木村学

2.5次元、その先へ Vol.4 [バックナンバー]

音楽業界から演劇業界へ、 バンダイナムコライブクリエイティブ・木村学プロデューサーの“挑戦 成長 進化”

原作をリスペクト、作品を“深く”愛すクールな情熱家

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日本のマンガ、アニメ、ゲームを原作とした2.5次元ミュージカルが大きなムーブメントとなって早数年。今、2.5次元ミュージカルというジャンルは急速に進化し、洗練され、新たなステージを迎えている。

その舞台裏には、道なき道を切り拓くプロデューサー、原作の魅力を抽出し戯曲に落とし込む脚本家、さまざまな方法を駆使して原作の世界観を舞台上に立ち上げる演出家など、数多くのクリエイターの存在がある。この連載では、一般社団法人 日本2.5次元ミュージカル協会発足以降の2.5次元ミュージカルにスポットを当て、仕掛け人たちのこだわりや普段は知ることのできない素顔を紹介する。

第4回には、舞台「黒子のバスケ」や舞台「文豪ストレイドッグス」などを手がけるバンダイナムコライブクリエイティブの木村学が登場。音楽業界で長年キャリアを積んだからこその“気付き”から、演劇業界に飛び込んで初めて担当した舞台「黒子のバスケ」のエピソードまで、原作をリスペクトし、作品を“深く”愛す、クールな情熱家の素顔に迫る。

取材・/ 興野汐里

音楽業界から演劇業界へ

「舞台『黒子のバスケ』ULTIMATE-BLAZE」より。(c)藤巻忠俊/集英社・舞台「黒子のバスケ」ULTIMATE-BLAZE製作委員会

「舞台『黒子のバスケ』ULTIMATE-BLAZE」より。(c)藤巻忠俊/集英社・舞台「黒子のバスケ」ULTIMATE-BLAZE製作委員会

木村が籍を置くバンダイナムコライブクリエイティブは、バンダイナムコアーツを主幹とした企業で、演劇の企画・制作のみならず、コンサートやイベントの企画・制作・運営、チケット販売、グッズ企画・制作・販売、ライブビューイングをはじめとする配信事業、アプリ開発、音楽レーベルの運営など、幅広い業務を行っている。

木村は15年ほど音楽のプロモーターを務めたのち、およそ6年前にバンダイナムコライブクリエイティブへ転職。現在も演劇と並行して音楽の仕事を多く手がけている。「前職では主に、コンサートなど音楽関係の仕事を担当していました。それまで舞台を観たことがあまりなくて、2.5次元ミュージカルといえば『テニミュ』ぐらいの知識でしたね。音楽業界と演劇業界では慣習や考え方が違うので苦労しましたが、運良く出会えた素晴らしい方々に丁寧に教えていただいたことを、自分なりに解釈して、今では積極的に作品に携わることができています」と自身の経歴を振り返る。

別のジャンルではあるが、同じエンタテインメントの世界で経験を積んできた木村は、演劇に触れてどのような“気付き”を得たのか。そう尋ねると、木村は「とても当たり前のことですが、音楽にしても演劇にしても、エンタメにとってやはり“人”が大事だということ。IP(知的財産)を戦略的にビジネス展開しているバンダイナムコグループに入社したことによって、作品を生み出す原作者や著作者の方、IPを運用するために尽力している関係者の方々と接する機会を得て、彼らをより一層リスペクトするようになりました。そういう方々が作品を生み、育ててくださっているからこそ、2.5次元ミュージカルというジャンルが成立している。今、自分が演劇のプロデュースに携われているのは、“キーマン”であり“仲間”と呼べる、そんな皆様のおかげです」と関係者に敬意を表す。冷静なトーンではあるが、木村の言葉にはこれまでエンタテインメントにかけてきた情熱がにじんでいた。

演劇の面白さを教えてくれたのは……

「舞台『黒子のバスケ』ULTIMATE-BLAZE」より。(c)藤巻忠俊/集英社・舞台「黒子のバスケ」ULTIMATE-BLAZE製作委員会

「舞台『黒子のバスケ』ULTIMATE-BLAZE」より。(c)藤巻忠俊/集英社・舞台「黒子のバスケ」ULTIMATE-BLAZE製作委員会

木村がバンダイナムコライブクリエイティブで初めて担当した演劇作品は、バスケットボールを題材にした藤巻忠俊原作による舞台「黒子のバスケ」。「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載された「黒子のバスケ」は、柿喰う客主宰・中屋敷法仁の演出によって、「舞台『黒子のバスケ』THE ENCOUNTER」のタイトルで2016年に舞台化された。その後、2017年に第2弾「舞台『黒子のバスケ』OVER-DRIVE」、2018年に第3弾「舞台『黒子のバスケ』IGNITE-ZONE」が上演され、2019年の第4弾「舞台『黒子のバスケ』ULTIMATE-BLAZE」でフィナーレを迎えた。

