「ふじのくに→せかい演劇祭2016」今年は古典と自身を顧みるラインナップ

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4月29日から5月8日まで、静岡・静岡芸術劇場ほかにて開催される「ふじのくに→せかい演劇祭2016」(→は相互矢印が正式表記)のラインナップ発表会が、3月22日に行われた。

宮城聰(写真提供:SPAC)

宮城聰(写真提供:SPAC)

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第1部は、同劇場芸術監督の宮城聰がフランス演劇との関わりについて語る講演会。大学時代に渡辺守章のゼミに参加したことがきっかけでフランス演劇に興味を持ったこと、初めて「王女メデイア」の上演をしたときのエピソード、また近年のフランス演劇界との関わりや注目すべきフランス人アーティストの紹介など、貴重な資料映像を交えながら宮城がトークした。最後に宮城は、「演劇は今、世界の多くの場で、商業主義との距離感が上手く取れなくなっています。公立劇場であっても、作品の効用性について説明を求められることがよくあります。そんなとき僕が励まされるのは、オリヴィエ・ピィさんが『若き俳優への手紙』という作品でおっしゃっていた、“演劇の効用ははかれない”ということなんですね。演劇は例えば経済効果とか、具体的な効用に変換できないものを持っているのだと、そう思い起こさせてくれるのがフランスの演劇人たちなんです」と思いを語った。

記者会見の様子。左から宮城聰、通訳者、オン・ケンセン、中村壱太郎、たきいみき(写真提供:SPAC)

記者会見の様子。左から宮城聰、通訳者、オン・ケンセン、中村壱太郎、たきいみき(写真提供:SPAC)[拡大]

第2部は、「ふじのくに→せかい演劇祭2016」のラインナップ発表会。まずは宮城が、自身が演出を手がける「イナバとナバホの白兎」について、「古事記」にも描かれた「因幡の白兎」のお話と、北米神話の関係性を説いたクロード・レヴィ=ストロースのある仮説に影響を受けたことを説明し、「この壮大な仮説を、“演劇的想像力”によって読み解こうというのがこの作品です(笑)」と語った。なお本作はフランス国立ケ・ブランリー美術館の開館10周年記念委嘱作品でもあり、5月の静岡公演ののち、6月にパリでも上演される。

オン・ケンセン(写真提供:SPAC)

オン・ケンセン(写真提供:SPAC)[拡大]

続けて、他の6演目の見どころが、映像とともに司会者から紹介された。宮城は「今年はふたつのタイプの作品を集めています」と説明し、「ひとつは古典を描いたもの、もう1つはアーティスト自身を描いたものです。少し前まで、アーティストは作品の中でさまざまな理想を掲げていました。しかし今、世界中あちこちでその理想が意味を失い始め、人々は性急にこれからどうしたらよいのかを知りたがっています。このような状況で、アーティストにできることは、ものの考え方を提示することではないかと。そのやり方のひとつは古典をもう一度読んでみることで、もうひとつは自分自身をよく見つめてみることではないでしょうか。観客にも、そういうものの考え方を伝えることができたら」と語った。

中村壱太郎(写真提供:SPAC)

中村壱太郎(写真提供:SPAC)[拡大]

またラインナップのひとつである「三代目、りちゃあど」より、シンガポール人演出家のオン・ケンセンと出演者の中村壱太郎、たきいみきも登壇した。オン・ケンセンは、「今年はシェイクスピア没後400年という節目ですが、この作品は単に『リチャード三世』の劇世界を描いているだけでなく、作家は何を真実と思って作品を作るのか、という根底的な問題に触れています」と、野田秀樹が1990年に夢の遊眠社で上演した本作の魅力を解説。さらに「私自身の作風として、伝統芸能の方達を現代演劇のコンテクストに巻き込むということをよくやりますが、今回は壱太郎さんのような歌舞伎俳優の方をはじめ、狂言や元宝塚歌劇団の俳優さんたちともコラボレーションして、新たな作品をつくろうとしています。英語やインドネシア語、バリ島の影絵も使いますし、コミカルでひねりのある、豪華な作品になると思います」と笑顔で答えた。

