ミュージカルの話をしよう 第2回 [バックナンバー]
中川晃教、“音楽がありミュージカルがある”それが僕らしさ(後編)
舞台はお客様と“One”になって作るもの
2020年10月13日 12:00 11
生きるための闘いから、1人の人物の生涯、燃えるような恋、時を止めてしまうほどの喪失、日常の風景まで、さまざまなストーリーをドラマチックな楽曲が押し上げ、観る者の心を劇世界へと運んでくれるミュージカル。その尽きない魅力を、作り手となるアーティストやクリエイターたちはどんなところに感じているのだろうか。
このコラムでは、毎回1人のアーティストにフィーチャーし、ミュージカルとの出会いやこれまでの転機のエピソードから、なぜミュージカルに惹かれ、関わり続けているのかを聞き、その奥深さをひもといていく。
第2弾は、
取材・
肌で感じた、ミュージカル人気の高まり
──中川さんがシンガーソングライターとして、またミュージカルの新星として活動を始めた2000年代前半、ミュージカル界にも変化がありました。音楽やお笑いなど、さまざまなジャンルの方がミュージカルに出演するようになったり、2.5次元ミュージカルが注目を集めるようになったりと、ミュージカル通の人以外がミュージカルを身近に感じるようになり、若い観客層も増えました。中川さんはそのようなミュージカル人気の高まりを、舞台に立ちながら感じることはありましたか?
ありましたね。客層がどんどん変わっていったと思います。でもそれはミュージカルだけに限らないようにも感じていて。先日、「ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』イン コンサート」で共演した、尾上右近くんが出演している歌舞伎の公演を観に行かせていただいたんですが、お隣に座った高齢の女性の方が「お客さんがみんな若くて、私のような人が来るのはちょっと恥ずかしいわ」とおっしゃっていて。確かに見回してみると若い人が多かったんですね。エンタテインメントの世界の間口がどんどん広くなってきたというか、変化してきているのかなと思います。
──ミュージカルコンサートのように、音楽としてミュージカルを楽しめる機会が増えていることも、楽しみ方を広げているように感じます。ちなみにミュージカルコンサートにご出演されるときは“ミュージシャン・中川晃教”と“ミュージカル俳優・中川晃教”、どちらの中川さんなのでしょうか?
あははは(笑)。近年、演出がしっかり付けられた形でお届けするスタイルが、ミュージカルコンサートの1つの主流になろうとしていると思うんですが、そのときは俳優側だと思います。他方で、何人かの俳優さんや歌手の方でミュージカルナンバーを歌い継ぐスタイルのコンサートのときは、あまり役に縛られず歌うのでミュージシャン側じゃないかと感じますね。ちなみにコロナ以前は、フルオーケストラで魅せるミュージカルコンサートがちょっと流行ったんですけど、オーケストラで歌うときはマイクの使い方や表現の仕方がミュージカルとはだいぶ異なるので、「あのミュージカルの曲がフルオーケストラだとこんなふうに聴こえるんだ!」と楽しんでいただけたのではないかと思います。
フランキー・ヴァリを演じ続けるために
──今年の「ジャージー・ボーイズ」の公演はコロナの影響で中止となり、急きょコンサート形式での実施となりました。「ジャージー・ボーイズ」は第24回読売演劇大賞で最優秀作品賞を受賞し、演出の藤田俊太郎さんが優秀演出家賞、中川さんご自身は最優秀男優賞に輝いた近年のヒット作です。その人気の鍵は、中川さん演じるフランキー・ヴァリの“天使の歌声”にあることは間違いありませんが、過去のインタビューを拝読すると声作りが役作りへの第一歩だったそうですね。
そうなんです。これ、半分笑い話なんですけど……東宝のプロデューサーの方から「『ジャージー・ボーイズ』を中川で」とオファーをいただいて、そう思っていただけたことに全力で応えたいと思い、「やりたいです! やります!」とお返事したら、次に東宝さんから「でもThe Four Seasonsメンバーのボブ・ゴーディオさん、このミュージカルのプロデューサーからOKが出ないと、フランキー・ヴァリ役はできないんですよ」と。
──え! そこからのスタートだったんですね。
ええ(笑)。そこで真っ青になってしまって、「どうしよう、やりますって言ったけど、課題をクリアしないといけないんだ。これは落ちられない!」と必死にレッスンしました。で、最初に出された課題曲3曲をクリアしたら、次の課題が6曲に増えて(笑)。自分の中では「もうこれは終わったな」と思ったんですが、結局OKをいただけて。だから「ジャージー・ボーイズ」に出演するのはそんなに簡単な話ではなかったという……。
──それは中川さんでないと超えられない壁だったと思います。しかも日本版の「ジャージー・ボーイズ」は基本的にWキャスト制ですが、中川さんだけはシングルキャスト。中川さんなくしてはならない作品だなと改めて感じます。
そう言っていただけるとがんばれます(笑)。この間、森光子さんの舞台「放浪記」の特別番組を観たんですけど、1つの作品をあれだけ長く続けるって、やっぱりすごいなと思って。ある作品を長く愛していただくために、例えば僕の場合なら「ジャージー・ボーイズ」で学んだフランキー・ヴァリのボーカルを、今度は自分の糧にして、自分のフランキー・ヴァリを作っていかなければいけない。それが再演を重ねるうえでの目標なんです。だから「ジャージー・ボーイズ」は何があっても一生懸命やり続けていきたい……と思う一方で、もしかしてこれからボブ・ゴーディオが認める日本のフランキー・ヴァリの声がさらに現れるかもしれないな、ということも頭の隅で考えてはいます。
──八十代の中川さんが演じるフランキー・ヴァリもぜひ観てみたいです。
あははは! 何せご本人が87歳で来日されていましたからね。37歳の僕が「あの声は出ません」とは、まだまだ言えないです。
世界を見据えつつ、身近な出会いを大切に
──4月から5月にかけて上演予定だったミュージカル「チェーザレ 破壊の創造者」の動画コメントで、中川さんは「2020年は挑戦の年」とお話しされていました。年末まであと数カ月ありますが、挑戦はまだ続きますか?
