大熊隆太郎が大阪で劇団を15年やってわかった9のこと その3 [バックナンバー]
劇団壱劇屋は、全方位で「精一杯楽しませたい!」思いを体現してきた
拠点を構えること、なんでも一回やってみること、体験
2023年12月8日 17:00 5
この連載では座長の
謝罪がフラッシュバック?
「9のこと」もラストです。本当は「あかんことしたら謝ろう」という項目も書きかけたのですが、途中まで書いてみたら、これもう劇団関係ないなという文章になってしまいやめました。過剰なプライドは捨てて謝ろう、ちゃんとリスペクトを持って接しよう、失敗に対して怒るのではなく次どうするのかを検討していこう、人はすぐに変われないのでちょっとずつ頑張ろう、みたいな内容だったのですが、読んでて過去自分が犯してきた失態が幾つも甦り、冷や汗かきまくり謝罪がフラッシュバックしてきて、こう、来るものがありましたね。でも結果として謝ってよかったことばっかりなので、あかんことしたら謝りましょうね! というわけでナタリーさん! いつもコラムの原稿遅くてすみませんでした!(冷や汗謝罪)
7.拠点を構えよう
演劇の多くは劇場で上演して、観客は現地まで足を運んで観るので、物理的な“場”というのは大事な要素です。従って“場を作る場”も物理的に必要なのが演劇です。コロナでリモート稽古という選択肢もできましたが、それは舞台を作るのに不向きで、生のものを作るには生の練習が必要でした。生の練習をするためには、普段バラバラの地域に住んでいる劇団員たちがスケジュールを合わせて1つの場所に集合せねばなりません。継続的に劇団を続けるならここを如何に効率よく、ストレス少なく行えるかというは重要だと思います。
壱劇屋の場合、最初は枚方を拠点として活動しておりました。理由は単純で、枚方の演劇部出身メンバーで結成した劇団だったので、必然的に地元を拠点に活動してただけです。でもこれが良くて、みんな自転車や原付で気軽にファミレスに集合して会議できたり、住んでいる地域の公民館は恐ろしく安い値段で稽古場を借りれたりするのです。枚方市には感謝しかありません。感謝しかありませんが、その後壱劇屋は門真市民文化会館ルミエールホールさんからお声をかけていただき、応援劇団として提携し、現在の稽古はもっぱらルミエールホールで行い、事務所もルミエールホールからほど近い場所に借りております。そう、壱劇屋は門真の劇団です。我々は枚方市から二つ隣の門真市に魂を売ったのです。え、枚方? 感謝してますよ! でも! いいじゃないですか! だって門真の劇場が応援してくれるって言うんですから! そら尻尾振って門真へ行きますよ! 本当にめちゃめちゃ応援してくれて、いろんな事業を一緒にしてくれるんですもの! 今の壱劇屋は門真のルミエールホール無くしてあり得ないんですから! とは言え大熊は今も枚方に住んでて枚方も愛してますのでお仕事待ってますね枚方市さん!
もう少し詳しく経緯をつづりますと、恵まれているとは言え地元のいくつかの公民館をジプシーのように借りまわって稽古していた壱劇屋だったのですが、應典院舞台芸術祭に参加した際に作品を観てくれたルミエールホール職員さんがお声をかけてくださいました。内容としては稽古場の提供や共催公演の実施という形で応援劇団として提携しませんか?というものでした。聞けば今までほかの劇団さんにもお声がけしてきたが、立地的に定着することなく関係が終わってしまったとのことでした。大阪の立地が分からない方もいると思うのですが、要するに門真というのは都市部から少し離れたややローカルな地域なのです。しかしこれ壱劇屋にとっては好都合な話でした。余りに良い提案すぎて若干警戒しつつ話し合いを経て提携したのですが、本当に壱劇屋の運命を左右した出会いと言っても過言では無いです。
その後のことは先ほど書いた通り稽古場として通い、公演やワークショップ、イベント出演など沢山の企画を応援してくださっています。近所に倉庫兼事務所も借りて、打ち合わせや作業や簡単な稽古はそこで行い、稽古に必要な小道具などは徒歩で稽古場へ持っていくという、冒頭で書いた「効率の良い場の使い方」が実現したのです。これは本当に運も大きいのですが、地方で活動しているというのも大きいと思います。大道芸業界の人なんかは地方で創作をして、公演や営業で都市部に行くというスタイルの人もいると聞きました。地方で安く大きな稽古場を借りて地元と都市部で公演をする、その形がフィットしそうな劇団も多いんじゃないかなと思います。あと事務所もできるだけ借りた方がいいと思います。場所があるだけで運営の効率やモチベーションはグッと上がります。地方なら家賃が安いところも多いので借りやすいと思いますしお勧めです。