主演の壱太郎は「25年間ずっと歌舞伎の舞台をやらせていただき、今回がほぼ初の外部出演なので、僕にとっても大きな冒険だと思っています」と出演の喜びを第一声で語った。続けて作品については「昨年の春頃、ケンセンさんが僕の歌舞伎の舞台を観てくださり、一緒にやりたいと言ってくださって非常にうれしかったのですが、そのときはまだ何をやるのかよく理解していなかったんですね。でも実際に今回使用される、英語とインドネシア語も混ざった台本を読んで、どう舞台で会話するのだろうと、衝撃というか、疑問が生じました(笑)。そんな思いを抱えながら、3月上旬にバリで稽古をしてきたんですが……これがもう、この話だけで1時間以上語れる、すごい経験で(笑)」と、オン・ケンセンと視線を交わして笑い合う。「まずは台本を読み込むんですけど、この作品が何を伝えたいのか、それぞれのキャラクターはどうかということを、キャストもスタッフもみんなで話し合うんです。歌舞伎では、それぞれが役を100パーセント作ってきて、4、5日一緒に稽古して完成させるというイメージですが、今回は素材を育てるというところからやっている印象です」と、稽古の進め方を新鮮に受け止めている様子。さらに「“伝統を見つめ直す”ということは、僕自身、一生歌舞伎役者をやっていく上で大事だと思います。また国境を越えた演劇の交わりというのがあるんだなと今回感じましたので、ケンセンさん、出演者とスタッフの皆さんと未知なる大海原に出ていくつもりでがんばりたいです」と意気込みを語った。

またSPAC所属俳優のたきいみきは、「バリでは、停電やさまざまな自然現象、アブの被害などいろいろ苦労を乗り越えながら稽古しました(笑)」とバリでの稽古を振り返り、「そんな環境の中でスタートした作品ですから、これからどんなふうに成長していくのか、おおらかな気持ちでこの作品と付き合っていけたらいいなと思っています」と語った。

3人のコメントを受けて宮城は「僕もこの戯曲がとても好きで、自分もいつか演出してみたいと思っていたんです。でもオン・ケンセンさんが演出してくださるとのことで、それはぜひと(笑)。今、ケンセンさんのお話を伺っていて、さすが世界の最前線を渡り歩いていらっしゃる方ならではの目線をお持ちだなと思いました。僕は日本語と肉体をいかに出会わせるかということを今やっているわけですが、ケンセンさんはもはや母国語という神話から逃れているというか、母国語という強迫観念からも逃れ、自由になって作品を上演されようとしている。そのことに驚きと刺激を受けますし、上演が今から楽しみです」と語った。

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「ふじのくに→せかい演劇祭2016」

2016年4月29日(金・祝)~5月8日(日)
静岡県 静岡芸術劇場 ほか各所

[ラインナップ]
「イナバとナバホの白兎」
2016年5月2日(月)~5日(木・祝)
静岡県 駿府城公園

演出:宮城聰
台本:久保田梓美、出演者一同による共同創作
音楽:棚川寛子
空間構成:木津潤平
出演:赤松直美、阿部一徳、石井萠水、大内米治、大高浩一、加藤幸夫、榊原有美、桜内結う、佐藤ゆず、鈴木真理子、大道無門優也、武石守正、舘野百代、保可南、寺内亜矢子、野口俊丞、布施安寿香、本多麻紀、牧山祐大、美加理、三島景太、森山冬子、山本実幸、横山央、吉植荘一郎、吉見亮、渡辺敬彦

「三代目、りちゃあど」
2016年4月29日(金・祝)~5月1日(日)
静岡県 静岡芸術劇場

作:野田秀樹
演出:オン・ケンセン
出演:中村壱太郎、茂山童司、ジャニス・コーヤ、ヤン・C・ヌール、イ・カデック・ブディ・スティアワン、江本純子、たきいみき、久世星佳

「オリヴィエ・ピィのグリム童話『少女と悪魔と風車小屋』」
2016年5月7日(土)・8日(日)
静岡県 舞台芸術公園 野外劇場「有度」
原作:グリム兄弟
作・演出:オリヴィエ・ピィ
出演:フランソワ・ミショノー、レオ・ミュスカ、バンジャマン・リテール、デリア・セピュルクル・ナティヴィ

「ユビュ王、アパルトヘイトの証言台に立つ」
2016年5月3日(火・祝)・4日(水・祝)
静岡県 静岡芸術劇場
作:ジェーン・テイラー
演出:ウィリアム・ケントリッジ

「火傷するほど独り」
2016年5月7日(土)・8日(日)
静岡県 静岡芸術劇場
作・演出・出演:ワジディ・ムアワッド

「It’s Dark Outside おうちにかえろう」
2016年4月29日(金・祝)~5月1日(日)
静岡県 舞台芸術公園 稽古場棟「BOXシアター」
作・演出:ティム・ワッツ、アリエル・グレイ、クリス・アイザック

「アリス、ナイトメア」
2016年5月6日(金)~8日(日)
静岡県 舞台芸術公園 稽古場棟「BOXシアター」
作・演出・出演:サウサン・ブーハーレド

[関連企画]
・「シンポジウム 演劇の力ってなんだろう?」
2016年5月3日(火・祝)
静岡県 駿府城公園内フェスティバル garden
出演:平田オリザ、オン・ケンセン、宮城聰
司会:中井美穂

・お茶摘み体験をしよう! in 舞台芸術公園
・フェスティバルgarden/フェスティバルbar
・「まちは劇場」プロジェクト ストレンジシード
・みんなの nedoco プロジェクト

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薙野信喜 @nonchan_hg

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