ナタリー PowerPush - 青天の霹靂
劇団ひとり、初監督映画に込めた思い
自らの書き下ろし小説を原作にした劇団ひとりの映画監督デビュー作「青天の霹靂」が5月24日(土)にいよいよ全国公開される。主演に大泉洋、ヒロインに柴咲コウという豪華キャストを迎え、Mr.Childrenが主題歌「放たれる」を書き下ろした本作。劇団ひとりは原作・監督のほか、脚本、出演も務めている。
今回お笑いナタリーでは、劇団ひとり本人にインタビューを敢行。原作者・脚本家・俳優・監督というそれぞれの立場から、作品に込めた思いを語ってもらった。
取材・文 / 粟村香織、遠藤敏文 撮影 / 河村正和
原作を書いたきっかけ
この原作を書いたのは、四谷にあるマジックバーで知り合いと飲んだのがきっかけ。お客さんが3、4人しかいなくて、そこのショータイムでペーパーローズ(紙でできたバラ)を宙に浮かせるというマジックがあったんです。最後燃えて本物のバラに変わるんですけど、そのとき流れてた曲がエルヴィス・コステロの「She」だったかな。すっごいカッコよくて。僕も芸人とかやってるから、この華やかなショーと3人くらいの客っていう状況に悲哀も感じたんです。そこになんか胸を打たれて、これをいつか映画にしたいと思って原作を書きました。
そのときは、川沿いの土手で去っていく女性の後ろ姿にペーパーローズを浮かせるというシーンを思いついて、これは絶対いいシーンになるぞって思ったんですけど、いざ原作書いてみると、何回書いてもうまく書けない。書けるけど、美しくならないんですよ。映画では表現できるかなと思ったけど、結局そのシーンは諦めました。
タイムスリップものは絶対やりたかった
登場人物を少なくしたくて、話に関係のないキャラクターはなるべく出さないようにしました。あと、タイムスリップものは絶対やりたかったですね。というのも、小説書くって大変な作業だから、やっぱり腰が重たいわけですよ(笑)。それでも自分が前のめりになって書ける話がいいなと思ったときに、タイムスリップって1回書いてみたいって思いが前からあったので。
終わりのほうは相当悩みました。これで終わっていいのかなっていう感じ。実はしっくりきてないまま書いちゃってる部分も多々あって。もうとにかく書き上げたいっていう意識のほうが強かったです。もうね、どっから書き直せばいいんだよって感じになっちゃうんですよね。映画でできることを書こうという意識があったから、何か現象を起こさないといけなくて、それが難しかったですね。
ほかの方から映画化をオファーされても断ったと思います。自分で撮影したくて書いたものだったので。ビートたけしさんが撮りたいって言ったらですか? すぐOKします。
創作料理よりハンバーグランチ
脚本は書籍を出版して3カ月後には書きはじめてました。でもどうしてもうまくいかなくて、シナリオライターの橋部敦子さんに入ってもらったら見事なんですよ。「これは晴夫の成長の物語なんです」って伝えたら、それ以外のものをなるべく排除していって、そこから台本がグッとよくなって。大枠は原作があるから変わらないんですけど、見せたいものがすごくわかりやすくなりました。
それで最初のうちはうまく進んだんですけど、クライマックスのシーンと病室のシーンは、いいアイデアが全然出てこなくて、もう二転三転どころじゃないくらい話があっちこっち。どうしても小坂明子の「あなた」を使いたいシーンがあって、打ち合わせの段階だとすごく良さそうだったのに、書いてみるとどうも鼻につくんですよ。結局、しゃべってる内容とか、とる行動が大事なのに、それをどう見せるかってことばっかり考えちゃったんです。だから、途中でそういうのはもうやめようと。本筋はどういう物語で、主人公がどういう行動をとって何を話すか、そこをストレートに打ち出さなくちゃいけないなと気づきました。創作料理じゃなくて、おいしいハンバーグランチのほうが絶対いいですから。
脚本家はつらい商売
映画の仕事は全部楽しかったですけど、脚本家ってすっごいつらい商売なんだなと思いました。一番つらかった。脚本がいいか悪いかっていうのは、しっくりくるかこないかっていうくらいの感覚しかないじゃないですか。その判断が難しかったですね。実は16歳くらいのときにシナリオスクールみたいなところに通ってるんですよ。シナリオライターになりたかったわけじゃなくて、お笑いをやりたかったんだけど、お笑いやるのって勇気いるから、そういうものに携わりたいっていう思いで通ってたんですけど。脚本やってみてよかったのは、原作者が僕なんで、許可をとらなくても自分で話を変えられたところぐらいですね(笑)。
» 俳優ひとり
生まれてまもなく母に捨てられた39歳の売れないマジシャン晴夫(大泉洋)。今では父とも絶縁状態で、四畳半の自宅ではテレビで人気急上昇の後輩マジシャンを眺めるやるせない日々を送っている。そんな彼のもとに、父の訃報が突然もたらされた。晴夫は父の死と自分の惨めさを重ね合わせ、生きることの難しさをあらためて痛感する。そのとき青空から一筋の雷が放たれ、晴夫を直撃。気がつくと晴夫は40年前の浅草にタイムスリップしていた。そこで若き日の父(劇団ひとり)と母(柴咲コウ)に出会い、ひょんな流れから父とコンビを組んで一躍人気マジシャンとなるが……。
- キャスト:大泉洋 / 柴咲コウ / 劇団ひとり / 笹野高史 / 風間杜夫
- 監督・脚本:劇団ひとり
- 原作:劇団ひとり「青天の霹靂」(幻冬舎文庫)
- 脚本:橋部敦子
- 音楽:佐藤直紀
- 主題歌:Mr.Children「放たれる」
劇団ひとり(ゲキダンヒトリ)
1977年2月2日生まれ、千葉県出身。1993年、コンビでデビュー。2000年に解散後、劇団ひとりとしてピン芸人に。2006年には「陰日向に咲く」で小説家デビュー。2014年5月24日に初監督映画「青天の霹靂」が全国公開される。