8.なんでも一回やってみよう
4.「フットワークは軽い方が楽しい」と5.「マルチに活動しよう」で書いたことの根源はこれです。なんでも一回チャレンジしてみると、その時体験した技術や知見が体に残ります。やって駄目だったことはやめればいいので、とりあえず可能性がありそうなら1回やってみるのが壱劇屋流です。これは創作と制作両方です。創作で言えば「本当にこれできるのか?」というアイデアを思いついた時に、実現できる方法を場にいる全員で考えてみます。この「全員で」というのが重要で、1人が家でプラン立てて全体化する方がスムーズな創作だとは思いますが、それだと全体の財産になりにくいので、創作の場で全員で取り組みます。かなり効率は悪いです。一度「人間とゾンビがお互いに感染させたり注射打って人間に戻したりするスポーツ」を作って、その試合を真剣にやったら見せ物として面白いんじゃないか?と思い、みんなで2日かけてスポーツを作ってみました。アイテムを使って一定時間感染しないルールとか、人間とゾンビのハーフを設定したり、制限時間やターン制度を導入したりして、結構盛り上がりました。で、その稽古終わりのミーティングで皆に「これ、このままいっていいと思う?」と問いかけました。みな押し黙って、ただ気不味い沈黙が流れた後に、1人の劇団員が「無理とちゃいますか……」と口火を切り、そのネタは虚空に消えていきました。
というわけで本当に全員で一回やってみるというのは効率が悪いです。効率が悪いのでそれに我慢できない人はイライラしてしまうと思うので向き不向きはあります。けれど結果的に劇団として成長への近道だと私は思っています。ただし! この考えを明確に言語化できておらず、あやふやなまま商業の現場に持ち込んでしまって大層迷惑かけたので、個人でしっかりプラン立てるか否かのバランスは現場ごとに調整しないと痛い目みることも書いときます! 結局ケースバイケースですみません。
あと劇団の良いところは、成長の場所にしていいところだと思います。壱劇屋の場合は私がいろんな企画をやりたいタイプの演出家なせいで、作風は一貫してるもののパッケージがツアー型演劇だったり、会話劇だったり、無言劇だったり、コントだったり、音楽劇だったり、オールスタンディングだったり、オンラインだったり、東京の壱劇屋に行けば殺陣だったり、さまざまなパッケージを「1回やってみる」ので必然的に劇団員もさまざまなスタイルにチャレンジすることになります。その度に、例えばパントマイムのムーンウォークができないけどチャレンジして本番までに何とか人前に出せるところまで持っていこうと、毎稽古の最初15分をムーンウォークの練習に費やして本番に備えます。そして一度習得した技能は次の公演に持ち越せるので、じゃあ次はロボットマイムを練習していく、というステップアップを踏んでいけるのです。演技にしてもそうです。
例えばとあるショーケースイベントでコントを上演したのですが、冒頭でオムツ姿の男性がゆっくりと現れて客席を睨みつけてから「バブゥ」と一言発する“出オチ笑いプラン”で挑みました。これ、一番効率が良いのは既にその力をもった俳優が演じることですが、そこは劇団なのでまだ若く出オチの難しさを体験したことのない俳優に任せました。やることとしてはただ歩いてきて「バブゥ」と言うだけなのですが、これが存外に難しくて何故だかあんまり面白くない。なので登場だけ何度も何度もアプローチを研究しチャレンジしました。
そして迎えた本番、彼は見事、出オチバブゥで笑いをとることに成功したのでした。しかも終演後にお客さんからも彼が面白かったというお言葉を頂戴しました。更にすごかったのは、出オチをさんざん練習した結果ある種のコツを会得した彼は、次の本公演でもそのコツを流用して笑いをとっていたのです。まさにチャレンジに成功してステップアップしたのでした。チャレンジする場をつくって個々が成長する。チャレンジした上でやりたくないなと思った物事とは距離をとる。これは劇団を長く続ける意義としては大きいことなのかもしれません。
9.演劇は体験である
