大熊隆太郎が大阪で劇団を15年やってわかった9のこと その4 [バックナンバー]
壱劇屋は、若い世代と“小劇場ならではの面白さ”を一緒に楽しみたい
16年目に入り思う、未来のこと
2024年2月5日 14:00 2
この連載では座長の
壱劇屋は16年目の劇団に
「大阪で劇団を15年やってわかった9のこと」まさかのアディショナルタイムです。
10個目です。15年が終わって16年目の劇団となりました。9のことは経験則を書きましたので、10個目は未来のことを書きたいと思います。
10.未来のこと
少し前のことですが、関西の小劇場で上演されたある人気企画がありました。その企画のXアカウントに、ある写真が掲載されていまして、それは出演者一同が客席を背にしてお客さんと一緒に集合写真を撮っている写真でした。比較的よくある写真だと思います。盛り上がってるなと写真を見ていたのですが、なにか違和感があってよくよく写真を拡大して気付いたのですが、どうにも客席に若い人の姿が見えません。私と同年代以上しかおりません。たまたまそうだった可能性も十分ありますし、写真の解像度的に見えづらい奥の方には居たかもしれません。しかしその企画は幅広い年代に楽しんでもらえそうな企画だったので、かなり意外でした。
それで私が薄々思っていたことがより強くなりました。大人たちは小劇場の面白さを知ってるけど、若い人たちって小劇場が面白いって知らないんじゃないか?と。あの臨場感、あの密度、あの特別感、みんなで一緒に目の前の表現を見て、笑ったり泣いたり驚いたりを共有するのって、めっちゃ楽しいってことを知らないんじゃないかと。実験的だったり、マニアックだったり、際立った個性を体験できる、小劇場ならではの面白さを知らないんじゃないかと。そう感じました。
でも知らなくて当然です。今はいろんな情報が自分にカスタマイズされて入ってきますし、それは基本的にオンラインですし、生の舞台ってオンラインから対極にありますし、さらにそれが小劇場ということになれば、こちらから調べたところで劇団も俳優も作品も得体が知れず、なんだか怪しげなカルチャーという印象です。私がまだ高校生の演劇部だったころも小劇場はそのような印象で、でも大熊少年は怪しげなものが好きだったせいでそのまま小劇場で演劇を始めたというのもあり、複雑な心境です。
でもこの世界で頑張ってる大人大熊としては、やっぱり小劇場の舞台ってスペシャルな体験だと思ってるので、触れたことのない若い世代の皆様に、今小劇場を楽しんでる人たちの仲間入りしてもらえないだろうか?というテーマを持って活動していこうと思ってます。小劇場がどうとかそんなジャンル分け自体ナンセンスという内なる大熊の声も聞こえてきますが、一旦置いときます。
とはいえこれまでも壱劇屋では“高校生以下無料”という料金形態を席数限定ではありますが毎公演設定していて、ちょっとずつ高校生の観劇も増えてきているのですが、それでも限定のお席が毎ステージ満席になることはありません。
更に大学生・専門学生は一般チケットの半額で観劇いただける学割も設定してるのですが、学割の利用者は全体の来場者の7%程度しかおりません。
そう、壱劇屋は若い観劇層が実は少ないのです。
壱劇屋が手っ取り早くできるのはこの二点の強化かなと思います。なので次回公演は“高校生以下無料”をもっとプッシュし、更に学割やユース割の値段をワンコイン程度にするなど大胆な設定もしてみます。
やっぱり若い人に聞くと、まずはチケット料金のことが最初に出てきます。
多分お金かける優先順位があって、なんなら料金の高い商業の舞台とかなら見に行ったりしてる場合もあります。小劇場の優先度は低いのです。なので、優先度は低いのでその分料金を下げてバランスをとろうという力技です。
また、これは若い人に限らず、もっと簡単に演劇に触れる機会を設けたいとも思ってます。舞台は観るのも楽しいですが、参加するのはまた違う楽しさがあるからです。人間には物作り欲があると思うのですが、1人では腰が重くても、演劇ってみんなと一緒に作るので、その点で言えばハードルが低いです。更に15年劇団続けてきた我々がサポートしながらなので、ある程度成果も得られるんじゃないかと思ってます。
これは余談なのですが、昨年上演した若い人がたくさん出てくれた公演で、座組みの皆さんとても楽しそうで、公演が終わってからも和気藹々と遊んだり、誕生日会をしてる姿がSNSに上がっており、そのそれらの会に壱劇屋の面子は誰も誘われていないという、なんだかマッチングアプリの運営みたいな気分になったことを記しておきます。
ワークショップとかも良いとは思うのですが、できれば一緒に作品を作りたいと思ってしまう性質なので、なんとか壱劇屋の公演にいろんな環境の人が参入できる方法はないものか考えていきたいと思っております。
なんでもかんでも手を出してひぃひぃ言いながら運営している状態ですが、それでもちょっとずつ、コツコツと、客層を広げる努力もして、同時に自分たちが面白いと感じる作品も産み続けたいと思っています。
大熊隆太郎 プロフィール
1986年、大阪府生まれ。演出家、俳優、パフォーマー。2008年に高校演劇全国大会出場メンバーで劇団壱劇屋を結成し、さまざまなアワードに輝く。2022年度大阪文化祭賞奨励賞を受賞した。個人では京都でロングラン公演中の「ギア-Gear-」マイムパートに出演している。
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まさかの10個目だ!直近で言うラブトーナメントのお話をしている…!