バカリズムが脚本を執筆し、井浦新とダブル主演するWOWOWオリジナルドラマ「殺意の道程(みちのり)」が11月9日(月)深夜にスタートする。
この作品は、父親を自殺に追い込んだ男・室岡義之(鶴見辰吾)に対し、息子の窪田一馬(井浦新)がいとこの吾妻満(バカリズム)と協力しながら完全犯罪による復讐を企てるサスペンスコメディ。シリアスなシーンもあるが、大半は復讐を実行するまでの“どうでもいい過程”が描かれている。
ナタリーでは「殺意の道程」の特集企画を展開中。すでに映画ナタリーで井浦新のソロインタビューを公開した。お笑いナタリーは本稿で、バカリズムと井浦の2ショットインタビュー、およびバカリズムのソロインタビューを届ける。
取材・文 / 成田邦洋 撮影 / 中川容邦
バカリズム:ヘアメイク / 鈴木海希子 スタイリング / 高橋めぐみ
井浦新:ヘアメイク / 山口朋子 スタイリング / 上野健太郎
シリアスな雰囲気でどうでもいいことをやっていたら面白い
──バカリズムさんがサスペンスコメディの脚本を書かれた経緯を教えていただけますか?
バカリズム 僕が脚本を書いたここ何作かは、日常的な世界を描いたものが続いていました。その前を振り返ると「素敵な選TAXI」みたいにSFチックなものがあったんですけど。そんな作品が続いたところで「そういえばサスペンスってあんまりやったことないな」って。知識もなく、どこかで苦手意識があったんですよ。それでも今までと違ったサスペンスの空気感、音楽、シリアスなトーンでどうでもいいことを描いたら面白いんじゃないか?と。緊張と緩和で笑いを作れますし。(数々の作品でタッグを組んできた)住田崇監督に「そういうのをやったら面白そうですよね?」って言ったら「面白そうですね」と。そこから話が進んでいきました。
──バカリズムさんと井浦新さんがこの作品でお会いする前のお互いのイメージや、お会いしてから「ここがイメージと違った」みたいな部分は?
バカリズム こういうサスペンスコメディをやるとなって、まだ脚本を書いていない企画書くらいの段階で、スタッフさんから井浦新さんの名前をキャスティング案として挙げていただいたんです。そのとき、今回の主人公の一馬のイメージにぴったりと合った。その話を聞いてから、もう一馬は井浦さんでしか考えられなくなっちゃって。まだ出演のオファーもしていない段階で初稿を上げるとき、すでに井浦さんのイメージで書いていたので、お会いするときには「一馬が来た!」という感覚でした(笑)。井浦さんのことはもちろん存じ上げていたので、実際お会いしてもイメージ通りというか、どちらかというと“一馬通り”というか(笑)。意外だったのは、井浦さんはコメディをやってこなかったらしいんですけど、やってみた印象は「あ、けっこうコメディが好きでこれまでも経験されてるのかな」というくらい、わりと面白いことに貪欲な方、面白いことが好きな方なんだなって。
井浦新 僕は最初にお話をいただいたとき、バカリズムさんの脚本で共演もするというので、即答でした。「絶対やらせてもらいたい」と。もちろんコントでも番組の司会でもバカリズムさんのことは僕の生活の中で見てきていますし、実際に「殺意の道程」の脚本が届いて読んで、その世界観もバカリズムさんそのものだったし、お会いしても、変わらずバカリズムさんなんですよね。クリエイターとしての脳が働いてるときは、人間なんだから違うところがあって当たり前だろうと思うんですけど、テレビで観るバカリズムさんと、現場で「はじめまして」となって共演して時間を過ごしていく中で知るバカリズムさんとでブレがないのが僕は素晴らしいなと思って。
バカリズム 本当ですか? 変わらないですかね?
井浦 これはすごいことだなと。言ってみると、昭和のスターのノリというか。「バカリズムさんはバカリズムさんだから、何?」みたいな。変わらないってすごいことなんですよね。誰と会っても変わらないし、人間のいいところも、ちょっと人間くさいところも全部見せてくれる。人としても素敵だなと思えたし、ありがたいことに同世代だったので、見てきたカルチャーや経験してきたことも近くて波長が合わせやすい。すぐにキャッチボールができる。それをいいように役にも投影できた。一緒にいることに気を使わないで作品をやっていける。「テレビではしゃべってるから芝居の現場ではまったくしゃべらないのかな」とか思ったりもしたんですけど、そんなことはなく、イメージ通りの方だったので本当にやりやすかったです。
監督の笑い声に背中を押される
──「殺意の道程」はサスペンスコメディですが、登場人物のやりとりや展開はコントに近い印象です。ストーリーは初めから思い浮かんでいたのでしょうか?