木村がプロデューサーとして大切にしている信条は、大きく分けて2つ。“作品の終わり方”をどうするかを考えること、そしてプロジェクトを成功させるための理想的なクリエーションチームを結成すること。「メディアミックスする際に特に意識しているのは原作破壊をしないこと。原作を生み出し、IPを作り上げてきた方の気持ちや、原作を応援してくださるファンの方々の思いを大切にするために、“広く”ではなく“深く”作品に関わることをモットーにしているので、1作だけ作ってハイ終わり、という形は個人的に好みません。初めに“作品の終わり方”をどうするかを考えて、最良と思われるゴールに至るためには、どのようなシナリオ構築が良いのか、何作上演するのが良いのか、設計図を引きます。ビジネスが絡むので、最初に描いた計画通りに進められるわけではないのですが、できるだけ理想の形に近付けるのがプロデューサーの仕事の1つだと思っています」。

舞台「黒子のバスケ」シリーズがまさにその最たる例で、2016年の第1弾から2019年の最終章まで、4作にわたって原作のストーリーを丁寧に描写し、作品が持つ魅力を余すことなく観客に届けている。この舞台「黒子のバスケ」という一大プロジェクトを実現させるために、木村は、俳優の身体性を魅力的に見せる中屋敷の演出と、演劇制作会社のゴーチ・ブラザーズの力が必要不可欠だと考えた。「中屋敷さんはキャスト・スタッフ、そして作品自体と真摯に向き合ってくれますし、第一にご自身が現場をとても楽しんでくれています。演劇の面白さ──そして演劇化された作品に触れることで、こんなにも感情が動くんだと教えてくれたのは中屋敷さんですね。個人的に、アーティストやクリエイターには純粋な気持ちで創作活動をしてもらいたいと思っているので、クリエイティブの場にはビジネスの話を極力持ち込まないようにしています。そのために、私とは別に演劇の中身を作るプロデューサーを立てるようにしていて、舞台『黒子のバスケ』ではゴーチ・ブラザーズの伊藤(達哉)さんにお願いしました。伊藤さんの呼びかけのもと、クオリティの高い作品を作るために必要不可欠なクリエイターの皆様に集まっていただきました。こういった過程に至るために、演劇プロデューサーとIPホルダーをつなぐのも私の役目だと思っています」。この言葉からわかるように、木村自身はビジネス的な側面を積極的に担い、演劇の内容に関してはクリエーションチームを全面的に信頼して任せている。

また、アニメ版に続き黒子テツヤ役を演じた小野賢章も、舞台「黒子のバスケ」プロジェクトに欠かせない立役者の1人だ。木村は「賢章さんが出演してくれなければ、舞台化のプロジェクト自体どうなっていたかわからなかった。もし『くろステ』が頓挫していたら、僕はいまだに演劇に関わっていなかったかもしれないですね。そういう意味でも、みんなで支え合って完結まで歩んだ『くろステ』は、自分にとってかけがえのない最高の思い出になっています」と舞台「黒子のバスケ」への思い入れの強さを明かした。