はい。これまで自分は、歌やお芝居を通してお客様に感動を届けたいと思ってきたけれど、コロナによって「歌やお芝居にどういう力があるんだろう」と改めて考えさせられました。でも時間が経つにつれて、「僕にとって歌うことは生きることなんだ。歌に出会えてよかった。この仕事に巡り合えてよかった。どんな大変な時でも歌い続けていきたい」という気持ちが強くなったんです。ちょうどその頃、まだ世界中の劇場でどこも劇場をオープンするというのが難しいと言われていた4月に、明治座で「チェーザレ」を上演することになっていたのですが……結局、公演は延期になってしまったんです。だけど、日本クオリティの老舗劇場である明治座や帝国劇場といった劇場が立ち上がろうとしている様子を見て、「やっぱり僕たちは劇場の皆さんと共に作品を作ってきたんだな」と感じました。また明治座さんから「公演の代わりに、明治座再稼働の最初のコンサートを『チェーザレ』ナンバーと中川さんに託したい」と言われたときに「ああ、これがもしかすると僕にとって歌を通じて生きていくってことなのかな」と感じて。コロナという見えないウイルスと闘いながら、クローズしていた劇場をお客様と一緒に開けていくことは、新たなエンタテインメントの時代の幕開けと言えますし、それを体現していくことが僕のこれからの仕事だと思っています。
──ちなみに中川さんは、ブロードウェイやウエストエンドなど、海外の舞台についてはどのように考えていらっしゃいますか?
9月から10月にかけて全国5カ所で「中川晃教 コンサート2020 Message from the Music」のツアーをやらせていただくんですが(編集注:取材は9月中旬に行われた)、今回は“癒やし”をテーマに、ツアーに向けて書いた新曲2曲と僕のオリジナル曲、そしてカバー曲、ミュージカル曲をお送りしようと思っているんですね。コロナによるストレスは計り知れないので、お客様には劇場やホールのような広い空間で音楽という酸素を浴びてもらいたいし、「本当に来てよかった」と思っていただけるような時間にしたいと思っていて。そこで今回選んだミュージカルナンバーが、ミュージカル「コーラスライン」の「One」なんです。この曲、本当に素晴らしくて“歌詞は彼女こそNo.1”と歌っていますが、僕は、“1人ひとり、生きている。みんなそれぞれに素敵、輝いているよ”ということをイメージして歌っています。また、大好きだった青井陽治先生からお聞きしたのですが、日本での上演権を得るために、青井さんは浅利慶太さんと一緒に「コーラスライン」の権利を所持する事務所に出向いて、直談判したそうです。そうやって情熱を持って日本にミュージカルを届けようと骨を折ってきた人がいるのはすごいことですし、舞台空間ってまさにお客様と“One”になることで作り上げるもの。だから「コーラスライン」のナンバーをいつか歌いたいと思っていたんですけど、「それは今じゃない?」と感じて。……というのが、僕の今の海外ミュージカルに対するイメージ。若い頃なら「ブロードウェイやウエストエンドの舞台に立ちたいです!」とすぐさま言ったかもしれないけど、今は世界を見据えつつも、作品を通した交流が深い韓国や自分に身近な作品、出会いを大切にしながら、いつか自分がその場所へ行けるように、コツコツとやっていきたいなと。その先にもしブロードウェイやウエストエンドがあるなら、いつか立ちたいなと思っています。まずは英語……がんばらないと(笑)。
プロフィール
1982年、宮城県出身。2001年に自身が作詞・作曲を手がけた「I Will Get Your Kiss」でデビュー。同曲で第34回日本有線大賞新人賞を受賞する。2002年、ミュージカル「モーツァルト!」で井上芳雄とW主演し、第57回文化庁芸術祭賞演劇部門新人賞、第10回読売演劇大賞優秀男優賞、杉村春子賞を受賞する。ミュージシャンとして国内外で活動を続ける一方、俳優として舞台やテレビドラマでも活躍。2018年にはミュージカル「ジャージー・ボーイズ」で主演を務め、同作を第24回読売演劇大賞最優秀作品賞に導いたほか、自身も最優秀男優賞、菊田一夫演劇賞を受賞した。11月にはミュージカル「ビューティフル」に出演。ナビゲーターを務める「中川晃教 Live Music Studio」が日テレプラス ドラマ・アニメ・音楽ライブでスタート。第1回の再放送が10月23日にオンエアされる。
バックナンバー
関連記事
中川晃教のほかの記事
タグ
紫 @purpleeo
全てが名言やな↓
中川晃教、“音楽がありミュージカルがある”それが僕らしさ(後編) | ミュージカルの話をしよう 第4回 https://t.co/2v6bHV0eKc