養成所は誰とどう出会うのかが勝負
──ここからはスクールJCAのお話を聞かせてください。2015年度入学の24期生だったお二人がJCAを選ばれた理由は?
林田 おぎやはぎさんを筆頭に、すごく好きな芸人さんが人力舎に多くて、そもそも親近感がありました。養成所に人数が多いと埋もれちゃいそうだけど、人力舎はその点もちょうどよくて、埋もれずに見てもらえるだろうなとも思いました。
酒井 僕はいろんな養成所で迷ったときに、いろんなライブを見に行ってみたんです。人力舎の「バカ爆走!」では巨匠さん(以前岡野陽一が組んでいたコンビ)が「おじさんを作るおじさん」というネタを披露していて、それは「キングオブコント」決勝でやる前だったんですけど、腹ちぎれるくらい笑って。ウケ方も、会場の新宿Fu-の扉に亀裂が入ったんじゃないか、くらいにバッキバキにウケていて(笑)。しかもネタ中に、パチンコ、競馬新聞、焼酎といろいろ出てくるんですけど、僕の好きなものしか入っていない(笑)。すごすぎて、こんな芸人さんいるんだ、いいなここの事務所、と思っていたらそのあと「キングオブコント」決勝に行って、「ちゃんと面白い人が評価される大会なんだ」と。それで人力舎に入りたくてJCAにしました。
──いい縁に恵まれましたね。
酒井 それで今は岡野さんの弟みたいな感じで、金の借り方ばっかり教えてもらっているんですけど(笑)。
林田 最近どんどん似てきちゃって(笑)。
酒井 巨匠さんの解散後、やめないでくれてよかったです。
──林田さんと酒井さんは当時から仲がよかったですか?
酒井 いや、話したことはなかったです。
林田 地元とかで友達になる感じではない2人ですし、お互いにクラスの中の端と端にいて孤立していたかも(笑)。
酒井 どこにも所属していなかった。
林田 最初の頃はお互いにコンビを組めずに余っていました。
酒井 別々に組んで解散して。
──そんな2人が組んだのは入学してからどれくらい経った頃ですか?
酒井 2015年の春に入学して、組んだのは次の年の1月です。
林田 半年以上経ってからですね。僕らのときは9月の夏休み明けからライブが月1回あって、そこにすべてをぶつけなきゃいけなかった。なんとなく慣らしていって年が明けてからマネージャーさんが見に来て……という噂でした。僕らが組んだのはタイミングとしてはギリギリでした。
酒井 同じクラスに3、40人くらいいるとすると、コンビの組み合わせは何通りになるんですかね。その中で奇跡の1組ができたんじゃないかな?
林田 奇跡(笑)。
酒井 たまたま運がよかったのかなとも思っています。端っこにいてもチャンスはある。余り物同士みたいな感じでしたけど、そこから狙いを定めていけばいいんです。
林田 たしかに、養成所は誰とどう出会うのかが勝負だと思います。
酒井 そこが化学反応を起こしていければね。
林田 奇跡とか、化学反応とか! もう変な汗かいちゃう(笑)。
体を動かして初めてわかる
──JCA入学の前に、他人にネタを見せた経験はありますか?
酒井 マセキ芸能社さんのネタ見せに地元の幼なじみと行ったことはありました。JCAに入るって決める前、23の夏ですかね。そのネタ見せでは全然ウケなくて、これは一から学び直そうと思って。
林田 よく、くじけなかったよね。
──そのときもコントを?
酒井 いや、漫才をやっていました。
林田 JCAに入って組んで最初のネタも漫才でした。
酒井 漫才のツッコミをやりたかったんですよ。今はコントのボケですけど。24歳で入って、生きる場所や自分の合うスタイルがようやく見つかったんです。
──お二人の年齢も酒井さんが1歳上で、ちょうど合ったわけですね。
林田 全体的にJCAは大卒くらいが多い気がします。
酒井 あまり若くなくてもやれる場所ではあるかもしれないです。
──そんなJCAで「これは役に立った」という授業は?
