「The Silver Tassie 銀杯」が本日11月9日に東京・世田谷パブリックシアターにて開幕した。
「The Silver Tassie 銀杯」は、1928年にアイルランドの劇作家ショーン・オケイシーが手がけ、翌29年にロンドンで初演された作品。第一次世界大戦下のアイルランドを舞台に、優勝カップの銀杯を手にし輝かしい未来を嘱望されたフットボール選手が、戦地へ召集されたことで人生を一変させる様が描かれる。
物語は、沈没船のごとく左右に傾斜が付いた舞台で展開される。くすんだ朱色の壁にストーブ、ベッドが置かれた簡素な部屋の小さなテーブルには、金や銀に輝くメダルがずらりと並んでいる。部屋には、怠惰な様子でおどけたやり取りを繰り広げるシルベスター・ヒーガン(山本)とサイモン・ノートン(青山)、そして真っ白なブラウスとブルーのロングスカートをきっちりと着込んだスージー・モニカン(浦浜)がいて、そこへ夫テディ(横田)からの暴力を逃れてフォーラン夫人(長野)がやって来た。彼らとヒーガンの妻(三田)は、街の英雄で彼らの息子、ハリー・ヒーガン(中山)の帰りを待っていた。軍の休暇中にフットボールの試合に出ていたヒーガンは、軍の船が出ようというのになかなか帰って来ない。やがて恋人のジェシー・テイト(安田)と戦友のバーニー・バグナル(矢田)、そして観衆を引き連れて家に飛び込んできたヒーガンは、勝利の熱狂に酔いしれ、銀杯で祝杯を上げるのだった。
ハリーを軸に、音楽に彩られエネルギッシュに展開する1幕。若さと男としての自信に満ちたハリーを、中山は全身で力強く表現する。そんなハリーと共に、バーニーとテディは意気揚々と戦場に旅立つが、2幕では一転して大砲以外は何もない、灰色の光に包まれた塹壕のシーンが描かれる。舞台奥から現れるのは、目と口が異様に強調された、青白い顔をした人形たちだ。激務で疲れ果て、“人間らしさ”を失った彼らの姿はすでに亡霊のようで、うわごとのようにかつての平和な生活を懐かしみ、塹壕にはそぐわない、明るい調子で歌い出す。記憶と共に流れ出す、平和的でのどかなメロディに、兵士たちは束の間、心の休息を得るが、歌が終わると現実はより一層重くのしかかる。上官とのやり取りなど、一見するとコミカルな展開も見られるが、逆にそれが戦場の異常さ、非情さを浮き彫りにする。そして3幕。ベッドが並べられた真っ白な病室に姿を現したのは、車椅子姿のハリーだった。かつての輝きが失せ、憤りと焦りで爆発寸前の彼に、さらに過酷な現実が襲いかかり……。
栄光からどん底へ、ハリーの人生に降りかかる悲劇を、中山は太く、強く、生々しい演技で表現する。特に3幕以降、車椅子の上で自分の境遇に悶え苦しむ姿は、悲しみや悔しさを通り越した、大きな痛みの塊となって観客の心に突き刺さる。またそんなハリーの苦しみを誰よりも深く感じているバーニー、悟りのような境地からハリーに寄り添うテディ、息子を案じてやまないハリーの母親、さらに新しい時代をポジティブに受け入れていく観衆たちなど、それぞれの思いが複雑に交錯していく。
本作について、演出の森は「この作品を観て人間の残酷さを感じる人もいるだろうし、逆に人間の逞しさを感じる人もいるかもしれない。登場人物たちに対し、簡単に善悪のジャッジを下せない作品だと思っています」と表現した。その言葉の意味は、終演後にずしりとした重みを持って迫ってくる。
公演は11月25日まで。なお11月14日14:00開演回には森・中山・横田・矢田、20日14:00開演回には矢田・土屋・麻田・今村・天野、22日18:30開演回には森・中山・横田と世田谷パブリックシアター芸術監督の野村萬斎が登壇するポストトークが実施される。
なおステージナタリーでは、「The Silver Tassie 銀杯」の特集を展開中。森新太郎のインタビューのほか、矢田悠祐・横田栄司・土屋佑壱による座談会、音楽を担当する国広和毅のコメントを掲載している。関連する特集・インタビュー
「The Silver Tassie 銀杯」
2018年11月9日(金)~25日(日)
東京都 世田谷パブリックシアター
作:ショーン・オケイシー
翻訳・訳詞:
演出:
出演:
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