松田誠のスタオベ図鑑 Page5 [バックナンバー]
関わり合う中で松田誠が実感した、世界に愛される「美少女戦士セーラームーン」の魅力
武内直子先生のチャレンジ精神が後押ししてくれる
2023年2月27日 15:00 10
「ミュージカル『テニスの王子様』」「ミュージカル『刀剣乱舞』」など、演劇界に常に新風を巻き起こして来た演劇プロデューサーの
構成
「美少女戦士セーラームーン」との出会い
「美少女戦士セーラームーン」のミュージカル版は、もともとバンダイさんが1993年から2005年までやられていたのですが、その後少し間が空いて2013年にネルケ版がスタートしました。「美少女戦士セーラームーン」について僕らがやらせていただいているものは大きく3つあり、1つはバンダイさんから引き継いだ、いわゆるミュージカル「美少女戦士セーラームーン」と言われているもの。これは毎回オーディションでメンバーを選んで上演しています。さらに2018年にスタートした乃木坂46版。そして海外に向けてスタートした、スーパーライブ版があります。スーパーライブ版は基本的にセリフがないノンバーバルで、これまでにパリやニューヨークのブロードウェイで公演し、今年4月には台湾での公演も決定しています。ちなみに昨年5月にニューヨークで開催された「Japan Parade」にはスーパーライブ版のセーラー5戦士が出演しました。「Japan Parade」出演者の中でもダントツ人気で、彼女たちがフロートに乗って現れるとファンが集まって大盛り上がりしたそうです!
「ミュージカル『美少女戦士セーラームーン』」に関わるまでは、僕はマンガをちょっと読んだことがあるとかテレビアニメを見たことがあるとか、女の子に大人気くらいの印象でした。ただ、バンダイさん版のミュージカル「美少女戦士セーラームーン」を観て強い衝撃を受けました。「すごく華やかな世界だな」と驚嘆しましたし、舞台に向いている作品だと思いました。それにセーラー戦士たちがかわいいだけじゃなくカッコよくて……。ただその頃は、まさか自分がこんなに深く関わることになるとは思っていませんでしたが。
「美少女戦士セーラームーン ミュージアム」で再確認したファン層の“厚さ”
昨年の7月から12月には、「美少女戦士セーラームーン」30周年を記念して、東京・六本木ミュージアムで「美少女戦士セーラームーン ミュージアム」が開催されました。「美少女戦士セーラームーン」のファンって今や3世代と言われていますが、おばあちゃんから孫の世代まで、まさに3世代でミュージアムに訪れている人もいました。30年もの間愛され続けていることは本当にすごいことですよね。
「美少女戦士セーラームーン ミュージアム」には「ミュージカル『美少女戦士セーラームーン』」コーナーも作っていただき、過去の衣裳が展示されていました。ご覧になった方はお気付きになったかもしれませんが、衣裳は毎回、舞台衣裳としてデザインしていました。実はそれってすごいことで、マンガ原作の舞台では衣裳を忠実に再現することが求められます。でも「ミュージカル『美少女戦士セーラームーン』」の衣裳は“舞台のための衣裳”で、それは「ミュージカルはミュージカルとして、華やかなものにしてほしい」という、武内直子先生のご意向によるものです。武内先生は「ミュージカル『美少女戦士セーラームーン』」をとても愛してくれていて、もちろん毎回観にきてくださいますし、先生のそういった思いが“やる側”としてはありがたいし誇らしいですね。実は「美少女戦士セーラームーン ミュージアム」にミュージカルコーナーを、と言ってくださったのも武内先生だそうで本当にありがたいです。
「美少女戦士セーラームーン ミュージアム」は、歴代のグッズコーナーも面白かったです。「なかよし」の付録は貴重だなと思いましたし、変身グッズや人形、ぬいぐるみなどとんでもない量でした。あれでも厳選されたものだそうです。描き下ろしも素敵なものばかりでしたね。武内先生は、例えばセーラー戦士たちがドレスを着ている画とか、(主人公の月野)うさぎちゃんとまもちゃん(地場衛)のちょっとセクシーな画とか、当時の少女マンガとしては“とてつもなく早い”チャレンジをたくさんされています。
