7月6日にアビニョン演劇祭のオープニング作品として上演されたSPAC「アンティゴネ」。報告会は2部構成で、第1部では三菱UFJリサーチ&コンサルティング 芸術・文化政策センター 主席研究員の太下義之の司会により、SPAC芸術監督の
その公演を見届けた1人である内田は、「観客の反応としては、熱狂的なスタンディングオベーションだったと感じました。向こうの人は足蹴りするんですよ、地鳴りのようにダダダダって音がして、びっくりしましたね」と振り返る。また、舞台上に本水を張って繰り広げられる灯籠流しのシーンや、白装束のキャストによる幽玄な盆踊りシーンなど具体的な例を挙げながら、「身振りによって違う価値観のものを1つのものに溶かしていく、宮城さんのしなやかで、ある種柔らかな感覚は観客にも伝わったのではないかと思います」と続けた。また、7月5日に逝去したフランスの現代音楽家ピエール・アンリの楽曲が、初日の公演で使用されたことにも言及。「彼の音楽を使ったことも大きかったと思います。そのことで、鎮魂の意味合いが広く伝わったのではないでしょうか」と述べた。
ピエール・アンリの楽曲を取り入れたことについて、宮城はフェスティバルの担当者から、「可能だったら追悼の意味でどこかで曲を流してほしいと言われて」と説明。「ただ、私たちは客入れからラストまで、音楽としての構成も考えて作品を作っているので最初は難しいなと思ったんです。でもこの作品では、俳優に『水の上を歩いている死者たちと共演してくれ』と言ってきたので、亡者になったピエール・アンリさんが舞台上の水の上を歩いていると思えばできるなと思って、彼の代表的な楽曲を一部、劇中で使いました」と説明した。
世界最高峰の演劇祭で日本語の作品が上演された点でも、注目を集めた今回の公演。内田は「東京には観きれないほど多くの公演がありますが、世界的な視野を持って活動しているグループが東京にはあまりいない感じがします」と述べる。また「世界で活躍するという点で、蜷川幸雄さんや鈴木忠志さんのような先行世代が居ますが、蜷川さんや鈴木さん世代は西洋演劇を必死に勉強して、さらに日本の文化コードを最大限使って戦いに行く、という悲壮感が強かった。もちろんそれは必要なことでもあったのですが、野田秀樹さんや宮城さん世代はその点、もう少しフラットになっていて、普段やっている感覚の延長上に海外があるんですよね」と分析した。
最後に今後の展望を尋ねられた宮城は、「まだ思いつかない」と苦笑い。しかし少し考えた後、「『分断』という言葉が近年流行っていますが、作品の上演が民衆性と芸術性の『分断』に加担する、あるいは作る側が『どうせみんなわからないだろうから、こうしてあげる』とわかりやすくすることで媚びが露呈する、ということが起きています」と見解を述べる。その上で、「民衆性と芸術性の両立は近代芸術の課題です。とはいえ、『わかりやすい』ということはちょっと矛盾をはらんでいて、全部わかってしまうと人は『わかった!』とは思わないんですよね。まず『知りたい』って思いがあるからこそ『わかった!』と思えるわけで、『知りたい』と思わせるような謎が必要なんです。その謎が芸術には大切で、それを考えるのが近年の僕の哲学的なテーマになってきている」と宮城は苦笑する。さらに「その意味で、お客さんが皆同じ(分断されない)、という客席の状態を作ることが目標といえば目標だけれど……それは狙ってできることではないですね」と創作の難しさを語り、報告会は終了した。
SPAC「アンティゴネ」アヴィニョン演劇祭公演報告会
2017年7月24日(月)
東京都 FabCafe Tokyo
第1部 15:30~17:30 ※満席、キャンセル待ち
登壇者:内田洋一、
司会:太下義之
第2部 19:00~21:00
登壇者:タニノクロウ、矢内原美邦、いいむろなおき、渡辺亮史、宮城聰
司会:成島洋子
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