さらば青春の光が今年5月から8月にかけて開催した単独ライブツアー「ラッキー7」の東京凱旋公演の様子を収めたDVDが11月20日に発売される。
東京、大阪、福岡、宮城、石川、京都、愛媛、愛知、北海道の9都市で全35公演を実施した同ツアーでは、過去最多となる3万人を動員した。毎年、明確な数字を目標に掲げて着実に達成してきたさらば。一方で「数で上を目指し続けてもキリがない」とも語る2人はどんな未来を見据えているのか? バラエティに富んだ骨太な7本のコントの誕生経緯とあわせて、このインタビューで紐解く。
取材・文 / 狩野有理撮影 / 多田悟
この1年は自分たちよりひょうろくの活躍に驚き
──今年もDVD発売の季節がやってきました。前作リリースから1年、さらば青春の光としての活動をまず振り返っていただけますか?
森田 いやー、業績が好調ですね!(笑) 銀行がお金を貸してくれるくらいの信用は十分得られるようになったんじゃないでしょうか。忙しさ的には去年とそんなに変わらずですが、多少コンビとしての仕事も増えている気がしますね。
──お二人揃って出る場所が増えている?
森田 そうですね。ブクロが「ラヴィット!」(TBS)に出られるようになったのが大きいです(笑)。
東ブクロ 去年よりは仕事量も増えて、ありがたくやらせていただいてますけど、まあでも今年は自分たちよりひょうろくじゃないですか? ひょうろくの活躍を間近で見せつけられた感じはありますね。
──さらばのYouTubeを足がかりに売れていったひょうろくさんのご活躍をお二人はどう見ていますか?
森田 いや、本当に腹立たしいですよ(笑)。ドラマにCMに、どこまで行くんでしょうね? 今後レッドカーペットを歩いててもおかしくないよなってちょっと思いますもん。
──海外の映画賞を受賞して。
森田 そうそう。真田広之さんとかと一緒に歩いていても違和感がないくらいのところまで来てますよ。
──東ブクロさんは前回の取材で、ご自身のゴルフ番組がないことに憤っていましたが。
東ブクロ ちょこちょこゴルフ番組に呼んでもらうことは増えて、そこでスタッフさんが「地方で(東ブクロの冠番組を)取ってきます!」って言って具体的に動き出しそうな企画もあったんですけど、結局進展なし。なので、まだ憤ってますね。
森田 「やりましょう!」って言っていたスタッフも寸前のところで冷静になるんでしょうね(笑)。
東ブクロ 頓挫したのが2、3個あるので、まあ「まだ今年じゃなかったんかな」と思っておきます。
3万人も俺たちを好きな人がいるんや
──さて今回の単独ライブ「ラッキー7」ツアーでは、過去最大となる9都市35公演を巡りました。千秋楽のエンディングを迎えたときの心境を教えてください。
森田 達成感はすごかったですね。「ここまで来たか」と。
東ブクロ 途中から記憶がないくらいの感覚でしたよ。コントやって、エンディングやって、また明日もあるのか、の繰り返しだったので。まあでも、どの会場へ行っても満席だったのは気持ちよかったです。ありがたい限り。
森田 おそらく来年の公演数はもうちょっと増えると思うので、ブクロはうんざりしてるんじゃないですか(笑)。
東ブクロ もう旅一座みたいになってます。
森田 でも、やればやるほど強くなるからな、ネタが。
──チケットは即完、3万人を動員しました。この数字、率直にいかがですか?
森田 ピンと来ないですね。「3万人も俺たちを好きな人がいるんや」もあるし、YouTubeチャンネル登録者が130万人いて、「3万人しか来ないん?」もあります(笑)。でも、この数字はどこかで止まるもんやと思いますし、数で上を目指していたらキリがない。コントの見え方を考えるとそこまで大きな会場ではやれないので、単純に「じゃあ次は10万人で」というわけにもいかないじゃないですか。
──では、数ではない目標を立てている?
森田 もちろん動員のことも考えてはいますけど、次はもっと早くにネタを上げようという話はしています。いや、毎年しているんですけどね(笑)。やしろさん(演出を担当する家城啓之)も、ネタを早くに上げたらもっと本気出せると思うんですよ。今回のツアーの打ち上げで決めたんですけど、早い時期から週1回くらいのペースで定期的に集まってネタ打ち(ネタ打ち合わせ)をやろうということになって。今日の朝もやってきました。過去最速でネタを上げられたらどんな単独になるんだろうっていうのは見てみたいです。
──ライブ全体のクオリティを進化させたい。
森田 そうですね。強い設定を出すのはもちろんですけど、演出の部分で進化の余地がありそうです。
東ブクロ発案の設定が2本のコントに
──個人的な感想ですが、今回の単独ライブは切れ味鋭く強固なネタが揃っている印象でした。
森田 でもいつも通り、いや、今までで一番産みの苦しみはあったと思います。
──そうだったんですね。前回の「すご六」が今までになく“難産”だったとおっしゃっていましたが。
森田 年々苦しんでます。設定は出たけど物理的に再現が難しいからまた新しく作らないといけない、ということも今回は多かった。公演が始まってからもけっこう揉みました。
東ブクロ よっぽど苦しんだんやろうなと思ったのが、僕に設定を聞いてきたんですよ。去年はそんなことはなかったんですけど。
──東ブクロさんが出した設定のネタはどれですか?
