ミュージカルの話をしよう 第11回 [バックナンバー]
秋元才加、“声”が迫ってくるのがミュージカルの素晴らしさ(後編)
思いを乗せた歌声を届けて、いつまでも舞台に立ちたい
2021年7月9日 19:00 2
生きるための闘いから、1人の人物の生涯、燃えるような恋、時を止めてしまうほどの喪失、日常の風景まで、さまざまなストーリーをドラマチックな楽曲が押し上げ、観る者の心を劇世界へと運んでくれるミュージカル。その尽きない魅力を、作り手となるアーティストやクリエイターたちはどんなところに感じているのだろうか。
このコラムでは、毎回1人のアーティストにフィーチャーし、ミュージカルとの出会いやこれまでの転機のエピソードから、なぜミュージカルに惹かれ、関わり続けているのかを聞き、その奥深さをひもといていく。
第11回には
取材・
エスメラルダのセリフには私の“血”が通っている
──秋元さんは2018年に三谷幸喜さん作・演出の「日本の歴史」初演に参加し、今年7月6日からはその再演に出演しますね。同作は卑弥呼の時代からの約1700年間を、約2時間半で描くミュージカルです。キャスト7名が何十人もの登場人物を演じ分けることが特徴ですが、初演では何が大変でしたか?
役を演じながら小道具を片付けたり、こまごまとした舞台装置を移動したりするのが、実はかなりハードでした。かつお客様に「秋元、がんばってるな!」と感じさせてしまうとちょっとダサいので(笑)、スマートにお届けしようとがんばっていました。また私は物語を進行する、歴史の先生役を担当していたので、冒頭ではしっかりセリフで説明し、お客様を物語へと導かなくてはならず、そのストーリーテリングは難しかったですね。
──初演で特に印象に残っているのは、どの役でしたか?
私はあまり歴史上の人物を演じてはいなかったのですが、織田信長に仕えた異人の弥助役は思い出深いです。それからエスメラルダにも、いろいろと思い入れがあります。以前に三谷さんと雑談しながら、私のアイデンティティについてお話したことがあって。エスメラルダのセリフには、そのときの話のエッセンスがちりばめられているんです。だから演じるたびに過去の悩んでいた自分に引き戻されて、新鮮に悲しい気持ちになってしまう。でも私はもう、そのうじうじしていた頃の自分を乗り越えているんです!(笑) 三谷さんが書いてくださったエスメラルダのセリフには確かに私の“血”が通っています。でも演じるときはそれを客観視している自分もいるので、不思議な感覚がありました。
なんとかなるさ なんとなく…「日本の歴史」は「みんなのうた」?
──「日本の歴史」では、三谷さんのほかの舞台や映画にも携わってきた荻野清子さんが音楽を担当しています。秋元さんは、本作の音楽にどのような魅力を感じていますか?
きっと本当はとても難しい技巧が詰まった音楽なのだと思うんですが、知らずに聴くとシンプルに感じられるのが素敵です。難しいことを簡単なように思わせるのって、大変ですよね。でもこの作品の音楽は、誰でも覚えやすいメロディです。「日本の歴史」というタイトルを見ると難しそうだけど、音楽を通してどんな方でもとっつきやすい雰囲気を作れるのって、すごいなと思います。
──秋元さんが「日本の歴史」で特にお気に入りのナンバーを教えてください。
「オブライエンソング」に「なんとかならないことでもなんとかなるさ なんとなく」というフレーズがあるんですが、自分が危機的状況に陥ったとき、この一節がリフレインするようになってしまいました(笑)。すごくいい歌詞ですよね。頭の中で歌っているうちに「なんとかなってきた!」という気分になれて好きです。それから劇中に何度も出てくる「あなたが悩んでいることはいつか誰かが悩んだ悩み」という歌詞には、出演者である私自身もとても救われています。「日本の歴史」に出会って3年近くが経ちますが、いまだに楽曲を聴くと奮い立たせられたり、元気が出てきたり、そのほかにもいろいろな感情が呼び起こされます。そこにはやっぱり、音楽の力を感じますね。歌だからこそメッセージがより心に残るということはあると思いますし、ミュージカルの奥深さを実感しました。
────秋元さんは三谷さんの舞台「国民の映画」や、映画「ギャラクシー街道」にも出演されています。「日本の歴史」について、ほかのミュージカル作品と比べて「三谷さんならではだな」と思うポイントはありますか?
