次々と新たな作り手が頭角を表す演劇界。数ある劇団の中から、ジャケ買いならぬ“劇団名買い”で観劇に行った経験はないだろうか。チラシやニュース、SNSなどで目にする劇団名は、シンプルなものから不思議な音の響きを持つもの、「どういう意味?」と目を引くものまでさまざまだが、それには名づけ主の希望や願い、さらには演劇的活動戦略が込められているはず。このコラムでは多彩な個性を放つ若手劇団たちの、劇団名の由来に迫る。劇団名が持つ秘密と共に、未来の演劇界を担う彼らの活動の軸を紐解いていく。
43番目に登場するのは、
食む派
Q. 劇団名の由来、劇団名に込めた思いを教えてください。
食む派、という名前の通り、食べるという行為が私自身、大好きだからです。
食べることを中心に暮らしや生活を考えることが多くて、一日の予定を考える時に、お昼ご飯を食べたら、次に夕ご飯を何時に採るか考えて、それまでにどう用事を済ませるか、とか。
色々な生活の軸があるけれど、その中でも食を中心に考えているよ、の意思表明というか、食と書かれた旗を大きく掲げているみたいなイメージです。
あとは、『はむは』という柔らかくもユニークな言葉の響きとキャッチーさ、それに反して、“食む”という動物的な、生理的に行われる食という営みのどこかグロテスクさ、そういったものが合わさって、食べること=生死に直結する、切実な行為であるというイメージも意識しています。
Q. 劇団の一番の特徴は?
これまで手がけてきた作品は、どれもやはり“食べ物”が大きなテーマになっていることです。
もちろん、書きたいことはそれだけに限らないのですが、自分の興味のあるテーマで物語を書こうとすると、やっぱり食べ物が絡んできてしまって、なんだかんだ食べ物のタイトルやテーマばかりになっていました。
食べ物って、この世に生きる全ての人に欠かせないもので、ひとつの食材に絞っても人の数だけ原体験や思うこと、好き嫌いがあったりします。だからこそ、作品を観てもらった後に、その人の生活の中で作品と同じようなシチュエーションや食材に出会った時、捉え方、受け取り方の視点がひとつ増えたりすると、すごく嬉しいです。
でも、作品を手がける時にいつも意識しているのは、それが食に限らなくても、何かの行為を通した、この地球のどこかも確実にいるであろう人たちのつつましい祈り、生きていくことへの痛ましくも確かな希望であったりします。
Q. 今後の目標や観客に向けたメッセージをお願いします。
一人一人の生活、暮らし、人生、ひいては生命活動を誠実に捉えたいという試みを、これからも食む派という団体を通して表現していきたいです。
調子を崩してしまって、舞台の公演延期もあったのですが、その中でも、やっぱり周囲の人やご飯はいつでもあたたかった。
人が営む生活の尊さ、豊かさを忘れないように心に留めて、そしてそれを観てくれる方々に共有できるような作品を届けることができたらと思っています。
食む派
2022年にはぎわら水雨子が立ち上げた演劇ユニット。生活や暮らしの身近なモチーフを、コミック的表現で描き出す。これまでにAPOC ひとり芝居フェスティバル APOFES2021 オーディエンス賞を受賞したほか、「若手演出家コンクール2022」優秀賞次点選出、「佐藤佐吉演劇祭2022」優秀脚本賞・優秀主演俳優賞を受賞。
おオはしさつキ @satsukin_dayo
「食む派」
今年1月の公演は残念ながら延期となりましたが、この劇団名、気になった方は多いのではないでしょうか?
ステージナタリーさんにて主宰のはぎわらさんが由来を語りました☺️
ヘンテコおかしいでも沁みる。次回作をのんびり楽しみに待ちます。 https://t.co/A5xl3ee32f