎)の前で舞を踊る物語が描かれる。

すっぽんから藍鼠色の壺折に身を包んだ玉三郎が現れると、その神々しさに客席は大きな拍手で包まれる。玉三郎は、児太郎と息をぴったり合わせ、義経への想いを哀しみを湛えた優美な舞で表現。神職に乞われ、静御前と若菜摘みが色違いの壺折から白拍子に衣装を揃えると、舞い踊る2人の姿はより似通い、まさに幽玄と呼ぶべき幻想的な美しさが立ち現れた。

「芸術祭十月大歌舞伎」は10月26日まで。昼の部では、「廓三番叟」「御摂勧進帳」「蜘蛛絲梓弦」「江戸育お祭佐七」が上演される。「蜘蛛絲梓弦」では愛之助が5役の早替りに挑み、鳶と芸者の恋模様を描く「江戸育お祭佐七」では鳶の佐七を勤める尾上菊五郎が、孫である寺嶋眞秀と共演する。

この記事の画像(全1件)

「芸術祭十月大歌舞伎」

2019年10月2日(水)~26日(土)
東京都 歌舞伎座

昼の部

「廓三番叟」
傾城:中村扇雀
太鼓持:坂東巳之助
新造:中村梅枝

「御摂勧進帳」
武蔵坊弁慶:尾上松緑
斎藤次祐家:坂東彦三郎
源義経:坂東亀蔵
鷲尾三郎:尾上松也
駿河次郎:中村萬太郎
山城四郎:中村種之助
常陸坊海尊:片岡亀蔵
富樫左衛門:片岡愛之助

「蜘蛛絲梓弦」
小姓寛丸 / 太鼓持愛平 / 座頭松市 / 傾城薄雲太夫 / 蜘蛛の精:片岡愛之助
碓井貞光:尾上松也
坂田金時:尾上右近
渡辺綱:中村種之助
ト部季武:中村虎之介
源頼光:市川右團次

「江戸育お祭佐七」
お祭佐七:尾上菊五郎
芸者小糸:中村時蔵
倉田伴平:市川團蔵
鳶の者すだれの芳松:河原崎権十郎
同 巴の三吉:坂東亀蔵
鳶重太: 中村萬太郎
同 柳吉:坂東巳之助
同 長蔵:中村種之助
同 辰吉:大谷廣松
同 仙太:市村光
娘お種:尾上右近
踊りの勘平:寺嶋眞秀
同 お軽:坂東亀三郎
同 伴内:市村橘太郎
小糸養母おてつ:嵐橘三郎
箱廻し九介:片岡亀蔵
遊人おででこ伝次:片岡市蔵
矢場女お仲:市川齊入
吉野屋富次郎:市村萬次郎
祭りの世話役太兵衛:坂東楽善
鳶頭勘右衛門:市川左團次

夜の部

「三人吉三巴白浪」
和尚吉三:尾上松緑
お坊吉三:片岡愛之助
お嬢吉三:尾上松也(偶数日) / 中村梅枝(奇数日)

手代十三郎:坂東巳之助
伝吉娘おとせ:尾上右近
釜屋武兵衛:市村橘太郎
八百屋久兵衛:嵐橘三郎
堂守源次坊:坂東亀蔵
土左衛門伝吉:中村歌六

「二人静」
静御前の霊:坂東玉三郎
若菜摘:中村児太郎
神職:坂東彦三郎

全文を表示
無断転載禁止

読者の反応

  • 4

ryugo hayano @hayano

【公演レポート】十月大歌舞伎で悲惨な因果話「三人吉三」、玉三郎の幽玄美際立つ「二人静」も - ステージナタリー https://t.co/y2HgpQ0XIB

コメントを読む(4件)

関連記事

坂東玉三郎のほかの記事

リンク

あなたにおすすめの記事

このページは株式会社ナターシャのステージナタリー編集部が作成・配信しています。 坂東玉三郎 / 中村扇雀 / 坂東巳之助 / 中村梅枝(4代目) / 尾上松緑 / 坂東彦三郎 / 坂東亀蔵 / 尾上松也 / 中村萬太郎 / 中村種之助 の最新情報はリンク先をご覧ください。

ステージナタリーでは演劇・ダンス・ミュージカルなどの舞台芸術のニュースを毎日配信!上演情報や公演レポート、記者会見など舞台に関する幅広い情報をお届けします