次々と新たな作り手が頭角を表す演劇界。数ある劇団の中から、ジャケ買いならぬ“劇団名買い”で観劇に行った経験はないだろうか。チラシやニュース、SNSなどで目にする劇団名は、シンプルなものから不思議な音の響きを持つもの、「どういう意味?」と目を引くものまでさまざまだが、それには名づけ主の希望や願い、さらには演劇的活動戦略が込められているはず。このコラムでは多彩な個性を放つ若手劇団たちの、劇団名の由来に迫る。劇団名が持つ秘密と共に、未来の演劇界を担う彼らの活動の軸を紐解いていく。
34番目に登場するのは、東京と千葉を拠点とする
7度(ナナド)
Q. 劇団名の由来、劇団名に込めた思いを教えてください。
「7度の『度』って、なんの『度』?」
劇団名について、よく聞かれる質問です。多くの人が、数字に“度”がつくと、温度や角度などを思い浮かべるのではないでしょうか。では、私たち7度の“度”は、何の“度”なのか? 実は、耳にする機会は少ないかもしれませんが、音程の単位の“度”なんです。例えば“ド”から数えて7つ目の音は“シ”です。難しい説明は省きますが、この場合の“ド”と“シ”の関係を、7度音程というそうです。その、7度なんです。
かつて、伝統的な西洋音楽の世界では、7度の音程を使った和音は不協和音になるとされ、嫌われていました。そのため、決められた場合を除き、使われていなかったそうです。しかし20世紀になると、作曲家エリック・サティが現れます。彼は「ジムノペディ」という、いわば実験的な曲で、7度の音程をたくさん使いました。その音は新しい響きとなって、音楽の可能性を拓きました。
といったようなことを、団体名に頭を抱えていた時に、当時NHK Eテレで放送されていた、「スコラ 坂本龍一 音楽の学校」が教えてくれました(笑)。「私も、演劇で、そういうことがしたい!」と、このとき強く思ったことを、今でもはっきりと覚えています。
ずっと気づかれないでいた音を再発見し、世界に響かせたアーティストたち。そのように、私たちも戯曲の中に埋もれた声に耳を傾け、その声を現代に響かせたい。そんな思いから、7度という名前になりました。
Q. 劇団の一番の特徴は?
7度は、作家・演出家を兼任せず、既存の文学作品を“演出”することで、作品作りをしています。これまで、古典戯曲から現代戯曲・小説やエッセイを上演してきました。さらに、戯曲や小説に対して大胆なテキストレジを行います。文章、時には言葉を断片にまで分解することもあり、同じフレーズが何度もリフレインすることもあります。そうして、過去のある時代に書かれた文章を、現代に重なるものとして再構成する演出が大きな特徴です。
こうした演出をする動機として、2018年より“dim voices”という演劇・演技観を掲げています。“dim voices”とは、“dim”(ぼやけた、ぼんやりとした、薄暗くてはっきり見えない)といった言葉と“voices”(声)の複数形を合わせた造語で、「かすかな声たち」といったイメージで用いています。物語の中にあって、しかし気づかれにくく、埋もれているそれらの声にじっと耳を澄まし、どのように響かせるかを中心に、舞台空間を考えています。この声を届けるため、とても大事にしているのが“沈黙”と“暗闇”です。7度の上演では、とても静かな時間や、非常に深い闇が訪れます。“ことば”と“沈黙”が拮抗する、緊張度の高い舞台空間です。この空間を観客の皆さんと共有し、物語だけにとらわれず、言葉そのものと向き合う時間を作る演出を心がけています。ただ、“静かで、動きが遅く、暗い”という演出の特徴は、睡眠環境として最適であるという特徴をもはらんでいて、いつもドキドキしながら慎重に取り組んでいます(笑)。
Q. 今後の目標や観客に向けたメッセージをお願いします。
2023年12月6日から10日にかけて、こまばアゴラ劇場にて一人芝居「胎内」を上演します。2021年、豊岡演劇人コンクールにて優秀演出家賞・優秀演劇人賞を受賞した作品の再演となります。戦後の日本を舞台に、横穴の中で生き埋めになった3人の会話による芝居ですが、今回はこの穴をワンルームマンションの一室とし、現代の生き苦しさを戯曲に重ねた、女性の一人芝居としています。
劇場に来ることで、さまざまな世界への扉が開かれたら、とても素敵だと思います。それは、自分の外側にある世界への扉かもしれないし、もともと自分の中にあって、今まで気づくことのなかった扉なのかもしれない。そんな扉に出会う機会を、たくさん作っていきたいと思います。
また、何より、劇団の掲げる“dim voices”を大事にし、強くしなやかな作品を作り続けていきます。今後の“dim voices”の新しい展開として、“自分”から始めて“他者”を考える、新しい上演空間の創造を考えています。
スマホ1つでグローバルメディアに接続できる今日、“他者”について知ることは、簡単なようでいて、実は一層難しくなっているのではないでしょうか。そんな困難な世界の中で、私たちの作る演劇が、バタフライエフェクトのような、ささやかな始まりであっても、見えない形であっても、世界を変えていける力になると思っています。
劇場にて多くの方とお会いできるのを、心待ちにしております。
プロフィール
2014年に伊藤全記と山口真由により結成。古典から近現代の戯曲・小説を主に上演する。2018年より戯曲に埋もれたかすかな声に耳を澄ます“dim voices”シリーズをスタートした。「演劇人コンクール2021」にて、伊藤が優秀演出家賞、山口が優秀演劇人賞をW受賞した。
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劇団名「7度」の由来は「スコラ 坂本龍一 音楽の学校」
由来を教えて!劇団名50 その34
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