劇場の中に足を踏み入れると、入ってすぐに舞台、奥に客席が設えられ、いつものSTスポットは逆の空間が広がっていた。舞台中央には球型のシーリングライト、長い毛足のラグの上にはくすんだ水色の、品のいい二人掛けソファとローテーブルが配され、シンプルで洒落たリビングが出現している。そこに、
会話の端々から、“現在”が2017年から15年後だということ、ある事件を機に、田町は20歳のころ知り合った三枝夜という友人の話をしようとしていること、そのリビングは夜の部屋だということなどが明らかになる。田町の語りは、時間や話の順序があべこべで、現在と過去が突然混ざったり、その時間その場所にいるべきはずでない人が現れたり、現実と虚構が共存したりと、すべてが揺らぎ曖昧で、話の尻尾が掴みにくい。しかし物語の靄をかき分けていくに連れ、1つひとつのエピソードから青白い煙が立ち上がり、やがてそれが大きな炎となって、記憶の導火線に火を着ける。そして3人が発したセリフの数々は、落ち葉のように舞台に降り積もり、ラストに向かって緊張感を高めていく。
武谷は、感じがよく社交的で、人をすぐ好きになってしまう田町役を快活に表現。しかしその笑顔の下にベタッと張り付いた影を、ふとした瞬間にすっとのぞかせる。一方、カバンの代わりに鍋を背負ってみたり、友達と一緒にいても読書を始めてしまったりと、ほかの人とは違う魅力を持った夜役を、
範宙遊泳の真骨頂である映像と“共演”した演出は、今回は控えめ。ほかにも舞台美術や衣装、照明など視覚的な要素は削ぎ落とされ、音楽やセリフ、俳優たちの身体が脳裏に深い印象を残す。上演時間は約2時間。公演は8月13日まで。
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