岡野陽一「スクールJCA」インタビュー|人力舎は優しい事務所「とにかく台に座ってハンドルを回すことが大事」 (2/2)

「友達と遊んでお金もらう」という理想の仕事ができている

──人力舎に入って一番よかったことはなんでしょうか?

仕事の進め方が優しいです。「このスケジュールがきついんですけど……」という相談にもちゃんと乗ってくれる。あと事務所に置いてあるお菓子が食べ放題です(笑)。お茶も水も無料ですし、腹が減ってもたぶん生きていけます(笑)。居心地的にピリピリはしていないし、先輩が後輩におごるシステムもないです。すごくそこはいいかなと思います。

岡野陽一

──時代に合ってるのかもしれないですね。

あと芸人に対して「明るくならなきゃいけない」という先入観があると思うんですけど、そういうことも強制はされないです。本当に1人で誰ともしゃべらずにネタだけやっていてもいい。結構自由な気がします。

──では、岡野さんが芸人になって一番楽しかったことは?

もちろんウケたときがベタに楽しいです。それと最近は友達の芸人と一緒にやる仕事があります。ザ・マミィと僕の番組がメ~テレでありましたし、今も空気階段の鈴木もぐらとパチンコを打つ番組をやっています。「友達と遊ぶだけでお金をもらえる」という夢のような番組(笑)。昔からの理想でもあったので、芸人を始めて14年経って、そういうことができているのは最高です。

──それは何よりです。

「MCをやって天下獲ってやろう」という夢が、もともとそんなにないので、こういうのが一番いい。テレビで観ている芸人さんって楽しそうじゃないですか。「しかも金をもらえているらしいぞ」と。まさに今、少しその理想の状態になっています。

岡野陽一
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26歳でJCAに入って結果的にはよかった

──岡野さんはJCAに入学したのが26歳のときでした。少し遅めのスタートかなとも感じるのですが、年齢についてどんな思いがありますか?

たしかに僕の時代では遅いほうで、クラスの中で最年長でした。一番下はたぶん18歳。ただ、芸人って年齢じゃなく芸歴で考えるので、18歳も26歳も同じなんですよ。同期とはもちろんタメ口でしたし、そこは何も思わなかったです。

──26歳でJCAに入られた経緯を教えていただけますか?

高2のとき、めっちゃ面白かった奴に「吉本行こうぜ」と年賀状で誘ったんですけど、もう就職することが決まっていたんです。1人で吉本に行く根性はなかったので、僕も大学に入って。ちょうどそのときにパチンコと出会っちゃったんですよ。で、「おもしろ!」と思って。「パチンコを全部やってから芸人になろう」と決めて、一通りやりました。8年間、毎日休まず。それで「そろそろ芸人になろう」というのが26歳というタイミングだっただけで、戦略は特に何もなかったです。そのときたまたま募集していたのが人力舎でした。

──8年間、パチンコの日々だったんですね。

今思えば、それが結果的にはよかったです。仕事でもネタでもパチンコをしていますし、何が役に立つのかはわからないです。18歳から26歳の間は、一緒に出ているどの芸人よりもパチンコを打った自信がある。なんでも中途半端にやらずに、一生懸命にやるのがいいのかなと思います。もしパチンコをしないまま18歳で入ったら、今と違ってスーツを着て「M-1」を目指していた可能性はありますね。

岡野陽一
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狭いグループで着々とお笑い好きをやっていた学生時代

──岡野さんはJCAに入る前、学園祭など人前でネタを披露したことはありますか?

高校のときに1回だけ学園祭で、ネタというより、何かのコーナーのMCをやりました。高校の中でイケイケな軍団にいたわけではないんですけど、何か変なことをやりたかったんでしょうね。友人と一緒に立候補して、全身タイツを着て見よう見まねでやって、めっちゃスベったのを覚えてます(笑)。終わったあとに廊下で膝を抱えて三角座りしてしまいました。

──意外な学生時代の1コマですね。

松本人志さんの影響だと思うんですけど、当時はクラスの中にいる「明るい王道の人」みたいな人が一番面白くなくて、“影の組織”みたいなほうが面白かった。みんなの前で、というよりはその狭いグループの中で着々と“お笑い好き”をやっていました。

──そんな岡野さんがJCAに入ってから学んだことで、今でも役に立っているものはありますか?