コロナ以降で観客動員が減りました。明確にコロナのせいなのかはわかってませんが結構焦っています。スモールサンプルなので何とも言えませんが、コロナで観劇から遠のいた話を何件か聞きました。私の親族でも演劇が好きで月に1回は劇場へ足を運んでいた人がいるのですが、コロナで観劇が生活から無くなり、空いた隙間は別のことで埋めて、舞台が多く催されている現在も未だ隙間は埋まったままなので観劇する必要がなくなったと言っていました。他の地域はわかりませんが、私の観測する限り関西の小劇場界隈はあんまり景気の良い話は聞きません。自分たちのやりたい表現にこだわりつつ、舞台ならではの面白さを広めて劇場に来る人をなんとかして増やしたい! そこで改めて壱劇屋が取り組んでいるのは“体験の提供”です。イマーシブシアターを上演しようということではなく、そもそも舞台を観に来ること自体が体験だよなという原点回帰です。特に小劇場は“近さ”とか“臨場感”が特徴で、1ステージに来るお客さんの数も少ないので、より濃密な体験を嫌でも提供することになります。しかも劇団ならそれを継続してできる! ということで“体験の提供”を意識して公演をつくっています。
これは今年になってテーマとして掲げたのですが、壱劇屋は今までも体験を提供することに力を注いできました。とは言ってもアフターイベントを毎ステージ開催するとか、終演後にお見送りするとか、わりと数多に行われてることをやってるだけですが、壱劇屋はそれらを作品と同じぐらいの熱量でやるというか、グッズ販売も俳優がお客さんとしゃべりながら販売しますし、写真撮影用にフォトスポットも用意してますし、とにかくお客さんと相互作用しまくろうと必死なのです。本番以外でも公演に向けて参加型イベントを開催したり、稽古場を一般公開したり、「壱劇屋商店街組合」という名のファンクラブを運営したり、何かにつけて一緒に楽しめる公演づくりを心がけています。この一緒に楽しむというのも大事で、お客さんも楽しいしやってる自分たちも楽しいが両立できる企画をするようにしてて、じゃないと続けるのが大変だと思います。疲弊してしまう恐れがある場合はやめます。運営も健やかに楽しむことでお客さんも安心して楽しめる空気ができあがるように思います。そこがもしかしたらナタリーさんが今回このコラムを依頼してくれたきっかけである「壱劇屋はなんか老若男女のお客さんに愛されてる感じがして驚きました」という部分なのかもしれません。
あと意外と気が届かないところで言えば、昔ある制作さんがおっしゃっていた「当日パンフレットも作品の一部」という考えで、これは確かにそうで、来場者全員が文字資料として目にできる貴重なアイテムな上に、劇場の外まで体験の残り香を持って帰ることができるのです。当日パンフレットが素敵だと後から公演を思い返すのも楽しいと思います。またこれはXで見た知見ですが「アンケートも体験のひとつ」という考え方もとても共感しました。感想や指摘がもらえるという劇団側のメリットが大きいのはもちろんですが、それに加えてお客さん側も感想をアウトプットして、メッセージを作り手に届けるという1つの体験になっているのか!と膝を打ちました。他にもいろんなところに体験は潜んでるんだと思います。
こうしてまたコツコツと現場へ行くことって面白いと感じる人を増やそうとがんばってます。なんかもっと効率的なやり方もあるんでしょうが、そこはやっぱり劇団ならではのグルーヴ感や、こだわりを貫きたくもあり、でも売れたいというのも本音だし、だから本当にコツコツやっていきます。
最近はイマーシブシアターが定着して全国でたくさん上演されていて、壱劇屋もイマーシブシアターをいろんな形態で上演してます。作品の構造も体験型にすることで更に特別感が得られると思います。ですが上記したように舞台は、特に小劇場の舞台は観劇にくる事そのものが体験なので、年末に上演する壱劇屋の東西合同公演でも“体験の提供”を意識して作っています。15周年記念公演ということでお祭りのようにロビーや開場中も賑やかに演出し、最も大事な“作品”をより楽しんでもらえるように盛り上げます。せっかく劇場まで来てくれるんですから精一杯楽しませよう、そんな壱劇屋のスタイルを存分に味わってもらえる15周年にしたいと思います。
大熊隆太郎 プロフィール
1986年、大阪府生まれ。演出家、俳優、パフォーマー。2008年に高校演劇全国大会出場メンバーで劇団壱劇屋を結成し、さまざまなアワードに輝く。2022年度大阪文化祭賞奨励賞を受賞した。個人では京都でロングラン公演中の「ギア-Gear-」マイムパートに出演している。
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大熊隆太郎🪩 @Okuma_Ryutaro
ステージナタリーさんで連載さしてもらってるコラムの第3弾が更新されました〜!大阪で15年演劇やってみたお話です〜!若手の成長があるのって劇団やってる中で上位で楽しい瞬間かもしれないです〜!
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