誰に何を預けたら、作品が一番魅力的に見えるか

舞台「文豪ストレイドッグス 三社鼎立」より。(撮影:宮川舞子)(c) 舞台「文豪ストレイドッグス 三社鼎立」製作委員会

舞台「文豪ストレイドッグス 三社鼎立」より。(撮影:宮川舞子)(c) 舞台「文豪ストレイドッグス 三社鼎立」製作委員会

バンダイナムコライブクリエイティブでは、このほか、朝霧カフカ(原作)と春河35(漫画)によるマンガ「文豪ストレイドッグス」、および関連作品をもとにした舞台「文豪ストレイドッグス」シリーズを2017年にスタートさせ、2019年にはアニメ「機動戦士ガンダム00」を原作とした舞台「機動戦士ガンダム 00 -破壊による再生-Re:Build」、2020年には竹内良輔(構成)と三好輝(漫画)のマンガ「憂国のモリアーティ」をモチーフにした舞台「憂国のモリアーティ」を制作。中でも舞台「文豪ストレイドッグス」は、長きにわたってファンに愛されている人気シリーズで、今年4月に5作目となる舞台「文豪ストレイドッグス DEAD APPLE」が上演される。舞台「文豪ストレイドッグス」も舞台「黒子のバスケ」と同じように、ゴーチ・ブラザーズが参画し、中屋敷が演出を担当しているが、IPホルダーであるKADOKAWAのプロデューサー陣に明確なビジョンがあったため、それを叶えられる演出家として、中屋敷にオファーすることとなった。一方、舞台「憂国のモリアーティ」の場合は、「誰に何を預けたら、作品が一番魅力的に見えるか」という木村の意向から、“直感的“にAND ENDLESS / DISGoonieの西田大輔にオファーしたのだという。ここにも、木村のクリエイティブチーム作りへのこだわりが表れている。

“挑戦 成長 進化”

舞台「憂国のモリアーティ」より。(c)竹内良輔・三好 輝/集英社 (c)舞台「憂国のモリアーティ」製作委員会

舞台「憂国のモリアーティ」より。(c)竹内良輔・三好 輝/集英社 (c)舞台「憂国のモリアーティ」製作委員会

エンタテインメント業界が新型コロナウイルスの影響により大打撃を受けた2020年、バンダイナムコライブクリエイティブの作品も例外ではなく、2020年に上演予定だった舞台「機動戦士ガンダム 00 -破壊による覚醒-Re:(in)novation」が2022年に延期となった。木村は「作品が最も旬な時期、お客さんが最も求めているタイミングで作品を提供できなかったこと、みんなで作り上げたものが開幕直前で届けられなかったことが一番つらかったですね」と振り返りつつも、「そんな時期だからこそ、バンダイナムコグループの企業ビジョンである“挑戦 成長 進化”を強く意識して、自分自身や周りの仲間たちを鼓舞しながら、アイデアを出し合って新しいことに挑戦しました。世界的に厳しい状況は今も続いていますが、先陣を切って道を拓いてくれている松田(誠)さん、2.5次元ミュージカルの認知度を上げるために活動してくださっている日本2.5次元ミュージカル協会の皆さん、さまざまなことにチャレンジさせてくれるバンダイナムコグループに感謝しています」と晴れやかな表情で語る。

舞台「機動戦士ガンダム00 -破壊による再生-Re:Build」より。(c)創通・サンライズ

舞台「機動戦士ガンダム00 -破壊による再生-Re:Build」より。(c)創通・サンライズ

木村への取材で強く感じたのが、協業するパートナーや自社への信頼、そしてIPへのリスペクトだ。生み出されたIPを大切にしつつ、どのように進化・成長させていくのか。木村はその命題と日々向き合っている。「10年後か20年後か、はたまた何十年後になるかわかりませんが……日本で生み出されたエンタテインメントが、技術の進化によって異なる言語や文化を乗り越えて、世界中に届く日が来ると信じています。世界のエンタテインメント市場と向き合っているバンダイナムコグループは、それを実現させられる企業だと思うので、その一員として今後も業界に貢献していけたらと思います」と決意を明かした。

プロフィール

株式会社バンダイナムコライブクリエイティブ ライブ制作事業部所属。音楽業界でプロモーターを務めたのち、バンダイナムコライブクリエイティブに転職。舞台「黒子のバスケ」や舞台「文豪ストレイドッグス」などのプロデュースを手がけている。

関連公演・イベント(日程順)

舞台「文豪ストレイドッグス DEAD APPLE」

2021年4月16日(金)~18日(日)
大阪府 COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール

2021年4月23日(金)~5月5日(水・祝)
東京都 日本青年館ホール

※2021年4月27日追記:舞台「文豪ストレイドッグス DEAD APPLE」の4月28日以降の公演は新型コロナウイルスの影響で開催自粛となりました。5月5日には無観客公演の模様がライブ配信されます。

「舞台『憂国のモリアーティ』case 2」

2021年7月
東京都 新国立劇場 中劇場

舞台「機動戦士ガンダム 00 -破壊による覚醒-Re:(in)novation」

2022年

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hiroko_Wadatani @wdtnhrk

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