ダブルデッカーが印象的なロンドンの街中の様子。

松田誠のスタオベ図鑑 Page10 [バックナンバー]

ロンドンで感じた、日本のコンテンツの可能性

ロンドンでもらった勇気

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「ミュージカル『テニスの王子様』」「ミュージカル『刀剣乱舞』」など、演劇界に常に新風を巻き起こして来た演劇プロデューサーの松田誠。彼が“思わず立ち上がって拍手を送りたくなる”人、もの、場所を紹介する「松田誠のスタオベ図鑑」のPage10では、前回に続き、春に訪れたロンドンで感じた思いを振り返る。パンデミックを経て、ヨーロッパ圏での、日本のカルチャーに対する目線が変化したことを実感していると話す松田が、2.5次元舞台の新たな可能性を展望する。

構成 / 熊井玲

日本のアニメやマンガが市民権を得た

前回お話しした通り、今年の春先にロンドンを訪れて、ロンドンの新しいものに対する貪欲さ、懐の深さみたいなものを来訪者の1人として実感しました。一緒に行ったメンバーの中には、初めてロンドンを訪れた人たちもいたので最初のうちはロンドンの街並みや雰囲気に憧れを感じて素敵だなって感じていたようです。しかし1週間もいるとそれにも慣れてきて、それよりも今度は、ここで起こる“見たこともないようなこと”に興味を持ち始めて。ロンドンには、不思議なアトラクションやショーがたくさんあるんです。例えば人間が汗をかきながらリアルにモノポリーをやるショーとか! しかもどれも凝っていて面白い。その人間モノポリーを作ったチームは、パンデミック中に世界が縮こまって劇場も使えないときに「どうしたらいいんだろう」と考えて、アイデアを思いついたんだそうです。その発想を具現化してしまうのがすごいですよね。

「モノポリー・ライフサイズ・ロンドン」の様子。

「モノポリー・ライフサイズ・ロンドン」の様子。

そんなロンドンで昨年、RSCが上演した「となりのトトロ」がローレンス・オリヴィエ賞で最優秀作品賞、演出賞、衣装デザイン賞など6部門受賞という快挙を果たしました。それ以前からロンドンのプロデューサーや舞台関係者から「日本の2.5次元舞台を一緒にやろう」と声をかけられてはいましたが、実は昔は、ヨーロッパの中でもイギリスは日本のマンガの評価が低いほうだったのです。しかしパンデミックがあり家で過ごす時間が増えて、それまであまり日本のアニメやマンガに興味がなかった人たちが、“たまたま”それを観て驚いたわけです。例えば「進撃の巨人」のアニメを観た人が、「なんだこの哲学的な作品は!」と。それで、一気に日本のアニメやマンガの評価が上がり、イギリスで市民権を得ていきました。

ロンドンの本屋の様子。

ロンドンの本屋の様子。

実際、ロンドンの本屋さんに行くと今、日本のマンガコーナーが特設されていたりするんです。そのように、ロンドンをはじめイギリスで日本のアニメやマンガがフォーカスされているタイミングで「となりのトトロ」が舞台化され、しかもそれを手掛けたのがRSCで、オリヴィエ賞であれだけの賞を獲ることができた……ということでさらに注目されるようになり、今上演中の「千と千尋の神隠し」も発売後すぐにソールドアウトしたと聞いています。

内容重視のロンドンで“闘える”日本のコンテンツ

ロンドンでは劇場版「鬼滅の刃」が公開されていた。

ロンドンでは劇場版「鬼滅の刃」が公開されていた。

そんな流れもあり、今回ロンドンを訪れた際には、ロンドンのプロデューサーや舞台関係者からたくさんのラブコールを受けました。プロデューサーたちが僕のことも2.5次元舞台のことも本当によく勉強してくれていたのがうれしかったです。日本のカルチャーをとても大好きでいてくれて、中には2.5次元舞台の専用劇場を作りたい、なんていう話も上がって、すごくありがたいなと思いました。

そういう場で、もちろん最初はメジャーなタイトルのアニメやマンガが話題に上がります。でも面白かったのは「実はあまり知られてない作品じゃなくても良いんだ」という人たちがいたこと。彼らは「ロンドンでは内容が大事で、ストーリーが素敵でシンパシーを感じられるものであることが重要だから、日本のアニメやマンガのクオリティであれば十分闘えると思う」って言うんです。確かにロンドンで観劇した際、内容がしっかりしている作品はお客さんが入っていたけれど、話題作であっても内容によっては評価されないことがありました。その点、日本のマンガやアニメには、メジャータイトル以外にも決して華やかではないかもしれないけれど素晴らしい物語もたくさんあります。日本ではまだ舞台化していない作品でもロンドンでトライできるかもしれないと思って、一気に選択肢が広がった感じがしました。

ロンドン以外でも実はいろいろな国や都市からも2.5次元舞台のオファーは来ています。上演する場があり、お客様もいるけれどコンテンツが不足している場所はいっぱいある。我々はすでに知られたタイトル、確固たる物語を持っているわけですから、まさに今、世界に打って出るときなのかなと。今回ロンドンを訪れたことで、それを実感できましたし、プロデューサーとして「新しい地で新しいことに挑戦してみたい」という勇気を更に持つことができました。

松田誠(マツダマコト)

ビッグ・ベンをバックにロンドンの空気を感じている松田誠。

ビッグ・ベンをバックにロンドンの空気を感じている松田誠。

演劇プロデューサー。一般社団法人 日本2.5次元ミュージカル協会の代表理事。2022年6月にネルケプランニング代表取締役会長を退任し、現在はフリーとして幅広く活動。

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読者の反応

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Emi Yoshida @littlebraver79

確かに、ロンドンでWaterstones(イギリス最大の書店)に入った時、日本の漫画コーナーの広さと品揃いには驚いた。
昨年から「千と千尋〜」「となりのトトロ」「四月は君の嘘」「デスノート」(コンサート)など日本発のコンテンツが盛り上がっているシアターディストリクトの店舗とはいえ、凄かった。 https://t.co/JXEqe5eHn7

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