ナタリー PowerPush - みうらじゅん&いとうせいこう
見仏記コンビが語る「ザ・スライドショー」
「俺はいとうさんの奴隷じゃない!」
──ネタは毎回どれくらいの時間をかけて探すのでしょうか?
みうら それも「いとうさんにはこのネタ受けるかもな」って具合を読むだけなんだよね。「瑠璃仙(るりせん)」っていう弁当屋さんのチラシだけを読んでいくネタがあったんだけど、写真じゃなくて文字だけのネタだから、10年くらいずっと楽屋まで持っていったんだけど出してなかったの。
いとう “みうらオーディション”で落ち続けてた。
みうら でも、いざ読んでみたら、20年間でたぶん一番面白かった(笑)。
いとう 俺自身、面白くて倒れたからね。
みうら ネタには出す時期があるんです。いっとき写真を撮ってるときに「横から見てるとみうらさんの眼球が前に飛び出してる」って言われたことがあって(笑)。
いとう 2003年とか2004年とか、このへんかな。
みうら ネタノイローゼになってた(笑)。一番目玉が飛び出てたのは、2001年の武道館公演とか、2002年のハワイ公演とか。必死だったよね。自暴自棄になって「俺はいとうさんの奴隷じゃないんだよ!」ってさ(笑)。
いとう とうとう愚痴が出始めた(笑)。
みうら 喜ばれることがなくなってきたんだよね。この悩みって、誰彼なしに相談できるわけじゃない。こっちが真剣に「最近、“ニ穴オヤジ”に似たようなネタがないんだよ!」って飲み屋で話しても理解されないでしょ(笑)。毎年2人で必ず何かはやってたんだけど、2004年はスライドショーやってなくて、2人で人間ドック行ってた(笑)。それと2007年の「ジャパン・ツアー」もまた辛かったんだよ。
いとう 僕が「ツアーの5本、ネタがかぶらないようにしてくれ」って要求を出して。そしたら、みうらさんがありったけのダンボールから、わけのわかんないネタを出してきたんだ。最後のほうには、とうとう「虹」と「花」の写真を出してきた(笑)。
みうら 「綺麗だね」っていうコメントの(笑)。
いとう 最終的にそういうものが来たときが俺達のマックスだろう、とは前から話し合ってたんだけど、このタイミングでか! っていう。でもお客は笑ってたよ。このとき、2人とも「抜けた」んですよ、スライドショー的には。
見仏に行って、手を合わせるようになった
──お2人が仲良くなる最大のきっかけとなった仏像関連の話をスライドショーでネタにするのは、今回の2012年の公演が初めて?
みうら 93年の「大日本仏像連合」というのが、今回とほぼ同じようなテンションのネタなんですよ。最初は仏像のネタなんだけど、だんだん外れていって「関係ねーじゃねーか!」ってツッコまれるようなネタ。だから20年ぶりなんですよ。
──あらためて仏像をテーマにするにあたって何かきっかけがあったんですか?
みうら 仏像ネタをやろうとは考えてなかったもんね。それがこの20年間スライドショーやってて「虹でも花でもオッケーだ」ってことになったから。
いとう 僕にとってはずいぶん冒険だな、と思ったよ。みうらさんが「次は見仏記スペシャルで行く」って言い出したときに「それは客ついてくるかなー?」と。でもフタを開けたら、みうらさんが“上手な暴走”をした。
みうら 途中で仏像のスライドから住職のスライドにすり替わったりしたからね(笑)。
──そんなふうに、仏像や住職さんをネタにして笑いを取ることについては、どのような考えがあるのでしょうか?
みうら 20年前にやったのはかなりパンクだったね。今よりもイジってはいけないものだった。今回はあの時代よりも、もっと2人で仏像が好きになってる。ラブがあってやってるから、パンクのほうに転がることはなかった気がする。
いとう ここ数年は、見仏に行って、手を合わせるようになった(笑)。手を合わせてるけど言ってることがちょっと失礼なのが2012年ですよ。仏教のことはわかってほしいとは思ってる。説法に近い。
みうら 「本地垂迹説」とか「神仏習合」とか平気で言ってるけど、いちいち説明しないからね。言葉のおかしい響きだけを取って笑いに変えたりしてるだけで。
──お客さんも、お2人のこれまでの活動が下地にあるから、以前より見仏記ネタを楽しめるようになったのかも知れませんね。
みうら 仏像だけじゃなく、より自分達の写真を入れたりもしてます。根底にはボーイズラブがあるからさ(笑)。これだけ長いこと一緒に仏像を見ているって、やっぱ仲よすぎでしょ(笑)。
いとう 仙台では「これを出したらおしまいだろ」っていう問題写真も出したよね。みうらさん宅の小さなサウナに2人で入っている写真とか。汗だくでギューってくっついてる。嬉しそうな顔してるんだよね。
みうら あれはシャレにならないもんね。DVDには当然入れらんない。さすがにそこまで行くと、客も引いてたよね(笑)。
いとうさんが納得すればお客さんも納得する
──会場となった渋谷公会堂は「ロックンロール・スライダーズの聖地」と言われています。なにか特別な思いはありますか?
みうら 渋公ってお客さんがすごく身近な感じがしてやりやすいんですよ。いろいろデカい会場を試したんですけど。
いとう 何よりスライドがすごく見やすい。昔は「布」に打ってたからね。
みうら スライドショーの1回目とか、やはり写りが悪いんですよ。「布」だから(笑)。
いとう スタッフが笑っちゃうと、布に映る映像も揺れるんだ(笑)。
みうら そんな学園祭みたいな出だしだった。野音(日比谷野外大音楽堂)でやろうと言ってたこともあったけど「雨降ったらどうすんだ」って。
いとう 女性を一切入れない「闇のスライドショー」ってのも言ってたね。ブラックなネタしか出ないっていう、愛されようとしないのも。
──客層は気にされているのですか?
みうら 僕はいとうさんにツッコんでもらうために必死なので、もうそれでいいんだよね(笑)。
いとう 俺が客なんだろうね。開場すると、俺は必ず袖から見て「ああこれくらいの年代なんだ」って客筋を確認するけど、みうらさんは興味なさそうなんだよね(笑)。
みうら 気持ちが分散する気がするんですよ。一心に行かないと。
いとう DVDにも、身振りでみうらさんがなにか説明しているシーンがありますけど、俺のほうを向いて、客のほうをぜんぜん見てない(笑)。
みうら いとうさんに説明して納得すれば全員が納得すると思い込んでるよね(笑)。
──ご自身で公演を後から見返すことはありますか?
みうら 公演をやったその日に、ビデオで撮ったやつを、ホテルでいとうさんと2人っきりで見たりしたことあったね(笑)。「ここはしまった!」とかね。
──そういう反省会みたいなこともされるんですね。
いとう 好きだったね。盛んにやってたよね。
みうら 2人でスイートルームの風呂まで入ってね(笑)。
左 / みうらじゅん(1958年2月1日生まれ、京都府出身)
右 / いとうせいこう(1961年3月19日生まれ、東京都出身)
1992年に見仏記コンビを結成し、雑誌連載を開始。1996年に満を持して「ロックンロール・スライダーズ」を名乗り、スライドを使ったトークイベント「ザ・スライドショー」をスタートさせた。ザ・スライドショーは、これまでに原宿ラフォーレ、渋谷公会堂、日本武道館、NHK大阪ホール、仙台市民会館など全国で行われている。なお、みうらは、4月18日(木)より5月14日(火)まで、大阪・梅田ロフト 7Fロフト・フォーラムにて「国宝 みうらじゅん いやげ物展」を開催する。