吉本興業創業100周年事業として制作されたドキュメンタリー「ワレワレハワラワレタイ ウケたら、うれしい。それだけや。」。木村祐一が、笑福亭仁鶴、西川きよし、桂文枝、明石家さんま、ダウンタウンら吉本芸人106組にインタビューし、普段お茶の間に流れることのない本音を聞き出した。それから10年、若手から中堅を中心とした新たな芸人にスポットを当てる「ワレワレハワラワレタイ NEXT」の独占配信がAmazon Musicにてスタート。今度はポッドキャストとして、いつでも、どこでも、彼らのディープな会話を耳で楽しむことができる。
多数の芸人たちが心の内を明かした一方で、その言葉に耳を傾けてきた木村自身は「ワレワレハワラワレタイ」を通じて何を感じたのか。企画を立ち上げた経緯から、受け手に伝えたいこと、インタビュアーとしての心持ちを聞いた。
取材 / 遠藤敏文文 / 狩野有理インタビュー撮影 / 森好弘
「ワレワレハワラワレタイ NEXT」
Amazon Musicにて毎週火曜20:00に最新話を独占配信
5年の歳月をかけて収録された映像ドキュメンタリー「ワレワレハワラワレタイ ウケたら、うれしい。それだけや。」が装い新たに音声コンテンツとして始動。さまざまなキャリアを積んだ芸人たちの素顔に木村祐一が迫る。最後に聞くのは「生まれ変わっても芸人をやるか?」、そして「同じ相方を選ぶか?」。今まさに第一線で活躍する精鋭たちの笑いに対する思いが語られる。
出演者
木村祐一
第1回:かまいたち
第2回:ニューヨーク
第3回:ミキ
第4回:相席スタート
全24組出演予定。
ふと先輩にかけられた一言が真髄だったりする
──「ワレワレハワラワレタイ」は芸人の生きざまを聞き出すという企画です。最初は2013年に吉本興業100周年事業としてスタートしたわけですが、やってみたいと思ったきっかけはあるのでしょうか?
僕らが楽屋でごはんを食べているところやロビーでしゃべっているところって、外には出ないじゃないですか。どうでもいい話のようで共感できる部分も多々あって、世間の人が知る機会があってもいいんじゃないかなというようなことをなんとなく考えていたんですよ。生み出すときの苦しみとか、まあ当然楽しみも含めて、芸人さんの悲喜こもごもを語っていただけたらなとずっと思っていたんです。
──芸人さんが本音や舞台裏をさらけ出すのは難しいことなのかなと思うのですが、インタビュアーが木村さんだったからこそ聞けるお話も多かったのではないでしょうか。
僕は、普通のインタビュー記事にはならないようなことを聞きたいんですよ。記者のペンが走らないことを聞きたい(笑)。芸人になったきっかけやルーツを改まって聞くわけでもなく、今の満足度とか、腹が立ったこととか。そんな質問ばかりなので、カメラは回っているんですけど、素直になって話していただけたのかなと思いますね。
──「記事にならないようなこと」が実は面白い、と。
芸人にとっては一番心に残っていることでも、文字になって一般の人が読むと「何それ?」みたいな感じだと思う。でも、我々にとってはふと先輩にかけられた一言が真髄だったりするわけです。そのへんを聞きたかったし、知ってもらいたかった。
──100組を超えるインタビューを通じて木村さんが思い至ったことを教えてください。
「ワレワレハワラワレタイ」というタイトルの通りなんですけど、「笑わせる」と「笑われる」と、どっちでもええやん!みたいな心境になりましたね。自己採点が高い人もいれば低い人もいて、そういう個人の差も面白かった。当然、ほかの人をうらやむことも憧れもあるにはあるんでしょうけど、折り合いをつけるじゃないけど、みなさん満足している部分と不満な部分を抱えながらやっていらっしゃるんだなと。
──木村さんにとっては何が喜びでしたか?
もちろんいろんな人が観るものでしたけど、「僕だけがこの人らとこんな話ができた」という喜びはありました。106組目は僕自身がインタビューされることになっていて、「生まれ変わっても芸人をやりますか?」という最後の質問に、自分はどう答えるだろうと模索しながらほかの人にインタビューをしていたんです。「あ、この人は意外と『やらない』なんや」とか思いながら。で、自分の番が回ってきてそれを聞かれたときに、「これ(=「ワレワレハワラワレタイ」)ができるならやります」って言うてましたね。
「今日はおもろいこと言うのはナシ」から始める
──木村さんのインタビュー術をぜひ教えてください。相手のことを調べるなど、下準備はしますか?