いろんな授業があったんです。まずは腹式呼吸とか、声の出し方。あとはネタを実際に見せるとか、夏休みにあった出来事で面白エピソードトークをするとか。一通り全部やるんです。ダンスの授業もあったんですけど、あれはもっとちゃんとやっておけばよかったなと思います。

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──それはなぜでしょうか?

芸人になると、急にダンスをしなきゃいけない場面って、たまに来るんですよ。そういう流れになったら、やれたほうがいい。結局、僕は養成所に来る人に何を教えたいかっていうと、みんな「すぐ売れる」というプライドを持っているとは思うんですけど、まずはその鼻をへし折ってあげるのがすごく大事だと思うんです。「お前、地元で一番だったかもしんないけど面白くないから」って。それがないと、とんでもない奴に育つ。

──プライドはなくしたほうがいい?

はい。たとえば「ゴリラの真似をしろ」という授業を覚えているんですけど、特にウケもしないし、めっちゃきついですよ。ゴリラの仕事なんてそんなにないし(笑)。でも、あれを恥ずかしくなくできるようになるのが大事なんです。養成所に入っても、人前でしゃべれない人は同期にいっぱいいました。それでも卒業する頃にはできるようになる。たとえば卒業したあと、どんな会社に入ったとしても役に立つことなんじゃないかなと。確実に成長できるところですね。環境としてはなんの不足もないと思います。

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お笑いが好きなら1年間、楽しいのは保証します

──JCAに入る前に、やっておいたほうがいいことは何かありますか?

すごく変なことはやらなくてもいいと思います。僕のパチンコや借金みたいに、何か1個でも“名刺”はあったほうがわかりやすいかもしれないですけどね。でも、あんまり用意しなくていいとも思います。ネタ見せはたぶん毎月やれるし、そこで面白いことをやった奴のほうがカッコいい。養成所に入ってあとは身を任せて、それからネタとか話し方とかを勉強すればいい。

──入学金以外には準備しなくていいと。

バイトして貯金しておけばいいんじゃないですか。入学してからバイトをしないぶん、ネタも書けるだろうし。武器も養成所で見つけられる気がします。入学してから「お前の顔、面白いな」とか「お前すごく変だな」と気づかされる人、めっちゃ多いんですよ。キャラなんて自分で作ろうと思って作れないですから。もちろんネタは自分だけができることですけど、あとは素直に生きるのが一番だと思いますよ。とにかくお金を貯めておくことと、クレジットカードを作っておくことです(笑)。

──最後にこれからJCAに入ろうかどうか迷っている人へメッセージをお願いします。

結局自分が面白いことやればいいんです。そのために、養成所のことは本当にパチンコ台だと思ってもらっていい。台に座ることが大事で、座ってハンドルを回さないと当たりはしない。とにかく座ってハンドルを回しましょう、というだけです。あとはもう「台のみぞ知る」というか。

──お笑いとパチンコの二足のわらじを履かれているからこその説得力ですね。

それと、人力舎には真空ジェシカも吉住もザ・マミィもいるし、もっと上にはアンタッチャブルさんとか、いっぱい芸人がいるわけじゃないですか。芸人になって飯に誘えば、きっとみんなすぐ行きますよ。もしかしたら割り勘になるかもしれないですけど(笑)。距離が近いし、敷居が高くない。入学金はかかっちゃうけど、4カ月くらいバイトをがんばったら払えますよね。お笑いが好きだったら1年間、楽しいのは保証します。

岡野陽一

プロフィール

岡野陽一(オカノヨウイチ)

1981年11月29日生まれ。福井県出身。巨匠としてコンビで活動したあと、ピン芸人に。「R-1ぐらんぷり2019」決勝進出。2022年にピンで初の単独公演「岡野博覧会」を開催したほか、吉住との即席コンビ・最高の人間で「キングオブコント2022」決勝へ進出した。