バカリズム もともと出発点が「笑わせたい」なんです。基本的に僕が書くものはすべてそう。どういう手段を使って笑わせようかというので出てきたのがサスペンスという枠で、そこから「じゃあどうしようか」となりました。このドラマで最初に出てきた考えが「シリアスな雰囲気でどうでもいいことをダラダラとやっていたら面白いよな」ということ。そこから「ストーリーはわりとありがちな復讐劇にしよう」とか「主人公の関係性はいとこ同士にしよう」とか、1つずつパズルをはめこんでいった感じです。ストーリー自体はひねったことをやろう、難解なことをやろうとはしていない。あくまでも土台でしかなく、笑いのためのフリとして考えていたので。最初はなんとなくで書き始めて、書いていくうちに徐々に着地点が見えてきました。サスペンスのトリックを考える作家さんとも今回お話させていただいて、いろんなお話を聞けて、それがすごく面白かったんですよ。そのお話を聞きながら「じゃあこうやってみようか」と徐々にアイデアが出てきて、最後に終わらせ方を考えたみたいな順番です。
井浦 犯罪の構成は相当研究されてましたよね?
バカリズム そうですね。作品の途中でトリックに関する知識を教えてもらうシーンがあるんですけど、それは僕が作家さんから聞いた話で(笑)。これは視聴者の方も聞いてて面白いんじゃないかなと。ちょっとした凶器に関することも、それ自体が情報として楽しかったので、そのまま入れました。一馬と満と同じように僕自身もサスペンスに関しては知識がなかったので、いろいろ気になることを質問していく。これ自体を当てはめられるなと。
──会話劇で長台詞もありますが、井浦さんはどのように乗り切られましたか?
井浦 とにかく2人で、もしくは3人、4人で淡々とバカバカしい会話をリズミカルにしていくことが目標でした。最初は自分が言いやすいようにやってみたんですけど、バカリズムさんの世界観とちょっとずれる。バカリズムさんが持っている「早い回転でキャッチボールし合う」というのを、このセリフたちでやったほうが何もせずとも面白くなるんだなと気づいて、そこを目指すようになっていきました。セリフは全部台本通りにやりたいという気持ちで、アドリブや自分の言いやすいように言葉を変えることはしていない。でも途中からバカリズムさんが「自分が言いやすいように変えていってください」と現場で言ってくださった。そうなるとこっちも「もう少し自由にやってみようかな」と。そうやっていくことで役が育っていきました。
──撮影中に笑ってしまってNGを出したことなどはありましたか?
バカリズム これは住田監督作品でよくあることなんですけど、住田監督の笑い声が入っちゃうんですよ(笑)。バラエティのディレクターもしている方だから現場でガンガン笑うんです。リハーサルではこっちのモチベーションも上がるし、ウケてると「今ちゃんと面白いことができてるんだな」という確認にもなるからうれしいし気持ちいいんですけど。何回か音声さんから「監督の笑い声が入った」という指摘があって(笑)。そこは住田さんらしい。いい部分でもあるし悪い部分もある。すごく笑うでしょう?
井浦 すごく笑う。監督の笑い声が本番中に聞こえてくるというのは、僕にとっては初めての体験でした。正直それは「オッケーだよ」ということにも感じるんです。監督がこんなに笑ってくれてる。全然笑わそうとしていなくて必死なのに笑い声が聞こえてきて、「あ、このまま行けってことだな」と背中を押してくれました。
バカリズム 基本、笑ってる。これまでに僕が住田さんとやってきた作品も、ちゃんと確認すると笑い声がちょいちょい入ってると思います。住田さんが一番笑ってます。
井浦 笑いをこらえるのが必死だったというシーンは多すぎますね。
バカリズム 笑っちゃいけないところで笑うこともあったんですけど、それがリアルであれば基本的には大丈夫だと思います。
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井浦さんはすごくはしゃいでくれた