ウィリアム・サローヤン作「君が人生の時」が昨日6月13日に東京・新国立劇場 中劇場にて開幕した。
本作は新国立劇場による、日本の近代演劇に影響を与えた海外戯曲を新たに翻訳し上演する「JAPAN MEETS…―現代劇の系譜をひもとく―」シリーズの第11弾。今回は、1939年にニューヨークで初演され、ニューヨーク劇評家賞とピュリツァー賞(本人辞退)を受賞したサローヤンの戯曲を、
物語の舞台は第二次世界大戦が開戦した1939年、ニック(
舞台全面を使った酒場のセットでは、同時多発的に各所で違う物語が立ち上がる。職を求める者、愛する人に電話をする者、追い出される酔っぱらい。誰もがそれぞれの人生を背負い、示唆に富んだ会話を繰り広げ、1日の出来事とは思えないほどの凝縮した人間ドラマが展開する。ときが経つにつれ登場人物たちの愛しさは増していき、客席からは共感に満ちた笑いや拍手がたびたび起きた。
坂本は、脚は不自由だが裕福で思慮深く超然としたジョー役を、ぴんと伸びた背筋とまっすぐな視線、落ち着いた物腰という佇まいで体現。また、いつものスマートなイメージとは真逆の無邪気で少しバカなトムを好演する橋本と、息の合った掛け合いを披露した。自分が拾ったトムに、服を着せ、恋を応援し、仕事を与える無償の優しさは、坂本の持ち前の“兄貴”的なキャラクターが持つ説得力と相まって、観る者の心を打つ。2人が繰り広げる買い物リストの復唱シーンでは、坂本の歌も聴けるので期待しよう。野々は誇り高い娼婦という難役を熱演。夢と現実の間で苦しむ姿を繊細に表現した。丸山は、店を切り盛りするぶっきらぼうな店主役の内に秘めた優しさを、娘に小さく手を振る演技などで丁寧に見せる。
また、かみむら周平演じるウェスリーによるピアノの生演奏と、RON×II演じるハリーのタップも本作の見どころのひとつ。さらに劇中に登場するピンボールマシーンやコイン式の蓄音機、ぜんまい仕掛けのオルゴールが劇中で奏でる音が、新国立劇場 中劇場の空間を濃密な空気で満たす。初日は3回のカーテンコールが行われ、観客はスタンディングオベーションで作品を讃えた。
開幕前に取材に応じた坂本は、「原作を読んだときは、とらえどころがない作品というのが印象的で。でもそれを歴史から何から1つひとつ紐解くと、激動の1930年代に移民の国アメリカで、酒場に集まることでみんなが人間として触れ合える。その温かさっていうのが、この作品の一番の魅力じゃないかな」と見どころを語る。
また「僕はこの劇場も演出家の宮田さんもキャストの皆さんもご一緒するのは初めてですが、役者さんというのは、仕事の向き合い方が皆さん素晴らしいなと感じました」と共演者に賛辞を送る。一方、野々は坂本を「良い意味でいつもニュートラルでナチュラルな方。お芝居の世界に入ると一瞬目が合うだけでいろんなことを受け取って発してくださる、大きな方だなと思ってます」と褒め、丸山も「ストイックだし、周りの皆さんに対する気遣いとリスペクトがにじみ出てて、尊敬すべき座長でございます」と続いた。
これを受け、坂本は「用意してきた感じじゃん(笑)」と笑いながら「(野々、橋本は)本当にまじめ。この難役を……」と2人を労うと、橋本が「悩みもありましたし難しい戯曲ではあるんですけど、兄貴(坂本)の一挙手一投足をどう受け取るかを大事に、背中を見ながらやっていけたらいいかなと」と意気込みを述べた。
最後に坂本が「『君が人生の時』ってタイトル、皆さんどう受け取られるのかなって興味があります。台本の1ページに、まさにこのタイトル通りのト書きがあるのですが、それは実際に(作品を)観ていただければ、わかると思います」と感想を語り、「人生の中で自分が一番輝ける瞬間っていつなのか、感じていただければ。1日を切り取った作品なんですけれども、心が通い合える温かい作品になってますので、ぜひ劇場に足をお運びください」とアピールした。なお該当の一節は会場で販売されるプログラムにも記載されている。
上演時間は途中20分休憩ありの約3時間。当日券の販売状況は劇場の公式Twitterで確認しよう。公演は7月2日まで。6月16日の公演終了後には、丸山、橋本、かみむら、宮田が登壇する「新国立シアタートーク」が行われる。また「JAPAN MEETS…―現代劇の系譜をひもとく―」シリーズの最終作「怒りをこめてふり返れ」は、7月12日から30日まで同劇場にて上演される。
「君が人生の時」
2017年6月13日(火)~7月2日(日)
東京都 新国立劇場 中劇場
作:ウィリアム・サローヤン
翻訳:浦辺千鶴
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