ミュージカルって作品によっては、曲がとても難解なものもあるじゃないですか。その難しさが醍醐味、という演目もあると思います。だけど「日本の歴史」はとてもシンプルな、覚えやすい楽曲でつづられる。私はこの作品の音楽を、ミュージカルというより童謡みたいな感覚で聞いています。童謡ってどの世代の方も絶対に聴いたことがある、身近な音楽ですよね。たとえミュージカルが好きではなくても、童謡が嫌いだという方はあまりいないんじゃないかと思います。だから個人的に「日本の歴史」は、ミュージカルだけどいわゆるミュージカルという感覚とは少し違う感じがしていて。「レ・ミゼラブル」のようなグランドミュージカルに慣れている方には、「日本の歴史」の雰囲気は“日本昔話”的というか、まるで「みんなのうた」のように感じられるかもしれません(笑)。
“声”が迫ってくるのがミュージカルの素晴らしさ、いつまでも舞台に立ちたい
──幅広いジャンルでお仕事をされている秋元さんは、“ミュージカルならでは”の面白さをどういうところに感じていらっしゃいますか?
音楽の力で、表現のエネルギーが2倍にも3倍にも増幅されるのはミュージカルの素晴らしさですよね。私はたくさんのミュージカルを経験しているわけではありませんが、お芝居も歌もやらなくてはいけないので、ミュージカルができる人ってすごいなと思っていて。声に乗せて登場人物の思いを表現するために、何重にも難しいことをされているんです。私はミュージカルを観ていると、お芝居の内容や演技はもちろんですが、俳優さんの声と音楽のすごさに圧倒されます。演者のオーラとエネルギーが音に乗り、観客の前にグイグイ迫ってくるというか。いわゆるお芝居のアプローチとは、また違うものを感じます。私の最近の目標は、歌の技術を磨くことはもちろん、感情や登場人物の思いを歌声に乗せること。自分はまだまだですが、それができたら歌うことをさらに好きになれるなと思い、ボイストレーニングを続けています。
──最後に、秋元さんが俳優として目指す方向性や出てみたい作品、演じたい役柄を教えてください。
自分としては、特に俳優としての方向性は考えていません。「これをやっている自分は好きじゃないな」という選択肢を外していったら今こうなっている、という感じなんです(笑)。だから私がこの先どういう俳優になっていくか自分でもわかりませんし、わからなくてもいいのかなって。でも「秋元、なんか面白いじゃん」と料理してみたくなる“素材”のような俳優になれたらいいなと思っています。
またこれまでは、古典戯曲やシェイクスピアの作品、井上ひさしさんの作品のような演目にはなかなかご縁がありませんでしたが、そういう舞台にトライしたい気持ちが年々大きくなっています。今立ってみたいのは本多劇場。劇場のキャパシティにかかわらず、素敵だなと思える濃い作品に出会えたらうれしいです。実は、AKBの同期の舞台を観ると「私がそこに立ちたい」「そのライトを私が浴びたい」と思うことがあります。単純なうらやましさとはまた違うし、映像作品ではまだあまり感じない気持ちなんですが(笑)。私は客席が暗くなって、物語にスッと引き込まれるあの時間が大好きです。観劇も大切だし好きだけど、やっぱり私は緞帳の後ろのステージに立ちたい。だからこれからも芸を磨いて、いつまでも舞台に立てるように日頃から備えておきたいと思っています。
プロフィール
1988年、千葉県出身。2013年までAKB48のメンバーとして活動した。多数のバラエティ番組や映像作品で活躍し、映画「
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