ディズニー&ピクサー最新作「2分の1の魔法」が全国の劇場で8月21日に公開される。この作品で描かれるのは“魔法が消えかけた世界”に暮らす内気な少年・イアンと陽気な兄・バーリーの冒険だ。イアンの願いは生まれる前に亡くなった父に会うこと。魔法に失敗して“半分”の足だけの姿で復活させてしまった父親を完全によみがえらせるため、兄弟は旅に出るのだが……。
「2分の1の魔法」の公開を記念し、ナタリーは映画、音楽、お笑いの3ジャンルで特集を展開中。お笑いナタリーでは千原ジュニアにひと足先に鑑賞してもらい、感想を尋ねた。イアンとバーリーの関係性には、ジュニアとせいじの千原兄弟と重なるところも多い。ジュニアが振り返る兄・せいじとの歩みや父との思い出、「初めてせいじに薦めようと思った」というこの作品の魅力とは。
取材・文 / 成田邦洋 撮影 / 小坂茂雄
お笑いという世界での冒険にせいじが誘ってくれたから今がある
──試写会で一足早くご覧いただきました。率直なご感想は?
感動のアドベンチャーで、めちゃくちゃ面白かったです。映画を観て、初めてせいじに薦めようかなと思いました(笑)。
──イアンとバーリーの関係性が千原兄弟にも重なるストーリーかと思います。
いくつか重なる部分がありました。すごくせいじを感じてしまいました(笑)。僕もこの世界に、せいじに引っ張られて入ってきましたけど、そこに最初からちゃんとした計算があったかと言えば、ないですし。お笑いという世界での冒険にせいじが誘ってくれたから今がある、みたいなところはあります。
──バーリーが学校の前で友達と一緒にいるイアンを車で連れ出すシーンは、まるでせいじさんがジュニアさんをお笑いに誘ったエピソードのようです。
そうなんですよ。僕が進学校に入学した中学1年のとき、まだ友達にもなっていない「今日からよろしくね」くらいの同級生と敬語で話しながら一緒に歩いていたら、せいじが向こうからヤンチャな友達と歩いてきたことがあって。「よお!」とかって声かけてきたんです。僕の同級生はドン引きしてたんですけど(笑)。そういうシーンも思い出しました。
──ジュニアさんはよくせいじさんを「ガサツ」や「残念」といった言葉で表現されていますよね。
ただ、せいじもガサツはガサツでしょうけど、それがなければ僕みたいな15歳の子供を吉本に入れようとは思わへんでしょう。「大丈夫や! 行け行け!」みたいな、なんの根拠もないのに100%の自信を持って背中を押してくれるのは、ガサツだからこそです(笑)。
──「2分の1の魔法」のイアンは16歳になったばかりで、弱気な性格が描かれています。ジュニアさんも芸人になったのは15歳の頃。どこか共感する部分はありますか?
僕は弱いところを見せないように、すごく目を尖らせて、ガードをがっちり固めて、みたいなイアンとは逆の表現方法でビクついていた感じです。NSC(吉本総合芸能学院)に入ったら全員が年上で、その頃の3つ、4つ歳が離れてるのって、だいぶ違いますから。ビクつき方がストレートなものとはちょっと違って、歪んでいました。
──そんなジュニアさんが芸人になってから、せいじさんに救われたことはありましたか?
僕がやることに対して絶対に「ノー」とは言わないことです。それはネタのワンフレーズであろうと、仕事のことであろうと。僕が「やる」って言ったら「わかった」という感じです。
父親と近所の神社へ写生しに行って、絵が描けるようになった
──「2分の1の魔法」には兄弟と両親の関係も描かれています。この家族について何か思うところはありましたか?
僕がまだ生まれてなかった頃のせいじの数少ない記憶について話を聞いたとき、たまにですけど「うわっ!」と思うことがあって、それを思い出しました。せいじは僕が生まれてきたときのことも覚えているらしいんですよ。
──そうなんですか! ジュニアさんが生まれたとき、せいじさんは4歳くらい。具体的にどんなことを覚えているとお聞きになりましたか?
なんかね、僕は体があんまりよくなくて、生まれてすぐに手術したりとかいろいろと大変だったので、そういうことを感じているらしくて。それで今まで、やりたいことをやらせてくれている感じも、もしかしたらあるのかもね。
──せいじさんが「ノー」とは言わないのもそういうことが理由なのかもしれませんね。では、ジュニアさんのお父様はどんな方なのでしょうか。
うちは、どっちかというと放任主義で、やりたいことをやったらいいという感じです。男兄弟2人で、2人とも吉本で芸人をやる、っていうのは親にしたら思うところもあるでしょうけど。今、15歳の男の子を見てたら、子供ですもんね。そんな子供がカバンひとつで家を出て、1人暮らし。最初はせいじと2人暮らしでした。それに納得して芸人の世界へ行かせてくれるというのは寛容な親やと思います。
──この作品では、イアンが父とやりたいことをチェックしていくシーンで、息子からの父への思いがしみじみと伝わってきます。ジュニアさんのお父様との間に思い出深いことがあれば教えていただけますか?
すごく覚えているのは、僕が小学2年生くらいのときにあんまり絵を描くのがうまくなくて。親父は一級建築士で、ある種“絵描き”やから、近所の神社へ写生しに行きました。僕が絵がうまくないのがイヤやったんでしょうかね。「こんな感じで描くねん」と言われたときに、なんて言うんでしょう、「薄い膜が破れる」みたいな気持ちになりました。そこから絵が描けるようになって、「絵ってこうやって描いたらええんや」と。ちょっとしたきっかけなんですけど、突き抜けた感があって、あのときに絵の具を持って神社に連れて行ってくれてなかったら絵は描けていないような気がします。
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