森田 「没後10年」です。
東ブクロ ただ、設定が決まってから完成するまで時間がかかったみたいで。自分が出してへん設定やから、余計に作りにくかったんでしょうね。
森田 やってみたらウケが弱かったんですよ。ツアーの途中、「これもうやめる?」「差し替えたほうがいいのか?」と考える時期もありました。全国回ってブラッシュアップして、後半からだんだんウケがよくなってきたネタですね。あとは、「若菜まもる」もブクロです。ラジオでブクロが話していたことを、そのままコントにしました。
東ブクロ 僕は「コントにしよう」と言ったわけでもなく、気づいたらコントになっていた、という感じですけど(笑)。
森田 でも、これもやめるか続けるか、めっちゃギリギリまで悩むネタになりました。
各コント振り返り
「ゴッドハンド」
腰痛がひどく、“ゴッドハンド”と呼ばれるマッサージ店に駆け込んだサラリーマン。施術が始まり、眠りから覚めるとすっかり痛みがなくなっていることに感激するが、そのカラクリを知ってしまい……。
──東ブクロさんがゴッドハンドと呼ばれる先生を演じています。森田さん扮するお客さんに淡々と理詰めしていく様子が狂気じみているというキャラクターです。
東ブクロ フリが長いので、ネタバラシの部分まではけっこう怖いネタではありましたね。本性がわかる前とあとでこの先生の見え方がけっこう違ってくるんですが、そこは違和感が出ないように、フリの段階から多少気にしながらやりました。
森田 ゆったりとした雰囲気で始まって、お客さんがしっかり見てくれるので本ネタ1本目にふさわしいコントになりました。ただ、ブクロが難しい薬の成分をよどみなく言う場面があって、ツアーの途中でちょっとセリフを足そうということになったんですけど、それを誰がブクロに伝えるか、という問題が発生して(笑)。言ったら機嫌が悪くなるのは目に見えているので、「俺怖いわ、ナベちゃん(作家の渡辺佑欣)言って!」って押し付けあってました。
──その変更を東ブクロさんはすんなり受け入れられたんですか?
東ブクロ もちろん言わなあかんのでやりましたけど、「直前に言われてもできへんで?」っていう気持ちはありましたよ。
森田 だから、一応その日には伝えたけど「やるのは明日からにしよか?」とか、ご機嫌は伺ってました(笑)。
「イライラ」
新しい営業所に異動してきた平川は、禁煙中でイライラしている。よかれと思って話しかけてくれる同僚にきつく当たっては「ごめん!」と謝るのだが、タバコを吸いたい気持ちを抑えられない。
──森田さんの大立ち回りが楽しめるコントです。
森田 これを2本目にしたことが一番の後悔です(笑)。ただただ僕が疲れるネタ。憂鬱でしたもん、このネタの前。「これからめっちゃ動かなあかんねや」って。でも、自分の中ではライトなネタだと思っていたから、ツアーを通してこんなにウケるネタになったのは意外ではありましたね。
東ブクロ 「今日ちょっと雰囲気的に重いんかな?」と思っても、このネタでウケるから気持ち的には楽でした。森田が動けば動くほどウケますしね。僕はほぼ休憩の時間なので(笑)。
森田 ただ、喫煙者の方はこのネタ見たあとめっちゃタバコ吸いたくなったと言っていました。最後のネタやったら終演後に気持ちよく吸えるんでしょうけど、2本目だったので地獄やったと思いますね(笑)。
「没後10年」
遺書を残して死んだはずの画家は、田舎町でひっそりと暮らしていた。そこへ美大時代の友人が訪ねてきて、今まで何をしていたのか、なぜ姿を消したのか、空白の10年について聞く。
──先ほど苦しんだとおっしゃっていたコントですが、舞台でやってみた感触はどうでしたか?
森田 ネタバラシがすごく難しいネタやったんですよ。設定が伝わればちゃんと面白いはずだから、途中からはバラシで笑いを取ろうと考えるのはやめよう、というモードになりました。
──1つひとつの言葉のチョイスにもこだわりを感じました。
森田 「今日はこのワードを入れてみよう」というのはこれが一番試行錯誤したと思います。「没後10年」という設定を残して、登場人物の関係性を画家と同級生から画家と画商の人に変えようか、とかも考えたりしていました。最初、設定の細部にこだわりすぎていたんですよ。だいたいどのコントでも、一応「こいつがどういう人生歩んできたのか」という裏設定を考えているんですけど、このネタの場合、「美大に入り直している」とか、地元はどこなのかとか、細部の設定までわりとセリフにしていて。途中からそれを取っ払って、シンプルにしていきました。
東ブクロ ほかのコントに比べると会話劇という感じだし、雰囲気のあるネタだから、結果的に単独全体の中のアクセントになったと思いますね。
──東ブクロさんはこの設定を出して、台本になるまでどの程度関わっているんですか?
東ブクロ 僕は設定を送っただけなので、そこからのことは知らないです。設定が採用されたかどうかもわからへんし、台本が上がってきて初めて「あ、これやるんや」と把握しました。
──自分が出したアイデアがどうなったのか気になりませんか?
森田 そのへんがブクロでしょ? 何も思わないんですよ(笑)。
東ブクロ いや、ボツならボツでいいんでね。森田が考えやすいほうがいいと思うので。「僕はこういうの思いつきましたよ」というのを送ったまでで。