酒井 ネタのダメ出しを講師の方がやってくださるんですけど、本当に的確で「あー、なるほどですね!」と。盲点を突いてくださる。ネタを見せて完成していく。ネタ作りに強くなっていくと思います。
林田 ネタ見せできるのはデカいです。あと不思議な授業も多いです。
酒井 動物になりきったり、「電線音頭」をやったり、ダンスをしたり。
林田 もっとダンスをやっときゃよかったと思います。ダンスのネタをするときに幅が広がってたかなと思います。
酒井 僕はダンスを真剣にやっていたんですけど、なんかすごくウケるなと。どうやら僕のダンスが変で、運動神経がこんなに悪いんだと、まわりが笑うくらい。そしたら「アメトーーク!」(テレビ朝日系)の「運動神経悪い芸人」につながって。あのとき自分で気づけた。
林田 「電線音頭」も、堂々とやることや動きの見せ方を考える場面なんでしょうかね。意外とコントの動作ひとつ取っても自分ではわからないので、一見地味っぽいマイムの授業とかでもあとで生きてくるかもしれないです。
──なるほど。
林田 体を動かしてみないとわからないですからね。お手本を真似してみて「できない」と気づくことが大事かもしれない。手取り足取り教えてくれるというよりは、考えるきっかけになる。そのあたりを投げかけてくれる授業が多かったです。
──ほかにはあるでしょうか?
林田 実践的な営業の授業もしてくれて、心得を学びました。「時間をちゃんと守る。どんなに自分たちが力不足でも舞台から早く降りない。10分の持ち時間なら何があっても歯を食いしばって10分やることだ」とか。「そんな世界があるんだ!」って思ったことを覚えています。
酒井 ライブに出る前にエピソードトークの授業もあったよね。
林田 そう、月1のライブの“中MC”とかの練習をしました。初めてのライブの前に「自分は次のライブでこういう話をします」と宣言して、まわりも聴く練習をして「その話ならもう少しここを広げたほうがいい」とか、本当に一歩目から教えてくれた。「そこまでやるんだ」というところまでやってくれました。
酒井 舞台という戦に出るための武器を持たせてくれます。
──JCAの学校としての環境はいかがですか?
酒井 めちゃくちゃいいですよ。稽古場もすごくネタをやりやすいです。
林田 あと、アンタッチャブル柴田さんとか上の先輩方が急に来てくれます。緊張感がありますけど、本物に触れる機会ですし、ネタを見てもらえるのは、かなりの強みだと思います。
酒井 すごくワクワクしますよ。青春だなって思う。ここに来たら同じ夢を追ってる人たちと一緒だったんで毎日めっちゃ楽しかったです。
林田 お笑いが好きな人しかいないので、それがめっちゃうれしかったです。ネタのDVDの話をしても「見たよ」っていう反応があってうれしいですし、学友との思い出のノリもあって楽しいです。
心折れてからが勝負
──お二人がプロの芸人になってから一番楽しかったことはなんでしょうか?
酒井 賞レースでウケたときです。「あ、通用するんだ」と思った瞬間。2年目くらいに当時のトリオで「キングオブコント2017」で準決勝に行ったときに「やべぇ! センスあるのかも?」って(笑)。「この世界で戦えるかも。行けそうな気がする」って思ったとき、めっちゃうれしかった。
林田 たしかに、ウケる場所が増えていくことがうれしくてしょうがないです。最初はJCAのネタ見せで始まって「あ、なんかウケるかも」と。ライブでも「ウケるかも」。そのあとデビューして「バカ爆走」に出て、よそのライブに出させてもらって、テレビで……と陣地を広げていくみたいな。一発じゃなかなか難しいんですけど、「ウケた!」という手応えを積み重ねていく作業が楽しいです。
酒井 あと、そうやって広がっていくとネタだけじゃなくて“人間”を見始めてくれる。どんどん自分を面白い人だと知ってくれる幅が無限に広がると思うんです。
林田 知ってもらえる、笑ってもらえる、を広げる作業をひたすらやる世界かもしれないです、お笑いって。
酒井 広がる快感。
林田 単独ライブをやって笑ってもらったりね。それを広げていくと、「飯塚さんが面白いって言ってくれているらしいよ」って、今までこちらが見ている側だった事務所の先輩から気づいてもらったり、別の事務所の人から声をかけられたりする。うれしいことばっかりです。
──JCAを選ぶ芸人志望の方にアドバイスはありますか?
