金子は、自身が経営するボロアパートの住人・金森(
小さな町を舞台に起こる、それほど大きくはない、いくつもの悲喜劇。登場人物たちはそれぞれ、思いがけない理由から職を失ったり、結婚を決意したり、暴力を受けたり、命の危険にさらされたりするが、それはある時点まで深刻で、ある時点からはどうでもいいことに見えてくる。
作品全体に通底しているのは、陰を含みつつもどこか“陽”な空気だ。それは、新井演じる金子の飄々としたただずまいと、荒川演じる東の愛嬌あるキャラクター、赤堀演じる中村の冴えない中年男ぶりによるところが大きい。そんな彼らに対し、村岡演じる金森の“ワケあり”な頑なさ、根本演じる田辺の脆い明るさなど、役ごとの演技のコントラストが映える。
また、何気なくさし挟まれたようでいて、役やシーンを端的に言い表す鋭いセリフの数々、ジリジリと進まない会話をサウナで繰り広げる、皮膚感覚に迫った演出、小道具や装置をあまり用いず多彩なシーンを成立させる俳優たちの高い演技力など、作品を構成するすべての要素が有機的に絡み合い、物語に緊張と弛緩の波を作り上げる。その波に合わせて、客席からは何度も大きな笑いが起こった。
当日パンフレットで赤堀は、電車で痴漢をして線路を逃げる中年男の姿をテレビで見たと言い、「何となく、その線路の先に広がる風景を、世界を描いてみたいと思った」と書いている。レールから外れたとき、人生がどん詰まりに見えたとき、自分が名もなき存在に思えたとき、その先をどう生きていくのか。登場人物それぞれが行き着くラストシーンまで、目が離せない。上演時間は約1時間50分。公演は8月13日まで。
「鳥の名前」
2017年7月22日(土)~8月13日(日)
東京都 ザ・スズナリ
脚本・演出:
出演:
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