ナタリー PowerPush - みうらじゅん&いとうせいこう
見仏記コンビが語る「ザ・スライドショー」
FAXが恋文だった
──素朴な疑問で恐縮ですが、スライドショーに台本は存在するのでしょうか?
みうら 一切ないですね。その場で台本を書いているようなものです。いとうさんが何を言ってくるかわからないから。
いとう 楽屋も別々にしてありますしね。
──決まっているのはスライドを出す順番だけ、と。
みうら 順番だけですね。公演ごとに、順列の組み換えによって化学変化が起こるんですよ。「A+Bが、今回はZになってて、全然違うじゃないか!」っていうのもおかしいと思ってね。
いとう でも今回の「見仏記SP」は大変だったんじゃないかな。4公演あって、半数以上のスライドが入れ替わってた。
みうら 大阪でも面白いネタはあったんだけどね。DVDにも収録してない。最初からDVDが出ることはわかってるんだけど。そこの計算ミスもまたとんまなところではあるね(笑)。
いとう 「消えもの」だからね。
みうら ま、いとうさんの記憶に残りゃいいです(笑)。
──ここまでお話を伺って、つくづくお2人はベストパートナーだと思うのですが、これまでロックンロール・スライダーズに解散の危機などはなかったのですか?
みうら 解散となると、それはもう「死」のことだからね(笑)。さすがに50代半ばともなると。
いとう 事実上の解散(笑)。普通バンドで大変なのは「年に1枚アルバムを作る」とか「ライブをいくつこなさなきゃ」なんだけど、僕らにはないから。調子悪いときは作らなくていい。
──会いたいときに会う、と。
いとう 昔はFAXでやりとりしてたじゃない? みうらさんから「けっこう溜まってきたし、いとうさんともゆっくり話したいから、スライドショーでもやらない?」という誘いが来るんです。ずっとみうらさんのペースでやってるんですよ。
みうら そのFAXは全部残してあるから、いつかスライドショーでも出したいね(笑)。泣くよ、たぶん。小説みたいになってる。手書きだから気持ちが出てるし。
いとう 恋文だよね(笑)。
「スライドはきっかけに過ぎない」論が出始めた
──お2人の活動が「お笑い」というジャンルで括られることもあると思います。お笑いとの距離感の取り方や、ジャンルに関するスタンスについてお考えがあれば教えてください。
みうら たしかに、このDVDはビデオ屋で「お笑い」の棚に置いてあったりもするでしょ。でもなんか違うんだよね、テイストが。
いとう 笑いに対する意識はあるんですよ。若い子にはできないような。ただ、現象として見て「お笑い」かっていうと、そうではないかな。人生の苦味みたいなものが楽しみ方としてあるんだよね。俺にさえ理解できないネタとか、そういうのが一番記憶に残ってる。正直「パペポTV」をやりたいんだもんね、この2人で。
みうら ジャストミートじゃないところの笑い。最近は即笑えないとダメ、っていうところもあるけど、何年かしてジワジワおもしろいネタもあるよね。「7年殺し」みたいな(笑)。
いとう 「スライドはきっかけに過ぎない」論が出始めて、スライドショーでもフリートークに重点を置くようになった。
みうら 「話の作り合い」をしてるんですね。スライドで「即身仏」ってテーマが出たら、そこから1編のショートショートを書いてるような感じ。
いとう それはスリルがあるし、お客さんもその場の新鮮さや「今、立ち会えてる」という楽しさで笑ってる。「よくできたネタで笑わせてる」ということとは真逆のことをやってるんですよね。
我々の夢は「安齋肇七変化」
──本作には、いとうさんが総合プロデュースを務める「したまちコメディ映画祭」で行われた「スライドショー11」のダイジェストも収録されています。
みうら 映画の話しかしないスライドショーを、シークレットでやったんだよね。溜めてあったネタがあったので、我慢しきれず(笑)。映像は、いとうさんの知り合いの人が「一応撮っておこう」って残してくれたものです。
いとう みうらさんが来ることはわかってたけど、ここにスライドショーの数字を打つことは、直前まで誰も知らなかった。みうらさんが「したコメ」にサービスしてくれて「スライドショー」の名前使っていいよ、って言ってくれた。
──では最後に「スライドショー」の今後の展開についてお聞かせください。
みうら これからのスライドは「引きの時代」だと思うんですよね(笑)。ネタを撮るというのは「寄り」なんで、ずっと寄りの人生やってきたんだけど、次回からは引くよ、俺は(笑)。
いとう でも引くとさ、客の目線がバラけて笑いが生まれにくいんですよね。
みうら 客もなかなかネタが見つけらんないと思う(笑)。
いとう 「どこにネタがあるんだ!」って。今度は俺の目玉が飛び出るかも知れない(笑)。
──ちなみに私事ですが、以前みうらさんと安齋肇さんのスライドショーを拝見したことがあります。
みうら 安齋さんとの場合は俺がツッコミで。「どじょうすくい」とかやってもらって、そこにツッコむ(笑)。我々の間では、今度やるスライドショーのオープニングを全部安齋さんが演じる、という案も出てますよね。
いとう 「安齋肇七変化」ね(笑)。ジェームス・ボンドみたいに振り向いて「バキューン!」みたいな。
みうら 安齋さんの早変わりの舞台、観たいなー。自分が客だったら観に行くね。なんならスライドの数を半分削って、安齋さんメインでもいい(笑)。
いとう ひょっとしたらスピンオフで、七変化だけの舞台になるかも知れないね。なんとか実現したい。我々の夢だよね。
みうら ま、安齋さんには全然伝えてないし、これを読んだ人も安齋さんには教えないでほしいんだけど(笑)。
左 / みうらじゅん(1958年2月1日生まれ、京都府出身)
右 / いとうせいこう(1961年3月19日生まれ、東京都出身)
1992年に見仏記コンビを結成し、雑誌連載を開始。1996年に満を持して「ロックンロール・スライダーズ」を名乗り、スライドを使ったトークイベント「ザ・スライドショー」をスタートさせた。ザ・スライドショーは、これまでに原宿ラフォーレ、渋谷公会堂、日本武道館、NHK大阪ホール、仙台市民会館など全国で行われている。なお、みうらは、4月18日(木)より5月14日(火)まで、大阪・梅田ロフト 7Fロフト・フォーラムにて「国宝 みうらじゅん いやげ物展」を開催する。