酒井 最初のライブは震えるほど緊張するけど、そこで逃げないでほしい。スベって心折れてからが勝負。ここを耐えらなくて辞めていっちゃうのは、もったいないと思うんですよ。
林田 僕らもそうですけど、人力舎を志している人はちょっと内向的な人や繊細な人がたぶん多いので、想像以上にいろいろやることになりますよと。舞台に立つからには、そういうのはもちろん絶対必要な授業ですし。自意識の壁に押しつぶされそうな人にくじけてほしくないです。ぜひ壁を乗り越えてほしいです。
酒井 みんな怖いのは同じだから。イケイケに見せている人もきっとビビっていますからね。そこは心配しないでいい気はします。
林田 あと、夏休みにあまり長いこと実家に帰らないほうがいいです。冷静になっちゃうので(笑)。2日くらいで戻ってきてネタを書くといいです。
酒井 1本目に披露するネタはウケないし、それはしょうがないです。ウケた人は……僕くらいじゃないかな?(笑) スーパースターなんですかね?
林田 そこまで言われてはいないよ。
酒井 相方が選びたい放題なので、ウケるまでいろんな組み合わせを楽しめるのも養成所のいいところです。私を見てください。ネタはロクに書けなくても相方次第で輝けますから。
──親身になってのアドバイスありがとうございました。最後に、JCAに来るかどうか迷っている方の背中を押すようなメッセージをお願いします。
林田 人力舎はイメージに近い感じで、ギスギスもしていないですし、他人を蹴落としてやろうという感じもないと思うんです。クラスの中心にいる人だけでなく、教室の端っこでニヤニヤ面白いことを考えている人にも優しい空気がある。お笑い好きな人が集まってくるので、派手ではないけど教室の端っこでニヤニヤしている人が花開くところを個人的には見たいです。自分もどちらかというとそっち寄りなので、仲間が増えるとうれしい。あと、ネタをしっかりやっていくのは先輩たちからブレていないはずなので、ネタが好きな人にはいい事務所、ネタ見せがしっかりできる事務所だと思います。人数がそんなに多くないよさもありますね。丁寧に見てもらえますよ。
酒井 才能のあるなしは意外と関係ない気がします。才能は開花するものですから(笑)。何があるかわからないので、まずは1人で入ってきても大丈夫ですし、とにかく踏み込んでみて、1人でも粘ってみてほしいです。そしたらすげー相方が見つかって、すげーうまくいくこともある。諦めないことだと思います。
林田 ほかに人力舎ならではの特色はないかな?
酒井 僕自身が、まわりの友達とかに「才能ないよ」って言われても芸人をやりたかった。ギャンブルにも勝てないし、女性にもモテない。だけど負け犬根性といいますか、それが哀愁につながり、ネタにつながる。経験談として、ネタの作り方をちゃんと教えてもらえるので、自分の人生を乗せやすいんじゃないかな。深みがあるネタを作るってなったときにサポートしてくれる先生たちがいっぱいいるので、容赦なく利用しまくってほしいです。僕は自分のような人を応援したいです(笑)。
プロフィール
ザ・マミィ
左 / 林田洋平(ハヤシダヨウヘイ)
1992年9月10日生まれ。長崎県出身。
右 / 酒井貴士(サカイタカシ)
1991年6月1日生まれ。東京都出身。
共にスクールJCA24期生。プロダクション人力舎所属。トリオ時代を経て2018年にコンビ結成。「ツギクル芸人グランプリ2019」優勝。「キングオブコント」では2021年に初めてファイナリストとなり、準優勝した。