ディレクションするわけじゃないから、そんなに調べなくてもいいのかなと思っていますね。プロの記者の方と違って「この人をこう見せたい」というのはないので。僕、インタビューの冒頭で言うんですよ。「今日はおもろいこと言うのはナシ」「活字になることを意識せんでええねんで」と。そのリアクションもいろいろあっておもろいですよ。「ほな何しゃべるんですか?」みたいな。
──我々のするインタビューとはやり方が異なりますね。
記者の人に「なるほど、こういうことですね」ってまとめられるの、あれ嫌なんですよ(笑)。「いや、それは言ってないです」と言いたくなる。倒置したり、文法が少しでも違うとニュアンスも変わってきますやん。そういう意味では、今回は音声やからそのまま本人の言葉で伝わりますよね。
──今回はポッドキャストでの配信になります。映像と音声という部分でも違ってくることはありますか?
僕もそうですけど、しゃべる側は音声だけのほうが「伝えよう」とディテールとか背景をがんばってしゃべってると思います。表情がないだけに、丁寧にしゃべる。
ブレイクした若手の今の気持ちを知りたい
──前回はベテランの方々も多数出演されました。「NEXT」ではどんな人選を考えていますか?
当時若手すぎて登場できなかった人たち。業界で言う“ブレイク”をして、生活が一変した芸人の精神状態とか、どういう気持ちでやっているのか、というのを聞きたい。この5年で心境が変わっている師匠もいるだろうし、もう一度やる人がおってもおもろいと思いますけど。
──今の時点ではかまいたち、ニューヨーク、ミキ、相席スタートのインタビューが終了しています。
かまいたちは前回インタビューされなかったことに対してすごく思うことがあったみたいですね(笑)。ニューヨークは満足度が高かったなあ。相席スタートは、将来それぞれでやっていこうと思っているということにびっくりしました。ミキは意外と亜生のほうがアホ(笑)。ノリノリで、バカになって楽しんでくれてました。
──30代だった頃のご自身と比べて、今の30代の芸人と異なると感じる部分はありますか?
かまいたちとニューヨークだけでも全然違うし、コンビ揃って同じ考えでもないですから、比べるのは難しいですけど。僕らが20代、30代の頃は自分の未来がものすごい楽しみで、期待してたかもしれませんね。暇やったから。今の子はなんやかんや忙しいから、“職業”という要素が強いのかなあ。僕は“芸人”は職業やとは思っていないんですよ。なんとなくの概念やと思ってて。職業を言うなら、テレビに出てたらテレビタレント、舞台に立ってたら漫才師とか演芸の人間なんですけど、売れてようが売れてなかろうが、舞台を目指してたら“芸人”やと思っているんです。でも今は表に出て、人前に立って“芸人”になるみたいな感じなんかな。明石家さんまみたいに、「24時間365日明石家さんま」ではない。僕なんかは「プライベート中すみません」って声をかけられても「プライベートなんてないんです」って言いたいですし、ずっと営業中のつもりではあるんですけど。
──反対に、共通する部分もありますか?
タイトル通り、「1人でも笑ろてたらうれしい」と思っていることですかね。
──若い芸人さんに期待することは?
もうやっぱりがむしゃらに、ハングリーな奴がいいかなあ。NSC(吉本総合芸能学院)の講師を務めている身では声を大にしては言えないですけど、「誰が笑うねん!」ってことをやってるほうが好きですね。NSCでも「何を言うとんねん、このおっさん!」くらいのことを言える奴。飲みに行ったときに「明日ライブがあるんで帰ります」という芸人より、朝までいて「お前明日なんやねん?」「ライブです」「大丈夫か!?」みたいな芸人のライブを観に行きたいですもん(笑)。
- 木村祐一(キムラユウイチ)
- 1986年にコンビ・オールディーズでデビューし、1990年からピン芸人に。「ダウンタウンのごっつええ感じ」(フジテレビ)や「ダウンタウンDX」(読売テレビ)などには構成作家として携わった。2009年、監督を務めた映画「ニセ札」が公開。「THE MANZAI」「R-1ぐらんぷり」「ABCお笑いグランプリ」といった大会では審査員を務め、芸人養成所NSCの講師や俳優としても活動する。