次々と新たな作り手が頭角を表す演劇界。数ある劇団の中から、ジャケ買いならぬ“劇団名買い”で観劇に行った経験はないだろうか。チラシやニュース、SNSなどで目にする劇団名は、シンプルなものから不思議な音の響きを持つもの、「どういう意味?」と目を引くものまでさまざまだが、それには名づけ主の希望や願い、さらには演劇的活動戦略が込められているはず。このコラムでは多彩な個性を放つ若手劇団たちの、劇団名の由来に迫る。劇団名が持つ秘密と共に、未来の演劇界を担う彼らの活動の軸を紐解いていく。
今回登場するのは、河井朗が主宰を担うカンパニー、
ルサンチカ
Q. 劇団名の由来、劇団名に込めた思いを教えてください。
ルサンチカ。覚えやすい名前ですよね。口馴染みもいいし、ほかの何とも被ってない。由来は“ルサンチマン”と“トーチカ”という言葉を掛け合わせた造語です。2つの言葉の意味は、“弱者の心”と“攻撃から兵士が身を守る防御陣地”のことです。ルサンチマンにはネガティブな意味合いが強いですが、世にすくわれない言葉を、身を守りながら1つずつ吐き出せたらと思って名付けました。18歳の頃に名付けたときの名称に対する信念や、執念は今となってはほとんどありませんが、それでも制作のスタンスとしてはできる限り、いろいろな人の声に耳を傾けて、いろいろな人にその声を届けることができればと考えています。長いこと1人でやってきたので、今は河井朗が作品を制作するときの名称という形に落ち着いています。公演ごとにクリエイションメンバーが変わるので、そのつど名前が変わってもいいなと最近は思っています。
Q. 劇団の一番の特徴は?
ルサンチカは年齢職業問わずインタビューを継続的に行い、それをコラージュしたものをテキストとして扱い上演を行っています。さらにはインタビューを用いた制作のときと同じ目線で、既成戯曲や小説を原案とする上演にも取り組んでいます。
とはいえそれが特徴と言えるかはわかりません。それこそ、僕は戯曲を書く人ではないですし、実演芸術における「物語」にも懐疑的なので。ただ制作する際のコンセプトとしていることはあって、それは「人を人たらしめているのは何か?」という問いです。以前祖母が植物状態になってしまったことをきっかけに、人々にインタビューをしてそれを用いた作品制作を始めました。寝たきりの人のことを見て、その人のことを生きていると思う人もいたり、死んでいると思う人もいるし、本人も生きていると思っているかもしれないし、何も思わない無かもしれない。じゃあ夢を追いかけていない人は? 仕事をしてない人は? 家がない人は? どんどん質問したり、考えていくと、人それぞれの“人を人たらしめているもの”が出てくる。それを観客とどう共有できるかを制作のとき考えています。ただいわゆる芸術作品と言えるものはすべからく「人を人たらしめているものは何か?」という問いを持っているとは思います。
Q. 今後の目標や観客に向けたメッセージをお願いします。
大きな目標は、可能な限りの舞台芸術の発展と観客人口の増加、でしょうか。そのために、もっともっと生活に根ざして考えていけることがあるとすれば、やはり舞台芸術は必ず集団で制作をすることになるので、丁寧な制作環境作りを整えていくことです。
2023年は残すところ2度の公演を実施します。11月は「TOKYO PIPE DREAM LAND」、12月は「SO LONG GOODBYE」という作品です。どちらもインタビューを行い制作する演劇作品です。それぞれ「理想の生活」・「仕事」について考え、提供し、観客のみなさまと共有できる作品になると思います。ご期待ください。
プロフィール
河井朗が個人で作品を発表するカンパニーとして、2013年に設立したカンパニー。実施したインタビューを元に演劇作品を制作する手法を取るほか、既存戯曲や小説を元にした作品制作も行う。現在、「TOKYO PIPE DREAM LAND」を東京・アトリエ春風舎で上演中。
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その33 ルサンチカ
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