登場人物のキャラたちは一見するとごく普通でちょっと弱いところもある女の子たちですが、誰かに依存するのではなくみんな精神的に自立している。その感じがカッコいいですよね。そもそもあの時代に戦士が出てくるのは少年誌で、少女マンガはラブコメが主流でしたが女の子たちが武器を持ち「自分の命よりも仲間の命を」とチームで戦うなんて誰も想像できなかったチャレンジです。「美少女戦士セーラームーン」が今も日本のみならず海外でも愛されるのは人間の性(さが)や嫉妬心など、人間の根底にある精神面に向き合っているからだと思いますし、そこが日本のマンガの強さだなと思います。マンガやアニメファンから度々、「NARUTO-ナルト-」に勇気をもらったとか、「ONE PIECE」からチームワークの大切さを学んだという話を多く耳にしますが、「美少女戦士セーラームーン」から勇気をもらったファンも世界中にたくさんいると感じています。
「美少女戦士セーラームーン」を海外へ
ミュージカル「美少女戦士セーラームーン」は以前から海外のお客さんが多くて、「このミュージカルを観るために日本に来ました!」と言ってくれる方や、コスプレで来場される海外の方もたくさんいらっしゃいました。海外の方が日本の舞台のチケットを取るのって簡単ではないと思うんですが、幕が開くと最前列で観てくれていたりします。そのときに、「こんなに熱心に観に来てくださる方がいるなら、やっぱり海外で展開するべきじゃないかな」と思いました。そんな思いからスーパーライブ版を始めました。スーパーライブ版のセーラー戦士たちは、2018年にフランスで開催された「ジャポニスム2018」にも出演しました。
2014年にパリの「ジャパンエキスポ」にミュージカル版の美少女戦士セーラームーンのキャストが登壇したときは衝撃的でした! 用意されたステージは会場の端のほうの、客席数が200か300くらいのいわゆるオープンスペースで、「お客さんが来てくれるかなあ」と実は不安だったのですが、いざ始まってみたらオープンスペースがゆえに2000人以上集まってしまって! とても盛り上がりましたし、セーラー戦士たちが会場を移動するときにはファンの方もブワーっと大群でついてきてしまうような大スターぶり。そのときもコスプレをして来ていたフランス人のファンの方が多かったのですが、皆さん本当にスタイルが良いしすごくかわいいんですね。でもフランスの方からすると「日本からやって来たセーラー戦士たちこそが本物だ。本物の『美少女戦士セーラームーン』が見たくてやって来たんです!」と。その熱狂ぶりに驚くと共に、ファンの方にとってはキャラクターそのものがスターなのだと実感し、それは面白い現象だと思いました。コンテンツにあふれた日本にいるとそのことを一瞬忘れてしまいますが、キャラクターの愛され方のレベルが違うと思いました。
その後、2019年にブロードウェイでスーパーライブ版の公演を行ったときもすぐにチケットがソールドアウトになりましたし、衣裳を着たキャストとタイムズスクエアに行ってみたら、またまたすごい人だかりになってしまって、価値観を一変させる大切な経験でした。
そのように長年「美少女戦士セーラームーン」と関わり続けてきて改めて思うのは、ここまでさまざまな展開ができたのは、武内直子先生ご自身が本当の意味で挑戦者だからなんだろうなと。先生が期待してくださるからやりがいがありますし、同時に責任も感じます。今後はミュージカルだけじゃなく新しい形も含め、「美少女戦士セーラームーン」という日本が誇る素晴らしいコンテンツを、世界に発信していく一端が担えたらと思います。
松田誠(マツダマコト)
演劇プロデューサー。一般社団法人 日本2.5次元ミュージカル協会の代表理事。2022年6月にネルケプランニング代表取締役会長を退任し、7月フリーとなって新たに世界に挑む。
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